11.翻弄
「後、どれぐらいだ? どれぐらいで第一戦隊と合流できる?」
ヴァルマはいらいらした様子でオペレーターに尋ねる。
「このまま行きますと後2時間程で合流できると思われます」
「2時間・・・・」
ヴァルマは気が気ではなかった。既にカロディール星系防衛艦隊1,100隻のうち、200隻を命令違反で失っている。これ以上ロレンツォに届ける艦を失えば、司令官としてどんな処分を受けるか分からなかった。しかし既に艦隊は秒速5,000kmで進んでおり、これ以上速度を上げれば陣形が崩れかねない。合流さえできれば・・・・合流さえできれば敵はわずかコルベット80隻にフリゲート8隻程だ。数の力で圧倒できるだろう。しかし、ヴァルマのその想念は戦術AIの声で突如中断された。
「前方より大型フリゲート25隻、急速接近してきます」
「なに!?」
驚くヴァルマを尻目に、2光秒の距離まで急速接近したラーション指揮の重巡戦隊は第三、第四戦隊に対して荷電粒子砲による砲撃を始めた。第一撃だけで20隻以上がなす術もなく撃破される。慌ててカロディール艦隊は戦闘時標準速度である秒速3,000kmまで減速した。
「司令官、ご指示を!」
バクリシュナンの声に一瞬躊躇った後、ヴァルマは唸り声を上げた。
「第三、第四戦隊は散開し、敵部隊を両側から包み込め! なに敵は少数だ。包囲した上で近接戦に持ち込め!」
しかしカロディールのコルベット戦隊が再び増速しつつ半円形になり包囲の動きをみせるとすぐ、テラフォードの重巡戦隊も扇形に陣形を変えつつ後退に移る。第三、第四戦隊のコルベットは主砲レーザー砲の射程内である1光秒まで距離を詰めようとするが、その間にもラーション戦隊の狙いすました砲撃で1隻、また1隻と撃破されていく。
「司令官、ミサイル発射の許可を!」
バクリシュナンが叫ぶが、ヴァルマは逡巡した。前方には我が方の警戒隊を包囲しているという敵部隊がいる。他方、補給艦部隊は出航を拒否している第五戦隊に含まれている。ここでミサイルを撃ち尽くしてしまったら、敵主力部隊との戦いでミサイル不足になりかねない。彼が逡巡している間にも、第三、第四戦隊は敵を追ってどんどん遠ざかっていく。いかん、これでは両戦隊に指示が出せなくなる。そう思ってヴァルマが本隊にも増速を命じようとした時、再び戦術AIの無情な声が艦橋に響いた。
「後方より小型艇多数、急速接近中」
「しまった!」
ヴァルマの脳裏に突然、隣接星系モートンにおける戦いについての報告が蘇った。テラフォード艦隊が多数の“小型艇”を使ってブランデンブルグ辺境伯軍ロレンツォ支隊を撃破したという話だ。事態の急速な展開に気を取られ忘れていた。敵の大型フリゲートはただの囮だ。テラフォード艦隊においてはこの“小型艇”を繰り出してくる“大型輸送艦”こそが主力なのだ。
ヴァルマの本隊を後方から急襲したのはハルキ・タイラーとボブ・ドナヒュー率いるスティングレー攻撃機隊400機である。そのすぐ後から第三駆逐隊22隻もついてきている。モートン沖会戦と同じく、まずは無人の200機が発射した対レーダーミサイル(ARM)が母機のスピードにも乗ってヴァルマ艦隊本隊に襲いかかる。対空レーザー砲の迎撃をかいくぐったARMが次々と命中し、瞬く間に本隊に所属するフリゲートの半数以上が対空レーダーを破壊されてしまった。
対空レーザー砲が無力化された直後に、第三駆逐隊が発射した対艦ミサイル(ASSM)800発、ドライグ級空母が発射したロングランス400発の計1,200発がカロディール艦隊に襲いかかり、次々とフリゲートの艦体に吸い込まれていく。一方、タイラーとドナヒューの攻撃機隊はカロディール艦隊の懐に飛び込んで近距離からそのASSM-S“ピルム”を叩きこんでいった。
ヴァルマが慌てて前方のコルベット部隊を呼び戻し、なんとか艦隊の防御態勢を整えた時には、テラフォード艦隊はその電撃的な襲撃を終え影も形もなくなっていた。この一撃で、ヴァルマ艦隊本隊は100隻以上が大小の被害を受け、そのうち約60隻はメインエンジンを破壊されて航行不能に陥った。それだけでなく、第三、第四戦隊もラーション戦隊との交戦で計42隻を失っている。




