1話 白花弦士
────弓に、憧れていた。剣よりも、銃よりも、弓を扱うキャラクターがかっこよく見えた。〝いつかレゴラスのように弓を射ってみたい〟。小学生の頃にそう思って──
「へいけー。なにしてんの?」
「へいけって呼ぶな」
「てかまたそれ読んでたの?」
「あ、ああ・・・」
「高校受験案内がそんなにおもろい?」
「俺決めたよ。進路先」
「お、どこどこ?」
「参音高校に行く」
「・・・や、やめとけよあんな田舎。それにへいけならもっと──」
「アーチェリー部があるんだよ!!」
アーチェリー部がある。それだけで、俺の進路は決まった。参音高校に行ったら弓を射てる。子供の頃からの夢が叶うんだ!
春────新学期
──受験は問題なかった。参音は言ってしまうと進学校ではない。でも俺にはそんなことどうでも良い。俺は弓を射ちに来た。アーチェリー部に入るためにここへ入学した。3年間、俺がやることはもう決まってる。
登校日、楽しみ過ぎてめっちゃ早く着いた。これ学年1位の自信あるわ。綺麗な3階に一番乗りっと。きっとクラスも俺が1位────教室に入ると、桜の風に迎えられた。春の匂いが、一番窓側の一番前の席から漂う。
揺れるカーテン、舞う桜吹雪の中からこちらを振り返るのは、白髪の男子生徒。
「お、おはよう」
とっさに出た挨拶は彼の会釈に流される。大人しそうな彼。もし時間帯が時間なら、幽霊かと思うほど。
「君、早いね」
「・・・7時半についた」
「はっえ。15分前か」
──会釈で終わる会話。あと10分はこいつと二人きりだろう・・・って、そうか! どうせならもう友達になってしまえば良い!
「俺、青野平華」
「・・・僕はしらばなげんじ」
「LINE交換しない?」
何度目かの会釈と共に表示されたスマホの画面には、ちゃんとQRコードが表示されている。意外とノリは良いらしい。
それを読み取ると、白花弦士が表示された。弦士・・・弦って、あの弦だよな? なるほど、だから参音に来たのか! つまり俺と同じ目的! これは運命じゃん!
「なあ!」
「な、なにか?」
「一緒にアーチェリー部に入ろうぜ?」
「・・・ごめんね。僕、文化部に入ろうと思ってるんだ」
う、嘘だろ?
「で、でもでも! 白花の名前、弦って漢字あんじゃん?」
「そ、そうだけど、そういうつもりじゃないと、思うよ」
俺が一方的に感じた運命は、一瞬で閉幕した。
「頼む! 考えといてくれよ!」
「う、うん」
──会釈で流されなかったから、まだ可能性はある?
だけど考えてみるとアーチェリーって、個人スポーツだよな。
別に俺1人でも問題ないっちゃ、問題ないのか。