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New Space Scrolls Ⅱ-名もなき者達の詩  作者: 乃木了一
第四章 コルレンツ
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12.再発見

「准将、ここからどうなさるおつもりですか? 既にフォンテイン、ダゴンワースどちらの方面に向けたワープも不可能と思われますが・・・・」

落ち着かなげにディートマーが尋ねる。「何かお考えがある、とのことでしたが」

惑星フルラッハを脱出したアマルフィ号は既に交戦状態に入っていたコルレンツ防衛艦隊300隻と合流、そのまま敵の追撃を受けつつ星系外縁へと高速で向かった。しかしながら惑星フルラッハと星系外縁部のちょうど中間地点にあるアステロイド・ベルトまで来た時、アマルフィ号は艦隊から離れ独り小惑星地帯の中へ身を隠したのである。「航海ノ無事ヲ祈ル」艦橋からそう発光信号を発しつつ去っていく防衛艦隊を見送ったのが2時間前、それを追撃する敵艦隊がここを通過したのが1時間半前のことだった。

敵艦隊は小惑星の1つにピタリと密着したアマルフィ号に気付くこともなく、まっすぐ星系外縁のワープ・ポイントをめざして突進していった。彼らの目には、コルレンツ艦隊は星系防衛をあきらめダゴンワースに集結中の帝国艦隊に合流を目指しているようにみえただろう。しかし防衛艦隊には、星系外縁に到着したらそこで降伏するよう指示してある。いずれにしろワープ・ポイント到着前には速度を落とさざるを得ず、そこで敵艦隊に補足されるのは必至だからだ。そこでダゴンワースへのワープ・ポイントは封鎖されることになるだろう。他方、フォンテインは既にオクシタンの勢力圏内だ。つまりコルレンツ星系から脱出する道はもう塞がれてしまったといってよかった。

先程からずっと何やら航宙図を調べていたクリーガーはディートマーの問いかけに顔を上げると、うん、と頷いて艦橋正面のスクリーンの画面を切り替えた。

「これは・・・・?」

見慣れない航宙図にディートマーは首を傾げる。直ぐにはそれに答えず、クリーガーは椅子に深く腰掛けて腹の前で手の指を組み合わせた。

「以前、といっても10年以上前のことだが、この付近の星域、ダゴンワース、コルレンツ、トラム、ポルト・カシアスで宙族掃討任務に就いたことがある」

突然の昔話に一同は戸惑っている。しかし彼らの怪訝な顔に構わずクリーガーは続ける。

「しかし、その任務のうちいくつかは失敗した。奴らを追い詰め、ワープ・ポイントに網を張っていたにもかかわらず、結局奴らは現れなかった」

「今の我々のようにアステロイド・ベルトに隠れていた、とかですか?」

クリーガーは首を振る。

「いや、もちろんその可能性も考えて捜索したさ。しかし奴らはいなかった。それこそ、まるで幽霊のように“搔き消えちまった”んだ」

ディートマーとエルフリーデは途方に暮れたように顔を見合わせる。しかしハンスは話の先に思い至ったらしくニヤリと笑った。

「つまり、准将や帝国軍が知らないワープ・ルートが別にあった、ということですな?」

「未知のワープ・ルートですって・・・・? そんなこと、コルレンツでも聞いたことがないわ」

「いや、ハンスの言う通りだ。あるだろう? コルレンツやトラム、ポルト・カシアスから通常のワープ可能距離内にあるにもかかわらず航宙図に乗っていない、いや消されちまった星系が」

クリーガーの言葉にディートマーがはっ、と目を見開く。驚愕の表情だ。

「もしかして・・・・地球・・・・ですか?」

クリーガーは大きく頷いた。人類揺籃の地であり先の大戦勃発まで人類社会の中心だった地球は、銀河の星々に自らを基点とした座標を与え航宙図を作った。大戦終了まではルフトヴァルデを含む全ての星系がその航宙図を使用していたのである。

しかし大戦に勝利した帝国は、自らの首都星ルフトヴァルデを基点として全ての星系の座標を設定し直し新たな航宙図を作成した。今日、テラフォードを含め人類社会の全てが恒星間航行を行うにあたってその帝国航宙図を利用している。そして核ミサイル攻撃によって人類社会が“消滅”した地球はその航宙図には載っていない。そこを訪れる必要性がないからだ。大戦終了後200年が経ち、いつしか殆どの人は地球と言う星があったことすら忘れかけている。宙族はそれを利用しているのではないか、とクリーガーは言っているわけだ。今、自分達もそれを使おうとクリーガーは提案しているのだ。

「しかし、どうやってその地球の座標を調べるのです? 正確な座標が分からなければワープもできませんよ」

ディートマーの問いに、クリーガーはニヤリと笑って目の前のテーブルに乗っていたものを取り上げ振って見せた。随分と古色蒼然とした趣の本だ。

「それは・・・・!」

エルフリーデが小さく声を上げたのにクリーガーは目をやり軽く頷いた。

「そう、君の父上の書棚から戴いてきた本だ。コルレンツ在住だった人物が様々な星を訪ねた様子を書き留めた旅行記さ。250年前、つまり大戦勃発前にね。その中に、」クリーガーはページを繰り、目当ての箇所を見つけるとトントンと人差し指で叩いた。

「地球を訪れた時のことも書いてある。几帳面で天文学の素養があった人物らしく、コルレンツから見た地球の方角と、そして重要なことだがコルレンツから地球に渡る際のワープ・ポイントについての記述もあった」

「それがこの航宙図なのですね!」

目を輝かせるエルフリーデとは対照的に、ディートマーはまだ腑に落ちない顔だ。

「しかし、そんな古い時代の記述が信用できるのですか?」

ワープには非常に正確な座標入力が必要で、少しでも間違って強行すれば簡単に宇宙の藻屑となってしまう。実際に年に数回はそれが原因とみられる事故が起きている。ディートマーの心配顔にクリーガーは肩をすくめた。

「一応、俺も昨日からいろいろと計算しシミュレーションしてみて作ったのがこの航宙図だが、こればっかりはやってみないと何とも言えんな。ただ、宙族が“消えちまう”理由はこれ以外に思いつかないし、だとすれば実際に今でもこのルートを使ってコルレンツから地球に行っている連中がいるということだろうな」

そこでクリーガーは一同を見回した。

「さて、どうする? ディートマーが言ったように、我々にはダゴンワースにもフォンテインにも行く道は残されていない。一か八か地球に行くこのルートを試してみるか、オクシタンに降伏するか、そろそろ決めようじゃないか」

艦橋内に重い沈黙が落ちる。しかししばらくして、俯いていたエルフリーデが顔を上げた。決然とした顔だ。カテリーナの肩にまわした手に力を込めながら言う。

「地球に行きましょう。ここでおめおめとオクシタンに降伏してフルラッハに戻っては、父上にも、そしてディートマーを送って下さったローデスブルクの伯父様にも顔向けできません」


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