猫耳と天才
ここは魔術で栄えるとある国。
魔道具工房に、とある女職人がいた。
「ふふふ……とうとう出来たわ! 私って天才なのかしら?」
この一週間、食う間も寝る間も風呂さえも惜しんで作り上げた魔道具、その名も『耳』。カチューシャタイプの猫耳である。
安直な名前だが、近距離で対面した相手の本心が聞こえるという歴とした魔道具である。
お年頃の女は、幼馴染みの男の本心を知りたかった。
いい加減、一歩どころか三段くらい跳んで一生ものの深い関係に進みたかったが、怖くて聞けなかった。
というわけで、男の本心が聞ける魔道具を開発しようと思い立ち、見事成功したのである。
ノックもそこそこに工房のドアが開けられた。
「よう、お疲れさん。呼び出してどうし……み゛ゃ!?」
男は変な声を出して固まった。
(なんで猫耳!?)
男の混乱した声が女の『耳』に入ってきた。『耳』の機能は正常だ。
早々に目的を果たすため、女は男に問いかけた。
「あのね、来てもらったのは、私のことをどう思ってるのか聞きたくて。……女としてなんだけど」
(え、すげぇ舐めたいけど?)
「は?」
(アホ面も可愛いなぁ~……半開きの口に舌を入れたら)「わあ!?」
女は大声で遮ったが、男は何も喋っていない。『耳』が拾っている男の本心である。
(コイツ、誘ってんのか?)
「誘って……? ち、違うし!!」
「は? 俺、何も言ってないけど?」
「あ」
一瞬の沈黙の後、男の目が光った。
こうなっては逃げられないことを女はよく知っていた。
洗いざらい、全てを喋らされた。
「そんな道具がなくても言う」
(服を剥いでも猫耳はそのままにしよう)
「ちゃんと伝える」
(昔からお前に触れたかった)
「お前が好きだ! 結婚してくれ!!」
(舐めたいのもどんだけ我慢してきたか……! お前は俺を煽る天才だからな!?)
「副音声がダイレクトスケベ過ぎてホンットに邪魔なんだけど!?」
女は涙目で抗議したが、翌朝まで『耳』が外されることはなかった。
「好き」
(猫耳最高~まじ可愛い~まじ幸せ~)
何度も聞こえるその声に、女の頬は緩みっぱなしで、猫耳を外そうとする手は止まってしまうのだった。
ちなみに後日、女は試作二号となる犬耳を王宮に提出した。
王宮は(人としての何かを諦めて)国の大事な場面ほど『耳』を着用するようになり、案外すんなりと国中に浸透していった。
『ケモ耳を着ける』=『厳粛な場、本気を出すこと』
そんな言葉がこの国の辞書に載るのは、割とすぐ先の話。
読んでくださり、ありがとうございました。
お互い好きなのに、関係が壊れるのが怖くて二の足を踏んでいた二人のハッピーなお話でした。
その後、『耳』は猫耳、犬耳、クマ耳、キツネ耳、ウサギ耳……と種類を増やし、まとめてケモ耳と呼ばれるようになりました。
この国の王様はゴツい武闘派マッチョ。その王様のお気に入りはクマ耳です。(似合いすぎ)
裁判長はウサギ耳……。
1000文字、難しかった!!
( 。゜Д゜。)
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