第四章 結果とこれから
文化祭当日、この日は自分たちのクラスではなく、部室に集まる。
担任が顧問だと話もつけやすくて助かる。
俺たちは朝から展示の準備をする。
昨日の間にしたかったのだが、顧問の都合でできなかったのだ。
「拓、ヘッドホンあとどれだけある?」
展示の際、音をパソコンから流すと、音楽でカオスを極めていた。仕方がないので、学校の備品として置いてあったヘッドホンを取り出すが、若干数が足りていない。
「あとここ一列分だけだな」
展示するパソコンを絞るしかなさそうだ。
「了解。ディスク渡すところは先生のパソコンのあたりからでいいだろ。パソコンで俺たちのゲーム以外をプレイしてるあほがいないか、監視できるしな」
顧問からはきちんと許可は取っているので、俺たち部員は教員用のパソコンを用いて展示を管理することになる。
「入口こんな感じでいい?」
副部長が、入口の飾りつけを行っていた。
入口には副部長の描きおろしイラストで、ゲーム展示をしていることが分かるよう、張り紙がされていた。
「ゲームのディスクにも印刷して、紙挟んだだけだけどパッケージも作ったし、結構本格的だと思わないか?」
部長が自慢げに語る。先日焼いたディスクには副部長のイラストが印刷され、同じイラストがディスクケースに挟まれていた。
「やっぱ展示だけにしなくてよかった。と思う」
「まだ文化祭始まってなくて、だれも来てないからな」
何かを感じるにはまだ少し早かった。
準備を一通り終え、少しまったりしていると、一限目開始のチャイムが鳴る。
このチャイムで文化祭は始まりを迎え、六限目のチャイムで終わりを迎える。さて、俺たちの努力が詰まったゲームのお披露目の始まりだ!
パソコン室の人の入りはとても好調だった。今までの文化祭で、遊戯的なものは輪投げだの、ヨーヨー釣りだの中学生がやるにはしょぼいものばかりだった。
お化け屋敷や射的をやろうとしたクラスとかもあったようだが、危険とされ禁止になている。
だが、ゲームとなれば危険もなければ、展示内容だけではしょぼいと判断できない。その効果あってか、学年問わず、次々と人が入ってきて、利用できるパソコンはすぐに埋まる。
「こっちでゲームディスクも配布してるので、ぜひ持って帰ってください」
部長が案内する。
ディスクの持ち帰りも多く、なくなるのではと思ってしまうくらいだ。
ただ、いくつか問題が発生する。
「これどうやって進むんだ」
「なんだこれ」
ゲーム内容に対する疑問点が次々と上がってくる。
そのたびに、俺たち部員が呼ばれたりして、攻略法を聞かれたりする。
自分たちではわかるように作っていたつもりでも、わからない人にとってはわからないことだってある。特にこの手のゲームにとって常識的な操作などは説明されていない。やったことない人からすると訳が分からない箇所が、次々と上がっていく。
どれだけ自分たちがうまく作ったつもりでも、それがプレイヤーたちに伝わるかどうかというのは別の問題だということに、ここで初めて学習する。
そして、わからないが続くと「クソゲー」認定され、パソコン室から去っていく。
正直悲しい気持ちになる。それでも多少人は残っていて、真剣な顔でプレイする人、友人と笑いながらプレイする人、一人で黙々とこなしていく人。いろんな人間を見ることができるのもまた事実だった。
出入り口にはアンケート用紙も顧問の提案で用意してあり、ゲームの感想などを書いてもらっていた。
結構な割合で記入してくれる人が多く、いい評価なのか、悪い評価なのか俺たちは文化祭が終わるまで、アンケート用紙の回収箱が気になって仕方がなかった。
「なぁ、これパソコン部員たちで作ったの?」
ある生徒に声をかけられる。
「大体は自分たちで作りましたよ」
「へー。ゲームって自分たちでも作れるんだ……」
そう言って、ゲーム開発に興味を持ってくれる人も何人かいた。
時々、俺たちが作ったゲーム以外のものを起動させているやつが現れるが、こっちは教員用のパソコンがあるので、強制的にシャットダウンしたりして対応した。
昼頃になっても、人はあまり落ち着くことがなかったので、交代で昼食を取りに行こうと考えていると、顧問が代わりに見ていてくれるというので、四人で軽く文化祭巡りに出る。
「しかし、思った以上の人気だな」
「だね~。教室の中には十人くらいしか入り続けないと思ってたから、びっくりした」
「さすがにそれは過小評価しすぎだろ……」
こうやって騒げるのもあと少しの期間だ。特に八木君とは、これで解散になってしまう。
俺たちは引退だからだ。
「とりあえず何食べるかだけど、まともな食事になるの焼きそばくらいしかないのびっくりだわ」
そう言われて文化祭のパンフレットを見ると、フライドポテトだの、揚げパンだの、チュロスだの、おやつに食べてもおかしくないものばかりが並んでいた。
「とりあえず全員焼きそば食べてから、追加で好きなデザートを選ぶって感じで……」
部長は提案する。
その提案に異論はないと、俺たちは頷く。
「そういえばほかの文系部って何やってんだろうな?」
パンフレットを再度開き、ほかの文系部が何の展示をしているのか確認する。
「美術部は相変わらず、絵の展示だろ。漫研部は面白そうなのやってないのか?」
パソコン部はそう言う部活ではないが、同じエンターテインメントを扱っていそうな漫研部に興味を示すが――。
「部員おすすめの漫画解説ボードって……」
「それ見てだれが楽しむんだ……」
漫画を描いているとかではなく、自分の好きな漫画を推しているだけなんて、人は少ないだろう……。漫画研究はしているが……。
「そういえばなんで副部長は、美術部とか漫研部とかじゃなくてパソコン部なんだ?パソコンは普通に触れてるけど、絵描きだよな」
「いやー……、美術部ってアナログだし、萌え絵とかちょっと浮いてるかなって思って、昔は漫研部に入ったんだけど、想像してた漫研部じゃなくて、ただひたすら自分の好きな漫画を語って、場合によったら作品ディスがひどかったりして、すぐに辞めた……」
とりあえず、美術部と漫研部が合わなかったことはわかった。
「パソコン部に入った理由は、デジタル絵描いてても、まあぎりぎり許されるかなって思って」
「へ~」
主な理由はデジタル絵を書くというところにあったようだ。
「というかいい加減、告白したらどうだ?フラワーロードさん」
「うっ」
フラワーロード?花道?
