2.モブスターズ
騒々しい一団の先頭で入ってきた青いパイロットスーツの男はウォラフソンを見ると陽気に手を挙げた。
「よう、ウォラフソン・・・大佐? いや、幕僚長だっけか? 久しぶり~」
ウォラフソンは椅子から立ち上がり、大股で歩み寄ると男の手をがっちり掴んだ。
「よく来てくれた、ダグ。それにグロリアや他のみんなも」
男の名はダグラス・リーマン。続いて入ってきた深紅のパイロットスーツの女はグロリア・ソラレス、さらに小柄だががっしりとした体格のハルキ・タイラー、長身で長髪赤毛のマリオ・バッジョ、巨躯にスキンヘッドのボブ・ドナヒューもいる。いずれも人気のプロスポーツ競技スペース・ウィングで屈指のトップ選手達である。彼らは皆、侵攻開始前にネオ・ネプチューン宙域で宇宙攻撃機SA-61“スティングレー”のパイロット候補生達を教官として訓練してくれた者達でもあった。
ウォラフソンはパイロット達にソール大佐を紹介すると皆にソファをすすめた。
「しかし、まさか君たちが軍に志願してくれるとはね。一昨日、軍報を見た時はびっくりしたよ。ファンの人たちから相当恨まれそうだな」
リーマンは肩をすくめる。
「まあね、俺のSNSには女の子達の悲鳴みたいなコメントがわんさか書き込まれてたよ。300件くらいでもう読むのやめたけど。グロリアは何故か年下の男どもに人気があるし、ハルキは妙に気合の入ったオッサン達のアイドルだからな。マリオもマダムたちのファンクラブがすごいことになってるそうじゃないか。ボブは・・・・まあ、うん、ごめん」
「何故かじゃねぇよ。アタシの色気がありゃ当然だろ。それより、ボブだってなぁ、ほら、すごい熱心なファンの子、いたじゃんよ」
「ああ、あのちょっと気弱そうなちっちゃい女の子だろ。何度か選手控室の外で出待ちしてるの、見かけたな」
バッジョが頷く。「あの子、どうした?」
みんなに一斉に見つめられて、ドナヒューはいかつい外見に似合わず恥ずかしそうに顔を赤らめ、大柄な体を丸める。「う、うん・・・・しゅ、出発前にちょっと会った。また連絡するって・・・・」ヒュー、誰かが口笛を鳴らした。
「それでも来てくれたんだ。しかし、アブロリモーゼは何とか死者もなく攻略できたが、これからは何が起こるか、分からんぜ。君たちも政府の方針は聞いただろ?」
ウォラフソンの言葉に、賑やかだったパイロット達は黙ってお互い顔を見合わせ、肩をすくめる。リーマンが口を開いた。
「だからこそ、だろ? これからどんどんヤバい事態になるかも、って時に、教え子達を危険な目に遭わせといて先生がのうのうと安全な内地で金を稼いでいる、ってのもなぁ、俺の性に合わねぇ。まあ、いろんな考え方があるから、志願してこなかった奴のことを責めてる訳じゃないけどよ」
「アタシらがいなくなれば、ゲームでアタシらに全然歯が立たなかった奴らにもトップになるチャンスが回ってくるんだから、いいんじゃね? ほら、アイツとかアイツとかさ」ソラレスが頬杖をついたままニヤリと笑って指を折る。
「そういう奴らが頑張って金を稼いで、税金を払ってくれれば、またそれが俺たちの給料になるってわけだ」黙って腕を組んでいたタイラーが真面目な顔で言う。
その言葉にああぁ・・・・と顔を顰めたリーマンが口を尖らせる。
「そうだよ、給料! それだけは盲点だった。あのバルベリーニとかいうオッサンに聞いたら、危険手当込みで年収1,000万クレジットだって? これまでの100分の1にもなりゃしない。来年の税金、どうすりゃいいんだよ・・・・」頭を抱える。
「おいおい、そんな悲しいこというなよ・・・・こっちはずっとそれでやってきてるんだからさ。それより、軍で何年もやってきたのに新参者にいきなり階級で並ばれちまったこっちの身にもなってくれよ・・・・」
アキノがやれやれというように手を広げる。リーマン達はそれぞれが新編成の宇宙攻撃機中隊の隊長になる予定で、階級は大尉となっている。
「まあまあダグ、来年税金が払えなくなったら、軍の福利厚生システムからカネを借りればいいさ。多分民間で借りるよりは低利で貸してくれるぞ」
ウォラフソンの言葉にリーマンは唸り声をあげる。
「年収1,000万で数億クレジットも借りたら、返すのに何年かかるんだよ・・・・。それまで軍を抜けられないってか。なんだよ、それ? 現代の奴隷制かよ」
「お前、貯蓄が一銭もねえのかよ? そんなに貰っといて何に使ったんだよ・・・・?」
アキノの呆れ顔にリーマンはまた口を尖らせる。
「なんだよ、貯蓄って。『いいかい、ダグ。貯蓄だけはするんじゃないぞ』って親父の遺言なんだよ!」
「お前の親父さん、まだ生きてるだろうが。勝手に殺すんじゃねえよ」
ソラレスのまぜっかえしにリーマン以外のみんなが笑った。
「さて、そろそろ作戦会議が始まる時間だな。遅れるとまたマックスウェルのおやっさんがうるさいからな。その前に、君たちにはそれぞれ1個攻撃機中隊を率いてもらう訳だが、全体を束ねる総隊長と副隊長を5人の中から選んでもらいたい。誰がやる?」
ウォラフソンの問いかけに、申し合わせたようにパイロット達の目線が一斉にリーマンを向く。
「そりゃ、ダグだろう。副隊長はグロリアでいいんじゃないか? 俺は会議なんか出るのごめんだぜ」
バッジョがのんびりした口調でいうと、タイラーとドナヒューも頷く。ウォラフソンが2人の方に顔を向けると、リーマンとソラレスは黙って肩をすくめた。
「よし、決まりだな。じゃあ、ダグが隊長、グロリアが副隊長でいいかな。バルベリーニ軍務局長から言付かっている。君たち2人は少佐に昇進し、これから作戦会議に出席してくれ」
ウォラフソンは紙袋から階級章を2組取り出すと、テーブルの上でリーマンとソラレスの方に押して寄こした。リーマンは一瞬、ポカンとした顔をしたが、ソラレスが肘で脇腹をつつくとああ、というように大尉の階級章を胸のポケットから取り出してウォラフソンに返した。新しい少佐の階級をまた無造作に胸ポケットに押し込みながら、ふと思い出したようにアキノの方を振り返ってにやりと笑う。
「これで俺の方が上官だな、アキノ大尉。これからは俺のことをリーマン少佐『殿』と呼ぶんだぞ」
アキノは何もいわず、ただ顔を顰めて唸った。




