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暇つぶし  作者: 来知
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第二章 夏

 気が付けば六月も終わり、七月に入っていた。

 暑さは日に日に増していき、クーラーを付けなければ生きていけない。そんな暑さだ。

「学校ももうすぐ夏休みだなぁ」

 そんなことを考えるが、俺には関係ない。今のところずっと夏休みだ。

 パソコン部のゲーム制作を始めて一か月ほどが経つ。時間というものは早いもので、残酷なことに作業は大して進んでいるように感じられなかった。

 ゲームシステムはほとんどできている。問題は、ストーリーとそれにあった各イベント、マップがまったくできていない。

 戦犯は俺ではなく、部長。

 副部長曰く、書く書く詐欺をしてまったく書き上げてないらしい。

 中世の騎士団所属、新米部隊の話らしいが、はじまりの町からいまだ次の町へ行けていない。

 もっとも、どんな敵が出てくるかは書き上げてくれているため、敵の設定はできている。プレイヤーキャラクター達も完成している。今の作業の中では、ゲームバランスが問題点だ。

 これが意外と難しいところで、少し数値が違うだけでも、無理ゲーになったり、ヌルゲーになったりする。

 やり始めてからあることに、すぐ気が付いた。最後まで時間のかかる作業だと。そのため、俺はこの何もすることがなさそうな状況でも、敵と戦い、調整を繰り返す。

 序盤にスライムとかこうもりとか出てきて、一発で死ぬなんてゲームがあったら真っ先に捨てる。そうと分かっているからこそ、この延々と戦闘を繰り返す作業を行うのだ。

 かく言う部長は、描くものがなくなった副部長監視下の元、放課後の部活でしごかれているらしい。

 話が定まらなければ、どんな音楽が必要かもわからないので、サウンド担当の八木君も暇しているらしい。

 そんな、今にも沈みそうな嵐の中、部長からある提案が飛び出す。

『気分転換に、夏休み入ってすぐの祭りにみんなで行こう!』

 という話になった。

 そんなことをしていていいのだろうかと思う。

 でも、誰かと祭りに行くなんてかなり久しぶりな気がする。その日が待ち遠しく思う自分が、間違いなくいることに気が付く。

 しかし、祭りか……。小遣い足りるかな……。というか、夏休み入ってすぐって言われても、夏休みいつからだよ……。

 素直に聞くべきか……。学校行ってないからこんなこともわからない。たぶん普通の中学生なら、毎日今か今かと夏休みを待っている時期だというのに、俺は家で夏休みを先に味わっている。

 夏休みの宿題は何だろうか、やることはないだろう。だけれど、やっていなければ余計行きにくい。

 気にはなるといったところ程度にしかならないが、できそうな分だけでもやっておけば、少しは二学期から登校する気になれるのではないだろうか?

