別たれた道
聖女の召喚の儀は廃止が決定した。
あの日、王が決断したのだ。
嘘か本当かわからない呪いに頼る政治を辞め、事実を見据えて国政を動かしていく、と。
結果としてカミュを筆頭とする呪い師は職を失った。
各々適性を考え配属先が決められたが、長く続いたものはいないらしい。
呪いは呪い師にしか引き継がれず、形式だけが拡大し、解釈は個に任せられていた。その結果、呪い師にとって都合のいい解釈だけが伝えられ続けた。
その行為の代償故に、信用も身分も仕事も失ってしまった。
それらを受け入れることが出来ず、働くという当たり前のことに慣れることも出来なかった彼らは、次々と宮廷を辞めていったのだ。
カミュ自身は……酷い、有様だった。
綺麗な笑みは完全に消え去り、己のことしか考えない傲慢な罵倒は聞くに耐えず。
それでも王は最後までカミュの話を遮ることはしなかった。
そうして、カミュの言葉が尽きると「言いたいことはそれだけか」と国外追放を言い渡した。
カミュが兵に連れ去られた後、王は「残念だ」と呟くと、独り言のように、カミュとの思い出を語った。
その姿はただの青年だった。
二人は幼き頃らから共に過ごしていた。いわゆる幼馴染だった。
将来国の中枢を担うものとして、互いに競い合い、支え合っていた。
幼い頃からの聖女に対する刷り込みは同じだった。
それを疑うことなく、それが正義だと上り詰めたカミュ。
片や、疑問を抱き続けた王。
何が彼らの道を分けたのか…。
王はパートナーとの出逢いだったという。
元々聖女付き侍女として働き始めていた。現王妃。
彼女との出逢いで視野が広がったと。
王妃も王妃で、聖女との出逢いが考えを改めるきっかけになったらしいが、その聖女はもうこの世にいない。
レオンたちの協力者の筆頭は王妃だったのだと明かされた。
王は立場上直接的な支援はできなかったそうだ。
あの牢屋に不釣り合いな鍵も元々は聖女の知恵だったらしい。
私以前にもこの聖女制度をどうにかしようと抗った結果が今に繋がっている。
呪い師も長い年月の間に色々有ったのだろう。
もしかしたら、些細な出来事で『今』は違ったかもしれない。
そう考えると感慨深いものがあった。
「カミュ…詐欺師にでもなってなきゃいいけど…」
どれだけ思いを馳せても今の私に出来ることは限られている。
何せ私は全知全能の聖女ではなく、宮廷図書館に勤めるただの一般市民なのだから。
「めぐみ様、お仕事の進み具合はどうです?」
リムがひょっこり顔を覗かせた。
「…様はいらないって言ってるのにぃ」
仕事で凝り固まった体を伸ばしながら軽口を叩いた。
正直言えば、何度言っても様付けが抜けないリムに半ば諦めてはいる。
「……そーですか
めぐみ様は緑茶を飲みたくないんですか
ふーん」
「え、待って!飲む!
飲みたい!
ちょうど喉が渇いてたの
リムの入れた美味しい緑茶が飲みたいです!!」
あからさまに不貞腐れ、持っていたトレイを下げようとするリムを慌てて止める。
リムはそれにクスリと笑い綺麗な所作で緑茶を淹れてくれた。
それを二人並んで口にする。
それだけのことだが、対等な関係を現しているようで、少し嬉しかった。
「美味しい」
「ふふ…よかった
夕食はワショクにしましょうね」
「ほんと!?
やったー!!」
相変わらず世話を焼いてくれるリムに甘えっぱなしではあるのだけれど。
今までの主従関係、と言うよりは親子のような関係だ。
年齢的には私の方が上だが、この世界で生きてきた年月はリムの方が遥かに長いのだから仕方ない。
私は図書館でこの国のことを学び、元の世界での知識を提供している。
囚人だった人たちも、それぞれ自国での知識を活かし生活をしていた。
そんな中でただ一人、宮廷を出て行った者がいた。
レオンだ。
彼は他の国の聖女をも救いたいと、国すらも出て行ってしまったのだ。
本当は私も一緒に行きたかったのだが、何せこの世界のことを知らなすぎる。
だからここで働きながら知識と資金を貯めている最中だ。
異世界を含めた全ての人が平等に。
そんな大それたことは考えていない。
けれど、せめて、人為的な理不尽が減ればいい。
それはけして楽な道のりではないけれど、私は生まれて初めて『やりがい』というものを感じていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
本当はもう少し王と王妃の話を詳しく書きたかったのですが、上手く話に組み込めず…。
レオンの事ももっとちゃんと書きたかった。
自分の力量不足を痛感しております。
これからも日々精進していきたいです。