「まぁ、うんいっか……。知らないところで言いふらされそうだし……。私、実はイラスト投稿アプリで、上位に入ったこと何回かあるイラストレーターなん……だ……」
「ふーん。そうだったのかー。ってえぇっ!?」
つまり、やけに上手なイラストだったのは、結構優秀な絵描きがたまたまこの学校にいて、たまたまパソコン部で……。
「なんで部長知ってんの」
考えていくとここの疑問にぶち当たる。
「いやー、俺いろんなイラスト見るの好きで、こいつ、好きなイラストレーターの一人に入ってたんだけどな?学校でこいつがイラスト書いてるのみちゃってさ、それがきれいで頭の中に入ってて、ネットみると学校で見たイラストの完成版が上がってるわけよ。もう確信しちゃったよね」
若干変な話し方になりながら、部長が副部長がイラストレーターとして名のある人物だと気が付くまでの経緯を説明してくれる。
「で、なんでフラワーロード?」
「道場 花って名前だからだよ。道=road、花=flower。これを逆に並べたらはい。単純だろ」
あぁ、そういう……。
「恥ずかしいからやめて……」
気が付けば副部長の顔は真っ赤だった。
「いや俺のハンドルネームもおかしいから!定時だからTeijiってつけてるし!」
「俺も最初漢字だけ見たら、テイジって読んだよ」
昔からよく読み間違えられる苗字だ。
「まぁ、ハンドルネームなんてそこまで深く考えてつけなくてもいいだろ。本名使ってるわけじゃないんだから問題ないない」
そう言ってごまかす部長だったが、副部長はさすがにネットでの活動がばれたのが恥ずかしかったのか、顔が真っ赤なままだった。
「さて、ほかの部活は~……。英語部のスピードラーニングを体験しよう。映画研究部のあなたへのおすすめ映画教えます。科学部のコイル射出装置……。科学部はまだ面白そうだが、ほかほんとひどいな……」
俺も文化祭のパンフレットを見ながら、驚く。
残る吹奏楽部は、体育館で演奏枠が入っているようだが、「だろうな」という感覚しかなく、聞きに行く気にもならない。知らない曲を聴いて楽しむのは難しいものだ。
「これに加えて各学年クラスの展示とかだもんな……、そりゃ暇をつぶそうと思ったらこっち来るか、スマホとかで遊ぶよなぁ……」
よく考えれば、例年文化祭は退屈している生徒が多い。ほとんどの人間が楽しめていないのが実情だった。
「まぁ、俺たちに注目が向いたんだからいい話だろ。それにゲームがつまらなかったらわざわざディスクを持って帰らないし、後ろがつっかえているのにゲームし続けるわけがない」
部長はそう、前向きにとらえる。
そのあとは、焼きそばを四人で食べ、部長はフライドポテトを、副部長はチュロスを食べてから、部室に戻る。
列は消えていて、パソコン室の七割が埋まっていた。
「さすがに、ゲームし続ける人間ばかり残ってきたか……」
ここは少し予想通りになったらしい。
ゲームを続ける人ばかりが残るのは、彼らがゲームを独占してしまい、列が進まないことにある。
列が進まなければ、ゲームをやるとはいっても暇つぶし感覚で来ている人が多いので、ただ立って待たされるのはつらいものがある。
結局待ちきれなくなった人たちから減っていき、ある程度遊んだ帰った人の席へゲームをし続ける人が座り、気が付けばほどほどにゲームをする人間はいなくなる。
「こればっかりは仕方ないな。制限時間でも付けたらよかったかもしれないと思ったけど、制限時間来ても、ゲーム再起動してプレイされたら関係ないし」
対策のしようはなかったのだろうか、と今更考えるが、もう遅い。
「それに、これだけ熱中して遊んでくれる人がいるのは、とてもうれしいことだな」
部長は腕を組みながら、その光景を見つめる。
確かにここまで真剣にプレイしてくれると、作った甲斐があったというものだ。
結局彼らは、文化祭が終わる時間までずっとゲームをプレイしていた。
「あの、面白かったです!」
そう言って、パソコン室から出ていく人も何人かいた。
また、ずっとプレイしていたやつらは、例外なくディスクを受け取っていってくれた。こうなれば最後まで遊んでくれるに違いがない。
「さて、そろそろアンケートの内容みるか」
そう言って部長は廊下のアンケート用紙の回収箱を持ってくる。
熱心に遊んでくれたものもいれば、そうでないものもいるのは事実だ。全体的にどう思われていたか、この箱の中を見ればわかることだろう。
乱雑に入っていた紙の向きを気にしないまま、一度まとめてから、上から一枚ずつ確認していく。
「えっと、【進み方が分かりにくかったですが、面白かったです】、【すごかった】、【つまらん】……。いろいろだなほんと……」
結局好きな人は好き程度のゲームになったような感じで終わってしまった感じがする。
「まぁ、初めて作った割にはいい具合なんじゃないか?」
「そうだな……、正直つまらないって感想で埋まっていると思ってたから、これは意外な結果だ」
俺たちは、評価を受けて何がダメだったのかなんとなく見えてくる。
もっと早く知りたかったことでもあるが、実際にプレイしてもらわないことにはこの感想は得られない。
「そしてここで発表。来年から俺たちは高校生になる。そこで、お前たちがよければの話なんだが……」
部長は急に何か発表というか、誘おうとして口ごもる。
「なんだよ。そこで口ごもられても困るんだが?」
俺は発言を促す。部長は一息飲むと、
「一緒に、同人活動してみないか!」
と誘ってくる。
「同人活動?」
聞いたことあるような、ないような?
「今度は学校のイベントとしてじゃなくて、個人で作った作品を売り出す場があるんだ。そこでやらないか?」
そう言ってくる。
「それって、俺たちにもできるのか?」
「できる!と、思う……。俺が知ってる限りではやってる人はいるから、努力次第だと思う」
部長もやったことはないのでよくは知らないらしい。
「いいよ。ただし仕様書が遅れるたびに、平手な」
俺は笑いながら答える。
「私もやるよ。もともと、しないのかって聞かれてたし……」
「僕も手伝えるなら、手伝いますよ」
副部長と八木君も部長の提案に乗る。
「そうか……。うれしいなぁ……。またこのメンバーでゲーム作れるんだから……」
部長はうれしさのあまりか、やや泣きそうになっている。
俺としても、学校に復帰できるように努めてくれたこのメンバーに感謝しかなく、今度は俺がプログラミング知識を付けて、もっと表現の幅を広げた作品を作りたいと思っていた。
だから、この提案には乗るしかない。
「おう、お前ら。おつかれさん」
担任兼顧問がやってくる。
「三年はこれで引退か。どうだ?楽しかったか?」
「とても楽しかったです。大変でしたけど、今日一日で楽しいって心の底から感じられました」
部長は代表して答える。
大変なことは多かった。寝不足になりながら作業をした日もあったし、夏の暑さの中、みんなで作業もしたりした。そうやってできた作品に【おもしろかった】と、言ってもらってとてもうれしくて、苦労した記憶は楽しいものだったように感じる。
「そうか。高校行っても、ゲーム作る予定はあるのか?俺も楽しくて毎日やってるんだけど。続編は作らないのか?」
「続編にするかはわからないですけど、作りますよ。今その誘いをしたところです」
「そうか。定時も、学校来られるようになってよかったな」
「はい、こいつらのおかげです。感謝してもしきれないです」
唐突に話を振られて驚くが、感謝していることに嘘偽りはない。
「みんなは今日この後予定あるか?」
顧問の質問に、互いに目を合わせて予定があるかどうか確認を取る。
「ないですけど……」
代表して部長が答える。
「よし、打ち上げに行くぞ!お前らまだやってないだろ?」
顧問はそう言う。そう言われてみればそうだ。俺たちは完成した後の打ち上げなんてやっていない。
顧問がそれを行ってくれるという。
パソコン室に鍵をかけて、その場を後にする。
もう、部員としてここに来ることはない。少し寂しくも思うが、卒業とはこういうことだろう。まだまだ卒業まで先だが、部活は引退だ。
先生とどこの店に行くかを決め、俺たちは自転車があるので、店には自転車で向かい、店で先生と合流する。
「じゃあ、気を付けてくるんだぞ」
車に乗った顧問を校門から見送ると、俺たちも店を目指して自転車をこぐ。
今まで作業に関する話ばかりしていたのに、作業の話題なんてないものだから、珍しく静かに自転車をこぎ進めていく。
もう陽の沈みは早くなってきており、空の色はきれいな赤色をしていた。
店に近づくと、顧問が手を振って待っている。
「やっぱ車はいいよなぁ……」
陽は暮れ、風が冷たくなってくるこの時期。天候に左右されない自動車は本当にうらやましい。
「やっときたか」
顧問は腕を組んで俺たちに向かって言う
「そりゃ先生は車だから早いけど、俺たち自転車なんすよ……。時間かかるにきまってるでしょうが……」
しかも自転車は体力を使うが、車ならばアクセルを踏んだりブレーキを掛けたりするくらいで済むのだから、本当に楽そうでうらやましい。
店の扉を開けると、店員さんが人数を聞いてくる。
顧問が代表して、五人と答える。今まで行動するのは四人だったので少し違和感がある。
「まぁ好きもん食えよ。俺のおごりだからよ」
「まじっすか!?」
まさかの顧問から奢ってもらえるとは……。
「肉でもいいんですか!?」
「いいって、いいって。開発大変だったろ?少しは労ってもらいたいだろ」
いまだかつてない好待遇に俺は戸惑う。
部長は興奮しながら何を食べるか決めるために、メニューに張り付いている。
「デザートもいいんですか!?」
「いいよ」
副部長は女子らしい欲を見せる。
「いやぁ、やっぱり頑張ったからな俺たち。うんうん」
一人自分を褒めている部長だが――。
「お前のせいで大変だったけどな」
という事実を俺は突きつける。結果的に少しだけ余裕を残して終了したゲーム制作だったが、部長がもっと早く作業を終わらせていれば、もっと余裕のある作業になっていたことだろう。
このことについては、もう何度も言っていることだ。それだけ作業の進捗に影響を及ぼしていたわけだが……。
「まぁ、部長がやろうって言わなかったら、始まることもなかったことだし、やろうとし始めたところは胸を張っていいんじゃないか」
もし、部長がゲーム制作をやろうと思わなかったら。俺が誘われなかったら?