 そう思えてくる。

『夏休み入ったらいろいろやろう。一緒に宿題もしよう。皆で宿題やれば早いだろ』

 部長がさらに提案してくる。

『写させてもらう気しかないくせに』

 副部長が突っ込みを入れる。

 確かにこの少しの間だが、部長のメッセージを見ていて思うことがある。ノリが軽く、しょうもない魂胆が見え隠れしている。

 ここ最近日常になった、いつもの会話を見て聞く勇気が出た。

『夏休みはいつから?』

 たった九文字の内容だが、彼ら相手でないときっと送ることはなかった文章だ。

『七月十八日からだぞ』

 返信が返ってくる。

『祭りは十九日。これそう?』

 副部長が補足してくれる。

『大丈夫。行けます』

 と、返事を返す。

 十九日。あと二週間ほどだ。

『拓君の分の宿題。私が預かってるから』

 さらに副部長からメッセージが届く。どうやら夏休みの宿題はやらないといけないらしい。

『俺の分?』

『君の分』

『お前だけ宿題免除なんかさせないからな。同じクラスの俺たちが担任から預かっておいた』

 まじかよ……。いや、やりたくないわけではない。やらなきゃ登校する気が出ないだろうから、やっておこうと思っていたが……。

 まさか、自分の手元に届くことになるとは思いもよらなかった。

 学校に取りに行くのは、正直しんどい。かといって、いまだ誰かも知らない担任が持ってきてくれるかどうかなんてわからない。親は担任を知っているらしいが……。

 だが一つ問題がある。

 宿題を渡されたところで、絶対解けない問題ばかり出てくる。ここ丸一年授業をまともに受けていない。

 そう思った時、少し前のメッセージを思い出す。

『一緒に宿題もしよう』

 まさか、俺ができないかもしれないと思っていったのか?

 いや、考えすぎか……。

『夏休み。拓の家に基本集合な』

 勝手に決められてしまった。

『え?』

 困惑していることを送る。

『みんなの住んでいる場所から、ちょうど中心くらいにあるんだよお前の家』

 と返ってくる。

『それに、お前が一番宿題やばいだろ』

 と、まぎれもなく最もたる理由を述べてくる。

『わかった……』

 と返して、話はそれで終わった。

 また違う生活に変わるのだろうか?

 宿題をやれば少しは学校に行こうと思えるのだろうか?

 ゲームは完成させられるだろうか?

 疑問に残ることがいっぱいある。だけど、夏休みに入るまでになるべくできることをしよう。でなければ、宿題に時間がとられてしまうから。

 そう思うと、手は自然と進んでいった。

 テスト動作の確認作業も手慣れてきたものだ。以前までなら、やってわからなくて、ネットで調べて、理解できるものは理解。できないものはどうしようもないで放置してきたのに、そんなことは減り、調べる前に問題点に気が付くことができるようになってきた。

 おかげで作業効率は上がり、部長が物語の続きを上げてこないのがボトルネックになっていたくらいだ。

「次は全員レベルマックスの状態で、ラスボスと戦えばどのくらいで勝てるかどうかだな」

 そうやって戦闘を始める。

 レベルマックスまできたらいわば、最強なわけだが、ラスボスをあっさり倒せてしまうのではさすがに面白みがない。

 かといってラスボスに勝てないんじゃ、ごみげーにしかならない。

 程よく手ごたえのある戦闘ができ、そのうえで、行動が適切であれば勝てるかどうかが重要だと、俺は考えている。

 ただ、この調整がかなり難しいのだが……。

 強すぎるのはキャラクター達なのかラスボスなのかが、わからないからだ。

 そのために、ラスボス以外にも戦って確認するほかないと思っている。数日前からずっとこんな感じだ。

 そもそも、作った敵がどのくらいのタイミングで出現しだすのかがわからないから、手探り状態だ。

 勝手にキャラクター達のレベルがどのくらいの時に出ると仮定して、調整を行っているせいで、部長次第ではこの作業、水の泡になりかねない。

 でも、この作業は地味に好きでやめられない。

 ちょっとステータスいじるだけでも、結果が大きく変わるところが面白く感じてしまう。だから、ついついいろいろ試したくなってしまうのだ。

 スキルの発動タイミングなども細かく指定していくと、敵の強さが大きく変わることがある。なぜなら、瀕死の状態では回復や防御を行い、体力に余裕があるときに強力な攻撃を出せば倒すのにとても苦労させられる敵の出来上がりだ。

 ただ、マップ上でエンカウントするような敵ならばこれをしてはならない。マップ上の敵を倒すのにキャラクター全員がいちいち死にかけになっていては、ゲームに対するストレスがすさまじいからだ。

 最初のうちはアイテムで何とかなるかもしれないが、アイテムが尽きれば町に戻って補給しないとならなかったりする。そうしたらまた一からマップを進める必要があったりすることがある。

