18話 ヘンリー
先輩たちもやって来て、競技会場の門が開く。ぞろぞろと弓具ケース、リュックを背負った選手たちが吸い込まれていく。100人近くはいるだろうか。競技人数が少ないとはいえ、これだけ集まると圧倒される。
「白花弦士くん、みんな行ってるよ」
「あ、ありがとう飛田さん」
会場は見たこともない広さだった。学校のプールが何個入るだろう。あれだけ入ったはずの選手たちがスタンド席に点々としている。
「じゃあ1年はジャージのまま設営準備。水本、任せていいな?」
「はい」
南折先生からも信頼されてる水本くんはやっぱりすごいな。アーチェリーだけじゃなくて、純粋にリーダーとしても信頼されてる。もちろん僕も彼を頼りにしている。
「準備ってなにするの?」
「いつもやってる通り」
「畳運んで、台車に乗せるってこと?」
「つまり俺たちは雑用かよ」
「阪東の力が活かせるじゃん」
「お、おう。余裕だわ」
「あの畳は詰まってる分いつもより重いから、背中に背負う感じで運べよ」
「私、できるかな」
「凛ちゃん意外と力あるから大丈夫よ」
「げんじの方がやばいかもね~」
「お前らグラウンド降りたら話すな。他校になめられる」
水本くんの一言があり、僕らは黙々と畳を運ぶ。言われた通りやっぱり畳は重い。これが1度なら良いけど、何回も往復しないといけない。
100人分の選手の的を作るんだ・・・今、何回──
〝バタン〟という音が僕に覆いかぶさった。乾いた土のグラウンドは、幸いにもクッションのようだった。でも煙のように砂が鼻に入る。
はあ、カッコ悪い。躓いて畳を背負ったまま転んでしまった。畳が汚れなくて良か──
「げんじ! 大丈夫!?」
「あ、ありがとう村山さん」
「・・・ひざ、血出てるじゃん!戻った方が──」
「タタミ1つ運べないなんて、ユーはそれでもアーチェリーできるの?」
知らない声に反応して見上げると、金色の髪の人が立っていた。この黄色のジャージってたしか──
「あんた何様? かっこいいけど、感じ悪!」
「これは怖い。ユーは彼よりも男っぽ──」
「おいパツキンやろう。俺の仲間になにしてんだよ?」
「ば、阪東くん」
「へー。君の目は......リアルだ」
「ありがとう2人とも。僕はもう大丈夫だから」
立ち上がり彼らの間合いを離す。なんだか嫌な雰囲気だ。
「貸せよ畳。俺が持ってく。村山はそのままこいつとスタンド戻れ」
「ヘイ君たち、どこの学校だい?」
「参音だよ!」
村山さんがそう言うと、彼は何かを納得したように微笑んだ。「あ~。あのカントリーサイドの学校か」これには僕も怒りを感じた。
「てめえよお、学校を馬鹿に──」
「やめろ阪東」
「ヘンリー。お前もだ」
2人が接触する寸前、水本くんと、黄色いジャージの日本人が現れた。日本人だけど、あの外国人と同じくらい背が高い。モデルみたいだ。
「うちのヘンリーが失礼しました。そちらの部員は──」
「大丈夫です。こちらこそ、すいません」
「テル、どうして君が謝る──」
「喋るなヘンリー」
「Why?」
「お前も國武のアーチャーなら、的で競え」
2人はそのままスタンドへ戻って行く。僕らはそれをしばらく眺めていた。彼が残した言葉が突き刺さっていたんだ。
「み、みんな大丈夫?」
「おせえよ青野。乱闘終わってんぞ」
「やめろ阪東。変な問題を起こすな」
「起こしてねえよ」
「みんなありがとう。そしてごめ──」
「もう設営は終わった。戻るぞ」
ハッとしてみんなが水本君について行く。
「白花、肩貸すよ」
「・・・ありがとう青野くん」
「悪かったな」
「ど、どうして青野くんが?」
「お前が運動苦手なの知ってたのに・・・ごめん」
「き、気にしないでよ」
戻った後、先輩や先生たちから揉めたことについては何も言われなかった。ただただ、僕が転んで冗談半分に笑われたくらい。アーチェリーの試合を見るのを楽しみに来たのに、ちょっと嫌な気分に──
「白花も転んだか~」
「も、森長先輩?」
「俺も昔、畳が重くて転んだよ」
「え!? 森長先輩が」
「懐かしいね~。たしか森さんそれからマッチョになった」
励ましだろうか。1年生もそうだけど、先輩たちまで・・・嬉しいけど、悔しい。でも、こんな素敵な部に入って良かった。部活動って、こんな温かいんだ。みんなのためにも、僕は強くなりたい。あの人たちに、的前で負けないように!