まず俺は、ここにいないし、学校に来ていた可能性は低い。俺に学校へ行く機会をくれた、ここのメンバーには感謝している。
あの日からもうずいぶん経った気がする。でも実際はまだ半年もたっていない。
「そういえば部長は何で、ゲーム作り始めようと考えたんだ?」
「んあ?あー、クソゲーをプレイしたときにさ、俺だったらこうするのにとか思うじゃん?普通のゲームやってても不満点があったらさ、こうした方がいいよなって感じるなら、自分の中で思う納得のいくゲームを作ったらいいんじゃないかって」
淡々と語る部長。みんなはその話を真剣なまなざしで聞く。
「それで四月くらいに、ゲーム制作について調べていったんだけど、ツールは軽くなら俺も使えたけど、やっぱ複雑なことをしようとしたら難しくってさ……。」
俺が入る前までの一ヵ月間の話だ。
「パソコン部の部長になったのも、幽霊部員が多くて、顔をよく出してただけで選ばれたようなもんだし、俺自体は大した実力なくてさ……。イラストとか音楽とかの素材も用意できないし、だれかに頼んで、一緒に作ってもらえないかなって」
実際、並大抵の生徒よりはパソコンを扱えていた部長だが、特別優秀に操作ができているというわけでもなかった。
自分ができないことを自分よりできる人間を探し、俺たちを誘ったというわけだ。
「ってあれ。別にここまで聞かれてはいなかったか」
軽く笑いながら、頭を掻く。
「でもまさか、パソコン部の中で一応全員揃うとは思ってなかったよ」
確かに、俺はともかくイラストとサウンドがパソコン部内でそろえることができたのは、少し意外だった。
「これも俺の人徳かぁ」
「いやそれはない」
急に調子に乗ったので、即否定してやる。
その流れに顧問だけ笑うが、ほかのメンバーはもう笑わない。俺たちにとって日常に過ぎない流れだからだ。
「俺だけなんか笑ってたら、頭おかしいように思われるだろ……」
顧問は少し落ち込む。
そんな顧問をよそに、部長はまた語りだす。
「ゲーム、楽しんでもらえたようでよかったけどさ、自分たちが思っているように遊んでもらえていないところとか結構あったの、次作るとしたら直したいよな」
今日一番の反省点だろう。どうしたらいいか、何をしたらいいかがわからないというのは、ゲームを遊ぶうえで重大な問題だ。
次の内容に進むことはなく、最悪そこでプレイを放棄されかねない。
実際、クソゲーと感じるゲームには何をどうしたら、どうなるのか、どうやって話を進めていくのかなどが分からないゲームがある。
デバッグでさんざんやっても、自分たちは仕様書を見て、内容を知っているため、見落としてしまいがちな問題点だった。
今回、実際プレイしてもらっているのを見ていたから分かったことだが、ただ販売して自宅でプレイされた場合、わかってもらえているのか、もらえていないのかわからない。
学んだ反省点は次回には気を付けるべきだ。それに――。
「さっき言ってた同人ってのでやるときは、こういう展示じゃないんだろ?」
今日みたいな展示であれば、自分たちがどうやるのか教えることができるが、話を聞く限り、そういう感じではなさそうだった。
「あぁ、こっちはディスクとかダウンロードするために必要なものとか渡すだけだから、プレイしているのを生で見るのはないね。会場でテストプレイ用の場所を作れば反応は見れるけど、そこまで広いスペース使えるわけじゃないし……」
ということは今日みたいに学び取れる箇所は少ないだろう。手に入れてくれた人が感想をくれない限り、自分たちにはわからない。
「もし、高校同じところに行って、同じように活動したら、また反応は直接見れると思うけどな」
一緒の高校かぁ。
「そういえばお前ら進路希望調査書、アバウトな答えばっかりだったな」
「特別行きたい学校って思いつかなくって……」
以前会話したが、三人ともまともに行きたい学校は決まっていない。
「そう思って、俺が今調べてやってる。大体、何をしたいかでもいいって言ったの俺だしな。一緒に考えてやるつもりだったし」
そんなめんどくさそうなことを、この担任はやってくれている。
「まぁ、進路の話は後日担任として話をしよう。今日は部活の打ち上げだからな」
気が付けば進路の話に発展していたが、これは部活のゲーム制作の打ち上げだ。今進路の話をしていても、八木君がついてこれないし……。
「というか、いい加減席に座って長いんだから注文するもの早く決めてしまおう」
雑談をしていたら、いまだに注文をしていなかった。
「あれ?八木君は選ばないの?」
一人だけメニューに目を通さず、虚無を見つめていた八木君に声をかける。
「皆さんが、話している間に決めましたよ」
さっきまで蚊帳の外にいたため、その間に決めていたようだ。あたりまえか……。
八木君がこれ以上退屈しないように、だべっていた組は慌てて注文する商品を決める。もっとも、慌てても注文する商品が決まるとは限らないのだが……。
結局決まるまでにそれなりに時間がかかった。
「まさか全員肉料理とは……」
夕飯として食べる上に、先生の奢りなので、だれも遠慮しなかった。
「しっかりセットまでつけて、そんなに腹減ってんのか」
もちろん腹が減っている。昼食べたのが焼きそばとおやつ程度のものだ。育ち盛りの中学生からすると、腹が減って仕方がないに決まっている。
腹の虫はなっていないが、いつ大きく鳴いてもおかしくない。それくらいには空腹感はある。
「それで、進学してもゲーム制作するつもりなんだってな?」
顧問が、進学後の活動の話を聞いてくる。
「えぇ、同人って言って個人で作って、イベントとかネットとかで販売したりするやり方があって、せっかくだからやってみようかなと俺は考えてまして」
部長が説明を始める。
「それで一緒にやってくれないかってさっき誘ったら、みんなやってくれるというので、頑張って次の作品を作ろうかと考えてます」
「そんなこともできるのか……。もし販売し始めたら俺にも教えてくれよ。絶対買うから」
顧問はそう言ってくれる。俺たち以外でプレイしたのはこの人が初めてだったので、一号ファンだといってもいいのかもしれない。
「確かにゲームに問題点はあるが、俺は結構楽しく遊んでいる。ほかの先生たちに見せる機会があれば自慢しながら見せるんだが、みんな驚きの表情ばかりだ。ゲームを作った学生なんて初めて見たってな」
顧問はそう言って褒めてくれる。中学生でゲームを作ったなんて、驚かれることかもしれない。それは、今日展示中に何人もの声を聴いて、身をもって理解できた。
「俺も最初聞いた時はびっくりだったよ。プログラミングが義務教育に来たとはいえ、大した授業もやっていなかったから、作れるかどうか不安だったけど、想像以上のものを作り上げてくるとはな」
「でも、俺はもっといいモノを作りたいです」
褒めてくれるのはとてもうれしいが、俺は自分が納得いかない点を思い出し、次こそ同じ失敗しないようにしようと考える。
「今回の開発、部長の仕様書通りに作れなかったのが一番の心残りです」
実は、主に技術的問題点で、部長が当初描いていた仕様とは違うものを作っていたのだ。部長と相談しながら、そうした箇所はいくつもある。
俺がツールに頼らなくても、一から作ることができていればおそらく起きなかった問題だと思っているくらいだ。
「じゃぁ、進学後はもっと知識を付けて挑みたいと?」
「はい。俺がもっとプログラミングの知識を持っていれば、実装できる内容の幅は広がります
それに、そっちの方が将来役に立ちそうじゃないですか」