 正直やっていられなくなる。

 そうならないためにも、自分がテストプレイをするのだが、やはり情報不足のうちは調整しづらい。

 とりあえず、ボス級の敵は下手すればやられてしまう。通常の敵は回復もままならないまま連戦を続けるとやられてしまうくらいの調整を目指している。

 ボスの調整はともかく、通常の敵ほど面倒なものはない。数が増えればそれだけ厄介になるからだ。

 早く続きのシナリオと企画書の内容届かないかなと、天井を見つめる。


 気が付けば夏休み前日になっていた。

「割とあっという間だったな」

 キーボードに手をのせたまま、つぶやく。

『明日宿題届けるからね』

 と、副部長から連絡が来る。今さっき終業式が終わったらしい。

『明日から本気出す』

 と、部長がメッセージを送っているが、絶対本気にならない。今までの行いが物語っているからだ。有言不実行。それが部長なのだ。

『明日から皆の監視下の中、作業してもらいます』

 副部長が宣告する。とうとう有言実行(強制)になるようだ。

 以前から続く、テスト戦闘の作業はいまだに続いている。というか、これくらいしかできないのだから仕方がないのだが……。

『いい加減にしていただかないと、曲間に合いません』

 普段既読の数だけを増やしていく八木君までもが、部長に対して催促のメッセージを送る。

『俺の方も作業進めにくいんで、早くお願いします』

 便乗して、催促を送る。

 部長、逃げ出さないといいけど。

『ほんとすんません……』

 メッセージ越しの謝罪。一応明日家に集まるらしいので、その時にでも副部長がぼこぼこにしばいてしまうだろう。

 明後日の祭りも楽しみだ。


 翌日、副部長が部長の襟をつかんでやってきた。その後ろにひっそりと八木君もいた。

「放してください!まじですんません!」

「私を見るなり逃げるってどういうこと?ちゃんと説明してくれる?」

 めちゃくちゃ謝る部長に対する、副部長の満面の笑みが怖い。状況はなんとなく理解できた。

 おそらく副部長を見て、恐怖し、距離を置こうと逃げ出すも捕まってしまったのだろう。おまけでつけるなら、進捗状況が悲惨なこともあるのかもしれない。

「尋問はとりあえず家の中に入ってからで……」

 俺は玄関のドアを開けて、彼らを向かい入れる。

「そうね。それじゃあ、お邪魔します」

「ちょっと待って、靴!靴くらい脱がせて!!」

 部長が靴を脱ぐのを待たずに、引きずっていこうとする。靴を脱ごうとする部長だが、靴はすでに脱げていた。

「あれ!?俺の靴どこいった!?」

 そう叫びながら、勢いよく首を振り靴を探す。

 すると、ここにといわんばかりに八木君が部長の靴と思われる靴を、やや汚そうに持っていた。

「靴ありましたね。じゃあ行きますよ」

「いででででで!あったけど無茶苦茶しないでくれ!」

 まだ朝だというのに、元気なことだ。

 八木君は部長の靴をその辺に投げると、礼儀正しく靴を玄関横に揃えて家に上がった。

「まさか、部長嫌われてる?」

 俺が部長にあったのは最初の挨拶の時だけ。

 というか、あの日以来メンバーの誰とも会っていなかった。

「あ、飲み物くらい持って行かなきゃ」

 さっき玄関のドアを開けた時、いかに外の世界が地獄か身をもって経験した自分は、この地獄の中我が家まで足を運んでくれたみんなに、飲み物をもっていかなければならないという使命感にとらわれる。

