9話 アーチェリーで上手い人
素引きが終わった俺たちはシューティングラインの後ろで待機している。目の前の体験入部生がどんどん風船を割っていく。
当たって当然、命中して当然。そんな雰囲気。ミスはできない。前の者に続かないといけない。俺の時よりもプレッシャーを感じる。
だが「さっきの素引きを教えてくれた子1年だよね?」と、白花はマイペースらしい。
「多分1年だよ。でも、今はどこにもいないな」
先ほどの彼を探していると「次、そこの白い子」と緒田先輩に指名され、俺たちの出番が回って来た。と言っても射つのは、こいつだけどな。
「君が青野だっけ?」
「は、はい。そうです」
白花を見送る寸前、俺たちの横に現れたのは筋骨隆々な男の先輩。背は俺と変わらないくらい。いや、もしかしたら俺の方が大きいのに、この人はもっと大きく感じる。
見た目も声も大人びていて・・・芝田先輩とは真逆だ。たった1、2年しか離れていないのに大きく、遠くに感じる存在。これぞ先輩って感じだ。
「じゃあ君が白花くんか」
「・・・はい」
「俺は副部長の森長」
「よろしくお願いします!」
副部長、そのワードに反射的に俺は頭を下げた。白花は相変わらずの会釈。彼らしいと言えば彼らしい。
「さすがに射つタイミングを教えるのは青野にはまだ早いからな。俺が白花くんを教えるよ」
「・・・お願いします」
「じゃあ、がんばろうな白花くん!」
「は、はい」
────青野君がジャージの群れの中に溶けていく。君が僕の視界から消えたら、こんなにも心細くなるなんて思わなかった。
森長先輩は副部長だし、見た目的に誰よりも信頼できそうだけど、射つ直前で急に交代なんて──
「さっき、白花くんの素引きを見てた」
「え?」
「率直に、射型が綺麗で驚いたよ」
「・・・しゃけい?」
「弦を引いた時の姿勢。野球でいうところのフォームだな」
「ありがとうございます」
お世辞、だろうな。けど、この人の目はそれを言ってるように思えない。笑ってないんだ。真剣。
だから困った。人から褒められるのは記憶にない。特にスポーツでこの僕が褒められる日が来るなんて、思わなかった。
「何かスポーツやってた?」
「・・・いえ」
「アーチェリーってさ、今まで運動してないやつが意外と上手かったりするんだよ」
「そう、なんですか?」
「ああ、俺が見てきた世界の話だけどな」
最後にようやく笑った森長先輩は、僕の背中をトンと、叩いた。気がつけば足元には白いライン。
青野君が言っていた。ここを跨いだら、矢をつがえるのが許される場所だって。
丸い体型の人は有利らしいです。しかし上手い人はみんな細マッチョみたいなイメージ。また、実際未経験でいきなり県の代表とかになる人もいます。面白い世界です。