俺は正直に答える。ゲームを作ることも大切だが、高校生活でもゲーム制作をつづけるのであれば、将来に生かせるようにやらなければ、高校三年の段階で躓くことになると思ったからだ。
プログラミングの勉強に集中するということは、ほかの教科の勉強が必ずしもしっかりできるとは限らない。
そのうえゲーム開発までするとなると、学校の授業内容を復習したり、三年になった時の受験勉強や就職活動、それらが入ってくると余裕はないだろう。
進学するのか就職するのかはわからないが、中途半端な学習した内容より、他の学習内容を犠牲にしてまで専門知識をつけたほうが、よっぽど将来役に立つと考えた結果だ。
「技術者不足は相変わらず、変わらないからな。確かにプログラミングの知識を持ってるだけでも、仕事を勝ち取れそうだ。他のメンバーはそこまで考えていたりするのか?」
俺の考えは納得してもらえることができたが、他のメンバーはどうだろうか?俺と違って、いい職につながるイメージがわかない。
将来につながらないのに、時間のかかるゲーム制作を行うものなんて珍しいかもしれない。
常識的に考えて、真面目に勉強するべきだろう。成績はそっちの方がよくなる。だが、その先に選べる職は、自分がやりたかったことなのだろうか?やっていて価値が見いだせる職なのだろうか?そう考え始めた時、俺は胸を張ってそう言える職を目指そうと思っていた。
「私は、イラストレーター目指してもっといっぱい絵を描くつもりです」
「俺はゲームの企画を書く!シナリオも書く!認められるまで書くつもりです!」
「僕は、作曲。やりたいと思ってます」
皆の将来の目標。それは、ゲームの要素とも一致していた。
「いいんじゃないか?実践もしてる分、ほかの学生とかよりも優秀だったりするかもしれんしな」
ただ技術という面で言うならば、そうとは思えない。プログラミングの授業を見ていて、俺よりできる奴はクラスの中にもいた。
ただ、顧問の言う通り俺たちは実践経験がある。そこだけは俺よりプログラミングできる彼らよりも、勝っている部分だ。
顧問が言っている優秀さとは、この実践能力にあるのだろう。
知識として知っているものでも、活用できなければただ知っている事象に過ぎない。となれば、仕事などで役に立つとは限らない。
「さて、そんなこと言ってるまに、そろそろ来そうだぞ」
厨房からウェイトレスが、料理を運び出してくる様子が見える。
注文した料理がカートに載せられて運ばれる。肉をのせた鉄板プレートから、おいしそうな音を出しながら近づいてくると、腹の虫が大きく鳴きそうになる。
全員に料理が並べられ、何か足りないことを思い出す。
「飲み物用意してなかった!」
食べる前の乾杯をする雰囲気でもあるのに、飲み物を入れてきていなかった。
打ち上げといっても、居酒屋なんて中学生には向かないし金がかかる。顧問が選んだ店はファミレスだった。
打ち上げ会場としては店選びが微妙だったが、奢ってもらえるわけだし、中学生なら十分だろう。
慌ててドリンクバーコーナーに向かい、飲み物を用意する。
「いやぁ、やっぱサイダーだわ」
一番最初に部長が飲み物を入れ始める。
「いやいやコーラだろやっぱり」
以前にもしたような、飲み物の議論をドリンクバーコーナーで始めだす。
「みんな大好きオレンジジュースでいいじゃん……」
「そうはいかねぇ!確かに、オレンジジュースってだけなら大人も子供も、炭酸好きもそうでない人も飲めるような代物だが、秀でたものを感じられない!」
いまいち、何を言っているかわからない主張を始める部長。
「お前らこんなところで騒ぐな。八木を見ろ。お前らより年下だが、そんなことで騒がないぞ」
注意してくる顧問だが、八木君はいつもそんな感じだ……。マイペースというか……、気が向いたら話に入る程度で、俺達から話しかけたり、そういう流れを仕向けないと話すことは少ない。
全員が自分の飲みたい飲み物を片手に席につくと、やっと乾杯だ。
本来、料理が届く前に用意しておくべきものなはずだが、のんびりと会話していたら順序がおかしくなってしまっていた。
そうなってしまったものは仕方がない。乾杯をしようとみんなが、コップを手に持ち掲げる。
「それじゃぁ、パソコン部ゲーム開発お疲れさまでした~!」
顧問が乾杯の音頭を取り、皆が手に持ったグラスを軽く当てていく。
「はー!うめぇ!やっぱこれだわ!」
部長はやや酒飲みのおっさんのような発言をするが、今日やっと開放されたような感覚に陥ると、自分もコーラ一つに同じようなことを感じていた。
飲み物で乾いた喉を潤すと、次は肉だ!食べやすい柔らかさかつ、肉汁が口の中で溢れ出してたまらない。
所詮ファミレスではあるが、美味しいという事実は変わらない。
さっきまで色々語っていたのが嘘みたいに、俺達は夢中になって食べていた。
一通り平らげたあとはまた雑談に入り始める。
「次はSFファンタジーのRPG作るぞー!」
部長は次作る作品の話を語り始める。
「え~、素材作るの大変そうだし、私SF興味ないんだけど……」
副部長からブーイングが入る。副部長の絵柄は、異世界ファンタジーとか西洋風とかいった感じなので、メカニックなモノは確かに向かないだろう。
「僕はやってみたいですね」
八木君はやっぱり男の子ということもあって、興味はあるようだ。
「拓はどんなのが作りたいんだ?」
そこまで考えたことはなかった。強いて言うなら――。
「負担が少ないゲーム」
「やりがいなさそう……」
先日まで苦労の連続だった今、作りたいものを聞かれても楽に作れるものと答えてしまう。そもそも今は、作りたいものより今回の反省点を次どう活かすかが自分にとっては重要だ。
「少なくとも次作るときは、もっとスケジュールに余裕がある方がいいな」
俺はそうぼやきながら、部長の方を見る。
部長は目をそらすが、チームメンバー全員が同じ気持ちを抱いていたので、全員から圧のある視線を送られる。
「君たちさっきから、ホント同じことしか言ってなくないかい?そんなに酷かったの?」
一人、あの状況を知らない顧問だけが、唯一視線を送っていない人物だった。
「もうひどいってもんじゃないですよ……。退屈な日が続くと思ったら、どうしようもないほど忙しくなる日のジェットコースター状態でしたよ……」
部長の作業が進まない日はものすごく暇で、部長の作業が進む、または終わった日からは一気に忙しくなる。それなら定期的に仕事をこなしている方が断然楽だ。
「いやさ……、アイデアでないんじゃ仕方ないでしょ!?俺だって頑張って頑張って思考してたじゃないか!」
「とか言いながら、こいつ研究だの、勉強だの、参考だの、って言い訳してゲームばっかやってたんですよ」
本気でやっていて、詰まってしまっているのならそれは仕方がないかもしれない。ただ、部長の場合、明らかに遊んでいる時期があったので俺達はそこに怒っているのだ。
「あれがなかったら、もっとつまらないゲームになってたかもしれな――」
「だからといって、一日に十二時間もゲームやる必要あったんですかね?」
部長がまた言い訳を始めようとすると、副部長が在りし日の話を始める。
「篠崎……。それはお前……、恨まれても仕方ないぞ……」
その話を聞くと顧問まで呆れてしまう。
「ほら見ろ!先生だってこう言ってる!反省しろ!」
「はい……」
夢ある話をしていたはずなのに、気がつけば説教に変わっていた。
「まぁ次からは、仕様書ができてから作業って約束だからね」
