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10話 初めての的



 ラインに立つと、孤独だ。射場にはたくさんの部員がいて、真横には森長先輩がいる。なのに、まわりを海に囲まれた岩の上に立っている気分。


 誰も助けてくれないし、誰も来てくれない。シューティングラインの上はこんなに心細い──


 「げんじー! 落ち着けよ!」

 

 海の向こうからも声をかけるなんて、青野君、君ってばはほんとにしつこいんだから。けど、そうか──顔も姿も見えないけど、声援だけは届くんだ。


 「白花、振り返るな。畳の風船だけを見ろ」

 「・・・はい」


 声援と指導。どれだけ声をもらっても、この場に立って、あの的を射つのは僕なんだ。僕だけがやるんだ。やらないと、このラインから帰れない。


 「矢をつがえたら、軽く弦を握ろう」


 ──僕は全くの初心者だ。弓なんて、ゲームでもあんまり使ったことがない。だから、言われ通りのまま体を動かすしかない。加減なんて分からない。感覚勝負だ。


 「弓を上げたら、左手は弓を押しながら的に添えて」


 うわ、この体勢つらい。素引きとは全然違う。

 右手は弦を引いてないといけないし。左手は弓を押さないといけない。1本のアルミの矢があるだけで、精神的にも負担が強まる。


 自分で自分を苦しめないと、弓は引けない。あんなに音もなく弦を引いていた彼、さっき素引きを教えてくれた子のすごさが尚更わかる。


 「いいぞ。そのまま弦をアゴ下まで引いて」


 アゴ下まで引く──引く──引く───弦が唇に触れる。硬い。冷たい。

 糸で出来ているようなのに、まるでワイヤーだ。嗅いで見るとちょっと臭う。なんの匂いだろう。薬品のようなツンとする匂い。


 「後は、自分のタイミングで弦を離すんだ」


 じ、自分のタイミング!?・・・もう良いってこと?

 じゃあ、もう少しだけ弦を引いてから────────放す!


 唇にめりこんでいた弦は、1秒も経たずに目の前の空間を両断した。その瞬間、弦を放した時、僕は自分の世界を変えた感覚だった。


 目の前の弦がこれまでの視界を風と共に、斬り捨てたんだ。〝パンっ〟と、風船を射た後も僕の矢はまだ、空間を進んでいるように見えた。

 

 破裂音のその先へ、もっと、もっと、更に遠くへ行くんだ! 僕の眼にはもっと遠くの、遥か先の的が映った。


 ようやく見つけた。僕にも出来るかもって思えること。


 ────ああ、ありがとう青野くん。君に誘われて良かった。弓を引いて良かった。僕はもっとアーチェリーをやりたい。アーチェリーを知りたい。アーチェリーを上手くなってみたい。


 アーチェリーなら、僕にも出来るかもしれない!

初めて矢を放った時は、僕も何か風に吹かれたような感覚でした。まあ・・・本当に風が吹いただけかもしれませんが

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