12話 参音から全国へ
俺の次にホワイトボードの前に立ったのは女子部員だ。
「村山香音です!中学ではバレー部でした。新しいことに挑戦したくて、アーチェリー部を選びました」
村山は女子にしては背が高い。色黒で運動も得意そうだ。そして陽気。
1年女子にはこの村山ともう1人、陽気な部員がいる。この2人は体験入部の時から仲が良かった。
「末吉杏でーす! アーチェリーを楽しみたいと思いまーす!」
「あの子、芝田の妹か何か?」
「ちがうわ!」
緒田部長がそういうのもわかる。あれは、女版芝田先輩だ。彼女たちのせいで自己紹介のトリを務める彼女が、ひときわ大人しく見える。
「飛田凛です。中学は吹奏楽部でした。運動部の経験はありませんが、頑張ります」
これで自己紹介が終わっ──
「1年で姿勢が良かったのは白花と飛田の2人だけだ」
飛田が席につくなり、南折先生は足と腕を組んだままそう言った。俺たちはもちろん先輩たちですら、背筋が伸びる。
「緒田、アーチェリーで一番大切なのは?」
「美しい射型です。美しい射型は点数につながります」
「というわけだから1年生諸君」
「はい」
「アーチェリー部ならまず、いかなる時も真っすぐ立つことを身につけてください」
「はい!!」
南折先生はやわらかい声で、優しい言葉を使った。それなのに体が硬直してしまう。緒田先輩と似たような物を感じるけど、格が違う。
「ではこれからの目標だけど──」
あの自己紹介、1人ずつ前に出て立って話したのはちゃんと狙いがあったのか。美しい射型が点数につながる。だから、日常から真っすぐ立つことを意識しないといけない。
「──3年は4月、関東大会予選記録会。1年は8月の新人大会。まずはこれらに照準を合わせて頑張ってください」
「はい!!」
「水本姉と森長くんには当然全国を狙ってもらって、1年はグリーンバッジ以上取れるように」
「はい!!」
俺は参音にアーチェリー部があることしか知らなかった。とにかく矢を射ちたくて射ちたくてここへ来た。確かに学校を代表する部で、近年結果を出しているとは聞いていた。
でも、ここはその程度の部じゃないんだ。参音は、全国を狙える部活だったんだ。
電車やバスで移動するときは足元にシューティングラインがあると思って立っていました。それくらい日常から姿勢を意識するように言われていました。