仕様書が出来上がるのを待つなら、誘ってくる時点で出来上がっていなければ受けないというスタンスに、僕らはした。
これならば、部長のせいで作業が遅れることは少ないだろ。
「その間誰も催促してこないよね!?」
「しないしない」
別に催促するほど、部長の考えたゲームの制作に興味はない。俺からすれば、自分一人でもある程度のものは作ることはできる。
「なら、まったりのんびりやってもいいよな~」
そう楽観視する部長だが――。
「じゃあ次の作品は、ゲーム部分制作担当の定時拓君を中心に部長抜きでやりましょう」
副部長が提案する。
「それはいいな。八木君も手伝ってくれる?」
「まかせてください」
容赦なく追い打ちをかけていく。
「おいおい……、俺と一緒に作ってくれるんじゃ……」
「仕様書が出来上がるまでは他人だし?催促されないと、部長は仕様書に手を付けないでしょう?つまりいつまで経っても完成することはない」
となれば、部長とゲーム制作なんてもうすることはないだろう。
「お、俺だって一人でも仕様書くらい書き上げられるし!そんな事言い始めたらお前たちだって、作品の方向性決まらなくて、制作がかなり難航して仕方なくなるだろうよ!」
なぜここで、自分がしっかり作り上げると言えないのか……。
「まぁ、部長がいなかったら俺じゃシナリオは用意できないしな」
「私はそこまでゲーム詳しくないし」
「細かな謎解き要素とか用意できないですもんね」
少しばかり言い過ぎたので、フォローしてやることにする。
「だろう。そうだろう!やっぱ俺が必要だよな。うんうん」
フォローしてやるんじゃなかったと、俺は後悔してしまう。
「でも、次の制作できるようになるまでは時間かかるだろうな……。俺たち受験あるから……」
部長の作業どうこうよりも、次の作品の制作を始めるために超えないといけない壁が俺たち三年にはあった。
もう、11月だ。あと数ヶ月で高校受験と卒業が控えている時期に、次の開発に向けた行動なんてできるわけがない。
「進学したらしたで、早めに話を始めないと今度は八木君が時間取れなくなってくるだろうしね……」
チームメンバーで唯一の年下、八木君は来年度卒業。そうなると、俺達が進学後のんびり制作の話をしていたら、彼が作業する余裕がなくなってしまいかねない。
再来年度になれば俺たちは高校二年。八木君は高校一年になるのでそういった問題は出ないが、そこまで期間を開けてしまうと、制作に腰を上げるのがとても重そうだ。
となるとやはり――。
「部長には仕様書を作りながらやってもらったほうが、制作期間は短くて済むはずだよな……」
仕様書の完成を待っていたら、来年の夏休みが終わっていても不思議ではない。それならできるところから、大変な時期があったとしてもやっていくほうが、時間はかからないはずだ。
待っている間の時間を作業にするか、ただ待つかだけでも作業期間というのは大きく変わる。
それは、俺が登校拒否中に戦闘のバランス調整を行っていたことからもわかることだ。夏休み明けにやっていたら間違いなく、文化祭の展示には間に合っていなかっただろう。
時間を有効的に使えるかどうかも、制作において重要な要素だと俺は思っている。
「確かにそっちのほうがいいよな!」
嬉しそうな眼差しを向けながら、部長はやや前のめりになる。
たぶん作業効率とか関係なく、自分が頼りにされると思っているのだろう。
「部長が作業をきちんとこなせば、別にそうしなくてもいい気もするけどなぁ」
今の提案は前提として、部長が作業に期間を要するというもので、数日で仕上げてくれれば、仕様書を完成させてから作業に入っても問題ないだろう。
「結局そこに戻るのかよ……」
「それだけ重要な役割を持っているんだって、もっと自覚を持って行動してくれ」
部長がもっと自分の作業に対してしっかり対応できていれば、本当になんの問題もないと思えるんだが、五ヶ月一緒に制作していてそんな気配は一切なかった。
「さて、そろそろ話もある程度すんだろう。さっきから同じような話しかしてないし、もうお開きにするぞ。これ以上は遅くなるからだめだ」
顧問が雑談に終止符を打つ。時計を見ると時刻はすでに八時を過ぎていた。
確かに中学生がこれ以降の時間出歩くものではないし、顧問は教師としての責任もある。さらに言えば、男子だけならともかく女子もいるのだから、流石にもう解散だ。
顧問が会計をしている間、俺達はその後ろに立って各々雑談を続ける。
最近のアニメは何を見ているだとか、おすすめだとか、そんな会話だ。
会計を終えた顧問が、俺たちの方を向く。俺たちはその時、
「ごちそうさまでした!」
とお礼を忘れずにする。
今日、顧問から奢られるなんて誰が思っていただろうか?しかも、ファミレスとはいえ肉料理だ。さらにいえばセットで頼んでいたので値段は結構かかっただろう。
いくら自分が担当する部活の生徒が頑張ったからって、支払う金額ではないような気もするが、大人の余裕というやつなのだろうか?俺たちの言葉を聞くと顧問は笑って、どういたしましてと返してくれた。
そのあとは自転車にまたがった俺達を、顧問は店の駐車場から見送り解散となる。
昼間はまだ太陽の光で暖かさがあるが、夜になるとそんな暖かさはなく、とても寒い。まだ漕ぎ始めで、体が温もっていないというのもあるだろう。
もうすぐ二学期も終わる。遅れながらも受験戦争にいい加減参加しないとならないが、目標とする進学先すらまだ決まっていなかったことを思い出す。
担任と相談してしっかり決めないといけない……。
あと、親とも相談しないとならないな……。今の活動の話をしっかりしたこともないし、俺が何を目指しているのか、何をしたいか、そんな事をしっかり話していかないといけない。さらにいえば、その先のこともどう考えているかも伝えないといけないし、そのためには将来像をしっかり描かないといけない。
ゲームクリエイターってのも悪くないし、ITプログラマーという道を選ぶのもある。少なくとも自分は、皆より当たり前の勉強ができていない。だからこそ、専門性の高い職業を選ぼうと考えている。
ゲーム制作というやるべきことを終えても、また違うやるべきことがたくさんあることにやや憂鬱になりながらも、俺はもう一度気合を入れなおす。
文化祭を終えてからの日々は、あまり楽しいと感じられることは少なかった。
受験勉強の毎日。俺の場合不登校期間のせいで、学び直すことが多すぎた。こんな時期になってからだったが、親には塾に通わせてもらうことになる。
塾は個別指導なので、遅れを取った部分から丁寧に教えてもらうことができたが、勉強に時間が取られた分、楽しみの少ない日々を送っていた。
担任からは現状でも進学可能な学校から、情報系を集中的に学べる学校を絞ってもらった。塾に通い出したからとはいっても、あくまでも余裕のある進学をしたいわけであって、ギリギリで受験合格するくらいなら、勉強をほとんどできていない時点から通える学校のほうがマシだと思ったからだ。
「総合高校……」
担任から提案された高校の中で、最もおすすめされたのがこの学校だった。
理由として、副部長の道場さんがここの芸術学科に進学をすると考えていること、同様に部長の篠崎も情報学科への進学を考えているらしい。
部活はもう引退しているので、そろそろ二人の呼び方を変えていかないといけない。
道場さんの芸術学科進学はともかく、篠崎の情報学科進学は予想外だった。
