4.難題
クリーガーとディートマー、そしてクリーガーの従者ハンス・リーデル曹長はローデスブルク伯爵から提供された自家用高速クルーザー“アマルフィ”号の船橋で思い思いの姿勢で椅子に腰かけ、中央スクリーンを眺めている。スクリーンに映っているのはフォンテイン星系での戦況を伝えるニュースだ。
エル・ガーニー艦隊の攻撃の前にフォンテイン星系艦隊は早々に壊滅したものの、地上部隊は降伏を拒否し戦闘を続けている。しかし既に首都は陥落しており、残存部隊は山岳地帯に拠って抵抗を続けているがおそらくあと数日ももたないだろう。一方、オクシタンのエル・ガーニー艦隊の偵察部隊がクローゼに現れたとの報告がある。そこから判断すると、彼らの次の目標はおそらくクローゼ星系だろう。エル・ガーニー艦隊としては、より人口の多いクローゼ(3億4千万)の攻略をコルレンツ(6千万)より優先しているということだろうが、もし敵艦隊がコルレンツにも現れたらもう星系に入ることもそこから出ることもできなくなる。今アマルフィ号は惑星サンタ・クルス軌道上の宇宙港で補給を済ませ、ダゴンワースへのワープ・ポイントに向けて航行中だ。
「それで、ええとローデスブルク中佐、そのヘルムート叔父さんというのは実際、どんな方なのかな」
「准将、私のことはディートマーとお呼びください。あの戦役の時のように。ハンスさんも」そう言って微笑むと、ディートマーは記憶を拾うかのように首を傾げ宙をみつめた。
「私の父はローデスブルク伯爵家の長男で、ヘルムート叔父さんは父とは4つ違いの次男です。とても優しい方で、私も子供の頃はよく遊んでもらったものです。ちょっと変わったところもある人ですが」
「何で叔父さんは徹底抗戦に固執しているんだい?」
「何でも、まずは皇帝陛下から賜った土地を戦いもせずに手放すことはできない、ということ、そして領民達を見捨てるわけにはいかない、と言っているようです・・・・父の話からもお分かりかと思いますが一度こう、と決めたら容易に意見を変えない頑固なところもあって・・・・」
ふうむ、とクリーガーは腕を組んだ。
「叔父さんの家族は?」
「叔母に、私と1つ違いの長女、11歳の次女です」
「じゃあ、その4人を連れて帰ればいい、ってことだな?」
クリーガーの問いにう~ん、とディートマーが腕を組む。
「あの叔父のことですから、もし自分が退去するとなったら使用人や領民の人達も一緒に連れて行くというかもしれません」
「いやぁ、それは大変ですなぁ」ハンスが口を挟む。
「準備にもたもたしてると、上空宙域が封鎖されちまいますぜ。その中を何隻もの船がすり抜けるなんて、無理な話でさぁ。アーニー、もし俺たちの退去より先にオクシタン艦隊が星域に侵入してきたらどうするつもりなんだい?」
クリーガーは肩をすくめた。「もしそうなったら、そこから逃げるのは確かに相当至難の業だろうな」
そこでクリーガーはふと思い出して、ディートマーに尋ねる。
「そういえば、俺が君の親父さんのところに伺った時、先客がいたがあの方は・・・・?」
ディートマーは苦笑して肩をすくめた。
「デューク・オブ・ボルドー、皇帝陛下のご長男ホルスト殿下ですよ」
妻イリーナの実家、ヘルツェンバイン子爵家の主筋にあたる人物だ。どうりで、見たことがあるはずだとクリーガーは苦笑した。だからあんなに沢山のお付きがいたわけか。
「随分、ご不興の様子だったが・・・・?」
ディートマーは言ってもいいものか、少し迷ったように首を傾げたが、やがて溜息をついて首を振った。
「ホルスト殿下は戦死されたヴェルニッケ侯爵の後任としてご自身が宇宙艦隊司令長官になり、ボルトハーゲン防衛の指揮を直接執られるおつもりのようです。そこで、私の父、ローデスブルク伯爵に精鋭部隊であるファーネンヴェヒター艦隊を貸せとおっしゃって・・・・」
「それで? 君のお父上は断ったのか?」
「はい。ローデスブルク司令官は『例えホルスト王子の頼みであろうと、皇帝陛下直々のご命令がない限り、ファーネンヴェヒターを動かすことはできない』と申し上げてああいう次第に」
「へぇぇ、そんなことを言って大丈夫なのかい?」
クリーガーが驚いて尋ねるのに、またディートマーは肩をすくめた。
「いや、大丈夫ではないかもしれませんね。ホルスト王子はいずれ皇太子になられるかも、と言われているお方です。実際、王子が皇太子になられた暁には、今般のことで父はお咎めを受けるのは間違いないでしょうね」
「いやぁ、お偉い方というのも大変ですなぁ」
ハンスの言葉に3人は力なく笑い、またスクリーンを見つめた。