 だが、家の中にあったのは麦茶だけだった。

「こんなものしかなくてごめん」

 俺は謝る。ジュースの一つもなかったのだ。

「いいよいいよ。冷たい麦茶のほうが夏らしいし」

 言いたいことは、なんとなくわかる。

「それで、これが学校の宿題。私が教えるから二人で進めていこ」

「あれ?俺は?」

 年下の八木君が含まれないのはともかく、部長まで含まれなくて本人がそのことを尋ねる。

「早く企画書」

「はい……」

 どうやら、宿題よりも企画書を書かせたいらしい。

 確かに書いてもらわないと、こっちは何もできないので妥当だろう。

「あ、企画書書き終えたら宿題写させてくれるよね!?」

「自分でやれ」

 企画書を終えたら、宿題免除とはいかなかった。部長の夢は潰えたらしい。

「八木ぃ……、俺は孤独だぁ。先輩のためだと思って読書感想文くらい手伝ってくれよ~」

「いやです」

 後輩に先輩という単語を使って手伝わせようとするも、撃沈。

 後輩にやらせるとかみっともないにもほどがあるぞ、部長……。

「あんなのほっといて、こっちはこっちのやるべきことをしましょ」

 そう言って副部長はカバンから、同じものを二つずつ取り出していく。

「はい、こっちが拓君の分ね」

 約束通り、俺の分も持ってきてくれたのだ。

「自由研究は自分でできるし、読書感想文もできるでしょ。国語は私得意じゃないから教えられないし、そもそも見た感じ授業受けてなくても解こうと思えば解けそうだから、数学・理科・社会・英語のどれから始める?」

 自由研究も読書感想文も確かに知識はなくても自分でできる。何ならホームセンターにでも行けば、夏休みの自由研究用のキットが売っているくらいだ。

 自由研究何するか考えておくとして、読書感想文が厄介だ。感想文といわれても思いつかないので苦手だ。

 国語は毎年、確かに知らなくても一応解けるような内容のものだからこれもなんとかできるだろう。

 さてその他、どれから始めようか。

「迷うなら一ページずつ教科を変えるってのもありかもよ?」

 そう提案される。

「じゃあそうしよう」

 俺はその提案に乗る。

 とりあえず数学からだ。

 見知らぬ単語、式、記号が出てきてすでにパンクしそうだ。副部長の解説なんて、頭に入っては抜けていきそうになる。

 必死にメモを取りながら、実際に解こうとやってみて、もし間違えていれば丁寧に指摘してくれる。

 とはいっても、副部長も特別賢いわけでもなかった。

 そのため、二人ともわからない箇所は教科書やノートを見たり、最悪ネットで調べたりしながら進めた。

 数学や理科の計算問題はこの方法ではあまりはかどらなかった。

 しかし、社会に関してはものすごくはかどり、英語も最終奥義の翻訳サイトを使えば答えがすぐに手に入った。

 ズルをしている気にもなったので、そうやって得た回答に関しては赤ペンで、印だけつけておいた。

 その日は三ページずつ問題集の問題を解き終え、部長の中途半端な企画書の一部を受け取り、解散となった。

 そのころには陽も傾き始め、赤い空がとても綺麗で、目に焼き付く。

 いよいよ明日は祭りだ。

「明日は、思いっきり羽を伸ばすぞ~」

 体を伸ばしながら部長は言う。

「日曜日だし、明日は休日ってことで」

 副部長も楽しみなのか、部長の企画書も明日だけは免除する様子だ。

「明日は五時に集合ってことで、今日は解散!おつかれ!」

 部長の最後の挨拶を終えると、みんなそれぞれ家に向かって帰る。

 

 祭りの日、とうとうこの日が来た。

 だが、いざ当日になると緊張する。

 相変わらず服装には困るし、祭りに持っていくものにも困る。

「いろいろ持っていくと邪魔だしな……」

 とか思いつつも、人ごみの中で転んだらケガするだろうから、絆創膏は必要だろうし、飲み物や食べ物を買うにしても、ゴミを手に持っていたら邪魔になるだろうからごみを入れる袋も持っておきたいし、暑いから扇子でもないとオーバーヒートしてしまうかもしれない。