ゲーム制作において俺がゲーム部分の作成を行っていたわけだが、篠崎自身もパソコン部元部長なだけあってスキルは高い。ただプログラミング的思考をするのが少々苦手らしく、本人曰くそのあたりの改善のためにも、この学科に決めたらしい。
もし三人とも合格することができれば、また部活メンバーとして作業を行うこともできるし、互いの連絡に困ることはなくなってくる。
ただ、俺だけが抱えている問題点がある。出席率の低さだ。
どれだけ勉強して、二学期の成績だけでもいい評価をとったとしても、出席率の低さだけは変えることはできない。
学力としては三人とも問題ないらしいが、どうしても成績面で問題を抱えている俺が、受験に落ちる可能性が高い見込みだそう。
しかも、出席率の低さの理由が大したものでもないので、同情を得ることもできないだろう。
その学校の受験には面接があるらしい。となると、この出席率の低さは突っ込まれる可能性が十分ある。そうなると、どうやっていい印象に持っていけるか、持っていけないにしても最悪な状態に持っていかないようにするにはどうするかが、今担任と頭を悩ませているところだ。
やはり登校拒否をしていたことは後悔することになった。自堕落に毎晩ゲームして、朝に寝て昼に起きる生活をしていた俺を、思いっきり床に殴りつけたいとまで感じる。
学校へ行くと、日に日に模試が増え、そのたびに空気が重くなっているような気がする。
高みを目指す学生ほど模試の結果に、顔が様々な形に変わる。
文化祭後のパソコン部三年引退後、八木君とはあっていない。時々校内で顔を見かけるが、話す内容も特に思い当たらないので、声をかけづらい。
目線的には気づいているようだが、彼の性格だ。俺と同じように話す内容がないから声をかけられないのだと思っている。
ちなみに新部長は八木君に決まった。副部長はパソコン部員の中でも情報科目を中心に成績がいい人を選抜したらしいが、ゲーム制作が始まるまで幽霊部員かつ不登校だった俺が知っている人物なわけがなく、知らない男子生徒が選ばれていた。
パソコン部の割と恒例らしく、特に大きな活動をすることがなければ部長、副部長をわざわざ選ぶ必要もないらしい。
といっても、学校の部活動におけるルール上部長、副部長を用意する必要があるので、とりあえず名前だけ借りている。つまり、幽霊部員だけで構成されたりしたら、幽霊部長、副部長が生まれたりするのだ。
廃部にはならないのだろうかと、顧問に訪ねてみたが、どうやらパソコン部は情報教育を課外で進めるために作られたため、廃部になることは基本ありえないらしい。ただ、部活動費の振り分けは冷遇されることになるとのことだ。
といっても、現状大きな問題にもならない。パソコン部はパソコンを扱うのが基本。そのパソコンは学校の備品なので、部活動費が削られたところで、パソコンを失うことだけはありえないのだ。
ただし、俺たちがゲーム開発をしたように、なにか変わったことを少ししたくなったときの機材は部活動費から出すしかなくなるため、学校から割り当てられる部活動費が少なければ備品の購入上限額も低くなるので、新たに備品を買おうとした場合には自分たちで集めて支払うか、諦めてしまうかなどの話になってしまう。
そうならないためにも、パソコン部にはせめて活動してますアピールをしていってほしいと思う。
「拓君」
たった四ヶ月前が夏休みだったというのが嘘のように、冷えた季節の授業中、道場さんが話しかけてくる。
「なに?」
授業中と言っても、自習の時間だったので多少の私語は問題なかった。
「進路どうするか決まった?」
何度か聞かれた質問だったが、俺はつい最近まで決めきれていなかった。
自分のひどい成績がどうしても、担任の進める総合高校受験へと足を向かせてくれなかった。
しかし、もうどうするか決まった。
「総合高校受けるよ」
もっと、成績面で合格確実というのは無理でも、余裕のある学校を選ぼうと思っていたりもしたが、ついこの間、一月ぶりに自分たちの作ったゲームを開いて少し遊んでいたときに、もっと一緒にいたいと心の底から思ったときに決心がついた。
「じゃあ受かれば一緒の学校だね!」
笑顔でそう言ってくれるが、プレッシャーだ……。
受からなければ、この三人で俺だけが違う学校に行くことになってしまいかねない。
篠崎が落ちるようにも見えない。馬鹿なようで、勉強は普通にできるし、成績も悪くない。思考が浅はかで、短絡的なだけだ。
せめて入試の点数だけでも、一点でも多く稼いで有利に働くようにしなければならない……。もう、あと二週間もすれば冬休みに入り、サンタが来たと思ったら正月がすぐに来る。
正月にまったりしていたら、気がつけば冬休みは終わっている。そんな一瞬で過ぎ去っていく時期が来ても、堕落せず、必死に勉強し続けないといけない。
今のところ日々の努力で、模試の点数は上がってきてはいるが、もともとの点数が絶望的に低かった。
アリがカエルになったところで、ゾウに勝てることはない。今からゾウを目指すのが無理だとしても、せめてウシとかウマとかくらいにはならないといけない。
いまのところゲームは封印し、パソコンも勉強で使う以外の行為をしていない。スマホも同様に基本勉強補助のために用いてる程度だ。
誘惑に何度も負けそうになるが、一度負けると積み上げてきたものが一瞬で崩落しそうに感じてしまい、なんとか踏みとどまれている。
多分一度触ってしまうと、二度三度と触ってしまうだろう。
「そういえば道場さんの場合、受験時に提出作品出さないといけないんじゃなかったっけ?」
芸術学科は、作品の提出の必要があるらしい。受験勉強だけでなく、そちらも用意しないといけないのは大変だと思う。
「今まで作った作品で一番いいと思った作品を提出すればいいだけだから、もうとっくに出来てるよ」
「わざわざ受験用に新しいの作らないんだ」
受験用に新しく作るものだと思っていたので、少し驚く。
「それでもいいけど、新しく描いた奴が上手というわけでもないし、私は私が一番好きに描けて、好きになったやつを出そうと思ってるよ」
「そういうものなのか?」
「そういうもの」
こうやって会話するのもあと何回だろう……。
同じ学校に行くとしても、学科は違う。ゲーム制作をするとはいっても、疎遠になるかもしれないと思うと、少し寂しさが残る。
少なくとも来年にはこうやって、授業中に会話することはないだろう。
「拓君はどう?受かりそう?」
「わからない……。模試の点数としては一応合格ラインに乗るようにはなってきたけど、出席率とかがやっぱ響いてて、面接の時どうやってうまくごまかせるかが勝負かもしれないって、担任には言われた」
点数だけ見れば合格らしいのだが、やはり成績自体はよくない。これは今から変えることはできないので、点数でカバーしていこうと思っている部分だが、点数もようやく合格ラインだ。まだまだ、カバーしきれるだけの点数ではない。
「そっか……。でも、二学期からきてここまでできたんだから、きっといい結果になるよ」
「だといいな」
道場さんは励ましてくれる。
「それに、そこで寝てる人のほうが点数やばいらしいよ」
そういって、篠崎のことを指さす。
いやまじか……。
「私たちだけ合格して、篠崎だけが落ちたら笑いものね」
そうなったら、やっぱこいつとゲーム制作だけはやらないでおこうかな……。別にゲームの内容決めるくらいなら俺だってできないわけじゃない。
まとめるのとか苦手だが……。
「ねぇねぇ、卒業して受験も終わったらどっか遊びに行かない?」
「遊びに行くのはいいとしても、どこに行こうか……。三月に行くような場所……」
まさか遊びに誘われるとは思わなかったが、どっかといわれるとどこに行くことになるだろう?あまり遊びがあるような時期だと思っていない。
夏なら海やプール、冬ならスキーなどがあるが、春と秋の時期に遊びに行くといわれても特に思いつかない。
「別に、ゲームセンター行くとかあるでしょ……」
ついつい、特別な季節の遊びを考えてしまっていた。そうかゲームセンターとか、ボウリングとかそういったところへ行けばいいのか……。
「あー映画も行きたいかも」
「ショッピングモールあたりにいけばすべて解決しそうだな……」
映画も見れる、ゲームセンターもあるそんなところに行けば、一日くらい時間をつぶせそうだ。
「まぁ、そのためにも受験合格しないといけないけどね」
「それはそうだ……」
落ちたら受験し直しだ。遊びに出かけている余裕はない。
これでますます、落とせなくなる。
俺はこの日から、さらに勉強の時間量を増やして挑もうとするが、集中力はうまくもたなかった。
ゲーム制作をしていたころなら、もっと集中力あったのにと思いながらも少しでも頭に詰めようと、勉強に向き合う時間だけはしっかりと確保した。
冬休みに入り、クリスマスが来たと思ったら年末。年末に掃除をしていたら、気が付けば正月と、日は一瞬で過ぎ去っていった。
三学期が始まると、時々面接の練習が入る。先生たちがいうには、高校受験の面接は素行調査程度だからそこまで固くならなくてもいいらしいが、慣れないものはやはり緊張して固くなる。
質問されそうなことを頭に思い浮かべてきても、実際に質問を受けると、何を答えようとしていたのかわからなくなる。一瞬のうちにして頭の中が真っ白になるのだ。
そして、失敗してしまったと思うとミスが続けて起こってしまう。受験当日、そのようなことにならないための練習だが、練習段階でこの状態では大丈夫なのかと不安になってくる。
幸い、点数は順調に伸びていた。この調子でもう少し伸ばせば、成績もカバーできるだろうと担任は伝えてくれる。ただ、あまりにも酷いので除外されることもあるかもしれないというのは、どうしようもないことだとも言われた。
できることはやれている。それだけの話で、いい結果が得られるとは限らない。
それでもいい結果に近づけるように努力する日々。
中学最後の試験も近づいてくるが、そちらの試験勉強をわざわざすることはなかった。
授業聞いていれば大抵は解けるし、基礎的な知識は今受験勉強という形で行っているから、そっちに手をかけるくらいなら、受験勉強をつづけた方がいいと、塾の先生に言われ、自分でもそう思ったからだ。
試験期間中は、学校の授業時間でも受験勉強しやすいのでとてもよかったと思う。
日に日に、仲良く会話なんてしてる余裕というか、周りの空気がというかなくなってきて、二人とも話していないことに気づく。
二人共、真剣な表情で勉強しているから、話しかけづらいというのもある。
不登校気味になったあの頃感じた、息苦しさを感じる。
しかし、二人も合格するという意気込みなのが伝わってくるので、今はそれでいいと思えるし、その息苦しさから逃げ出すこともなく、自分も勉強を頑張らないと、と思える。
一月は行く、二月は逃げる、三月は去ると誰かは言った。
その言葉通りで、すでに一月は行き、二月もつい先日去った。三月は来たばかりだが、すぐに去ってしまうのだろうと思うと悲しい。
しかし、三月が去るよりも早く俺たちはこの中学を去ることになる。
とうとう来た、卒業式。
桜はまだ咲ききっておらず、ほとんどが蕾のまま。
私立受験など行った生徒はすでに受験を終え、安堵しながら旅立てるが、俺たちのような公立志望は明日が試験。
周りの大人たちは、今日はもう勉強はやめておけと言う。
不安や寝不足で当日集中できないのは最悪の事態だからだ。
国歌に校歌にと歌わされた挙句、卒業生の歌う歌とかいう明らかに大人たちの自己満足につき合わされて、すでにのどが痛い。なのに、飲み物を飲むわけにもいかず、早く終わってくれないかと思っていたところに、校長のくそ長話。それが終わったら、PTAだか教育委員会だか知らない人間の長話……。いい加減開放してくれ。
一部の生徒は泣いていて、鼻をすする音がやまない。
泣く生徒は、小学校にもわずかにいた。あの頃もそうだったが、卒業式で泣く感覚がいまいちわからない。
一生会えないわけでもないし、会おうと思えば連絡を取り合って会えばいい。昔みたいに文通の時代ではない。メッセージを送ればそれでいい話だ。
ましてや、高校生になるのだから、そうそう大きく離れるわけでもない。
高校の卒業式ならば、進学先が他県だったり、就職して上京したりなんてあるだろうから、ドラマとか見ていてもその感情は理解できる。
そうじゃない状況で泣くのは、俺にはわからなかった。
ただ、早く終わってくれないかなとしか、感じられなかった。
寒さをこらえて、やっと式は終わりが来る。退場すれば各々のクラスに戻り、最後のホームルームが始まる。
最後の配布物。担任からの送りの言葉。明日受験者への注意事項。そして、記念撮影。
記念撮影といっても、学校としてではなく、クラス単体としての動きなので自由に写真を撮るだけの話だ。
「拓」
篠崎に手を引かれ、一緒に並ぶ。
篠崎さらに隣には、道場さんが立っていた。よく考えれば、チームメンバーで写真撮った覚えがない。
部活メンバーの写真は、一学期の間に撮り終えていて、そこに俺の姿は当然ない。
後日、個人で撮ったわけでもないし、下手すると枠外に亡霊のような形で残されることもないかもしれない。
まぁ、来なかった俺が悪いのだから仕方がないのだが。
でも、学校のメンバーとして会うのはこれが最後かもしれない。
必死に頑張って頑張って作ったこの年、思い出の一つを、残したくなった。
「なぁ、よかったら四人で撮らないか?」
そう、二人に告げる。ここにいるのは三人。八木を呼んでこないとならないが……。
篠崎は久しぶりに部長らしい顔つきをする。
「それなら、八木に来るように連絡しておくから、あとで四人で撮ろう。カメラマンに先生も呼んでおくか」
篠崎はその提案に乗ってくれた。
学校行事として終わったのにもかかわらず、卒業生たちはにぎわっていた。
そんな彼らをよそに、俺たちはパソコン室へとやってくる。
そこには八木君が立っており、俺たちは彼の声をかなり久しぶりに聞いた。
「卒業、おめでとうございます」
八木君はそう言って、頭を下げる。
制作してた頃も思っていたが、本当にいい子だ。
「ありがとう。それでさっき連絡した通り、写真を撮りたいんだけど……、やつがまだ来ないな」
カメラマン役の担任兼顧問のことだろう。
「部長になった気分はどうよ」
「特に何も……。やることってそこまでないですし……」
新たな部長となった八木君だったが、幽霊部員の温床状態のパソコン部にそれほどやることはないらしい。
「来年度の勧誘会、ゲームを作りましたって堂々とこれでいえるな」
「言っても、技術持ってる人行っちゃうじゃないですか」
「それだけは……、どうしようもない」
「それだったら、頼ってきてくれたら教えることだってできると思うけど……。といっても俺は独学でやれたから、頑張れば独学でできると思うけどな……」
俺は提案してみる。頼られることは嫌いじゃない。
「まぁ来年度、ゲーム作りたいって子が入ってきたらまた連絡してみます。僕一人ではどうしようもないので……。音楽担当でしたし」
それは仕方がない。
そうやって話していると、やっと担任がやってくる。
「すまんすまん。クラスの子たちにつかまっててな」
なんとなく予想はしていた。情報科の教師は陰こそは薄い方だが、担任という役職につけばそれなりに生徒はついてくる。
中学卒業時はとりあえず、写真を撮ろうという風潮があるように思える。ようするに、振り回されたのだろうな。
元部長は自分のスマホを渡し、改めて写真を撮ってもらうようにお願いをする。
「やっぱお前たち四人はすごかったよ」
顧問はそう言う。
「じゃ、はいチーズ」
古臭い掛け声な気もするが、俺たちはその声に合わせて、ピースなどのポーズをとったりする。
数枚撮った後、SNSのグループに篠崎が撮った写真をアップする。
「先生案外うまいじゃん」
撮られた写真はきれいに撮れていた。
「こうみえても、カメラには結構な額費やした時代があったからな」
「へぇ……」
聞いてやるべきだったような気もするが、あまり興味もわかなかったのでスルーした。
少しへこみつつも、担任は俺たちに向かって、元顧問として最後の言葉を送ってくださる。
「高校行っても、もし離れることになっても、お前たちはお前たちの作品を作り続けてくれ」
と……。
この先生が、俺たちの作品をかなり気に入ってくれているのは、先生からの発言からだけでなく、ほかの先生方の話からも分かることだった。
職員室で暇があれば、プレイしていたり、めちゃくちゃおすすめされて、知らぬ間にカバンや引き出しの中にゲームのディスクが入れられていたらしい。
結構なことをしているが、好かれているのはうれしいことだ。
俺たちはこのファン第一号とも呼べる人に、お礼を言って、中学校を卒業していった。
とうとう迎えた受験日。昨日の卒業式が嘘のように思えたまま、試験先の学校へと向かう。
電車の遅延に巻き込まれたくはないので、それなりに早く出てきたため、それほど陽は登っておらず、空気は澄んでいた。
自転車で駅まで行くと、篠崎と道場さんがいた。
「おはよう」
その声に気が付き、俺のほうを見る二人。
白い息を出しながら、二人もおはようと返してくれる。
「もうすぐ電車の時間だな」
篠崎がそういうと、俺たちは改札を抜ける。
ホームで電車が来るのを待っている間、三人とも何かを話をするものだと思っていたが、これといって話はしなかった。
電車が到着する。電車の中はとても暖かく、座ってしまえばうっかり寝てしまいそうだ。だから僕は立っていた。
試験校につくと、少し騒がしい声がしてくる。
この春の時期とはいえ、まだ寒いこの時期に外で待たされる。
ここへきてもまだ、僕らは会話なんてものはしなかった。
この間までの学校と変わらない。むしろ、今日は本番なせいか、より話しかけづらい空気を俺は感じていた。
「受験者は中へ、受験番号の書かれた教室の座席に座るように」
開始一時間前くらいに、そう案内される。ここからは本当に離れ離れだ。
受験番号に一致する教室へ向かうと、廊下の前に長机が設置されていた。
「筆記用具のみカバンから取り出して、荷物はここに置いていくように」
と指示される。
緊張こそはしたものの、緊張のあまり腹がつぶれそうになるということはなかった。
教室に入ると暖房がかかっており、かじかんだ手がほぐれる。とてもありがたいことだ。かじかんだ手のまま、ペンなんてまともに握れないし、字もうまく書けないからだ。
ただ、この暖かさは変に眠気を呼び寄せてくる。
試験監督がやってくると、試験時の注意、そしてカンニング行為の準備などを行っていないかの確認が始まる。
ここからは試験教科が終わるまで、外には出られない。
教室には時計はなく、時間間隔が狂う。
問題用紙が配られた後、解答用紙が配られる。試験官が出した合図とともに、全員が紙をめくり、記入事項と解答を解答用紙に記入していく。
この後は必死で、何を解いたかも覚えていなかった。
時間が余ってからは、何度も見直しを行い、正解の精度を高めようとする。ここで、一つ決めたことがある。
そうとう確信がないうちの解答変更はしないということだ。
AとBどっちだったっけ?Aだと解答したけど、Bだったかもしれない。なんていうのは間違えることのほうが多い。模試の結果を見ると、このミスをしていることがそこそこあったことに気が付いたからだ。
一教科目の試験が終わり、一度教室の外に出される。
周りでは、解答に関する会話が繰り広げられていたが、俺たちはその会話をしなかった。
そうやって、試験を終え、残すは面接。
正直、もうへとへとで今すぐに帰りたかった。
五教科に加え、志望学科用の試験を受けてからの面接だ。後日にやれよと心の奥底でぶちぎれる。
もはや面接なんて、何を聞かれて、なんて答えたのかすら覚えていなかった。
試験校から出てくると、朝みた陽の光は東ではなく、西の空に移動し、昇ってくるのではなく沈んでいっていた。
あっという間の一日。これで合格か否かが決まるのかと思うと、あまりにも一瞬の出来事だったと思う。
頑張った量に見合わない。
ゲームも制作にどれだけ時間をかけても、出来上がるのはプレイ時間数時間程度だったりするのだから、少し似ているかもしれないとか感じてしまった。
合格発表の日。
俺たちは自分の受験番号を三人で回して確認することにした。合格が願望からの幻でないこと、不合格でなるべく取り乱さないことを目的とした行動だ。
俺のを道場さん。道場さんのを篠崎。篠崎のを俺が見ることになる。
「1997……、1998……」
篠崎の受験番号は1999番。ここで数字がなくて、2000が来ていたら、あいつは不合格ということだ。
「1999……。あった」
自分のじゃないからか、喜びがあまり出てこなかったが、心の奥底から安心したのははっきりと感じられた。
学力面では一番落ちる危険性があったから……。
「篠崎!お前の番号あったぞ!」
人ごみの中、篠崎を何とか見つけた俺は、当人に合格を伝える。
「道場も受かってた!お前は!?」
「まだ聞いてない!どこにいるかわかるか!?」
人が多くて、とても見つからない。
なんとか合流できた俺たちは、道場さんを探す。
「いた!」
見つけたのは篠崎だった。人ごみから少し外れたところに、座っていた。
「道場、拓の結果は!?」
俺が聞くべきことだが、篠崎が先に質問する。
道場はすぐには口にしなかった。
落ちていて言い出しづらいのか、さっきから顔を下に向けたままだ。
「合格」
不合格か……、やっぱ真面目に学校に行ってなかったから……。
「えっ?」
不の字を聞きそびれてしまったか?雰囲気に合わない単語が聞こえてきて驚く。
「合格だよ!おめでとお!」
そう言って、道場さんは俺の手を握ってくる。
「え?え?」
「拓、合格おめでとう」
篠崎からそう言われてやっと理解できる。
「ありがとう?」
それでも混乱は収まらず、合格したという実感もわかなかった。
そのあと、合格祝いにやっぱり八木君も来てほしいと全員の意見で、八木君を呼んで、ついでに顧問も呼んで合格祝いの食事に来た。
また奢ってもらうのも悪いので、全員自腹でバイキング。
「三人ともおめでとう!」
「おめでとうございます」
二人からも祝いの言葉をもらう。
「さて、俺たち三人の合格を祝して!乾杯!」
こうして、俺たちの受験戦争も終わり、四月からは三人同じ学校へ通うこととなった。
そして――。
「次の作品のテーマを発表します!」
乾杯後、篠崎は宣言し始める。
「次の作品のテーマは、引きこもりが学校までたどり着くために奮闘する、バカみたいな話のRPG!」