 そんなことを考え始めるといつまでたっても準備が終わらない。

 頭を抱えていると、インターホンが鳴り響く。

「はい」

 まだ午後四時。集合には一時間早い。

「拓君。ちょっと早いけど来ちゃったから、悪いけど家に入れてもらえる?」

 副部長が、家の前に立っていた。

 浴衣姿で。

「ごめんね~、こんな格好だから移動に時間かかるかなと思って早めに家を出たら、だいぶ早くついちゃったもんで」

 確かに、この格好なら多少移動に時間がかかっても不思議ではないだろう。

「それで、外で待っていようかとも思ったんだけど暑くって暑くって……。玄関前で溶けきってしまいそうだったから、家に入れてもらったわけなの」

「今日、めちゃくちゃ暑いよね……」

 引きこもりで、クーラーのかかった室内に普段からいるせいか、余計そう思うのかもしれないくらいに今日は暑い。

「そうだ、アイスあるけど食べる?」

 俺は冷凍庫に入れてあるアイスの存在を思い出す。

「いいの?」

「別にいいよ。ちょっと待ってて」

 昨日の勉強会から少し距離が縮まった気がする。異性の友人なんていなかったものだから、とても新鮮に感じてしまう。

「はい」

 二つで一つになったアイスの片方を、副部長に渡す。

「ありがと。ん~、冷たい!回復する~」

 暑さが飛んでいくような、そんな気分なのだろう。とても幸せそうな表情をする。

「ゲームの作業のほうはどう?昨日あれから進んだ?」

「とりあえず、マップの仮作成はしたところかな。部長に確認してもらってよければ、イベントの情報を追加していく予定だよ」

 昨日みんなが帰った後、わずかばかりの企画書からマップの作成だけは行っておいた。宿題を進めようかと思ったが、それまでにそこそこ進めていたのでやる気があまり起きなかったのだ。

「見せるのは明日?」

「そのつもり。今日は休みだからさ……」

「そうだね」

 そんな会話をしながら、約束の時間まで僕らは時間をつぶした。


「おーっす!ってもう来てるの?俺遅刻じゃないはずだけど?」

 午後五時まで一分前。部長が到着する。

 八木君は十五分前には来ていた。

「別に遅刻じゃないけど、惜しかったわね」

「へ?」

 副部長の発言に部長は混乱する。だが俺も続いて――。

「あぁ、実に惜しかった……」

 それに続いて八木君までも、

「惜しかったですね」

 と、述べていく。

「何の話だよ!」

 一人蚊帳の外に立たされている部長は、全く何の話か分からないので、ツッコミを入れるしかない。

「部長が遅刻するかどうか賭けてたんだけど、全員一致で遅刻するだったから遅刻したら、部長に今日食べるものすべて奢ってもらおうと思ってたんだけどね~」

 悪魔のような発想を、副部長は口にする。

「俺そんなに信用ない?」

 一番正直に答えそうな八木君に向かって、部長は尋ねるが、八木君は首を一度縦に振って即答する。

「ひでぇ……。ところでこの賭けはお前たちの負けなんだから、俺に対して奢るなりなんなりあるんだよな!?」

 最もたる意見だ。賭けならば両者にメリットは存在しなければならない。だが、そんなに甘くないのがパソコン部。

「あるわけないじゃん」

 と副部長真顔の即答。

「はーーーー!?」

 部長の絶叫。

「馬鹿なこと言ってないで早くいきましょ」

 副部長は立ち上がり、固まった部長の横を素通りして家を後にする。

 部長……。どんまい……。企画書早く上げてくれよな……。

 なんとか固まった部長を動かせて、副部長の足並みに合わせながら、祭り会場へと向かっていく。

 会場に近づくにつれ人が増えていき、気が付けば屋台の匂いが流れてくる。

 そして、その匂いを味わっていると、匂いの元の屋台が見えてくる。唐揚げにフライドポテト、やきそばにたこやきと定番が並ぶ中、ケバブなどあまり見ないものも並んでいる。

「何を食べようか……」

 おいしそうなものが立ち並ぶと、どれを食べようか迷ってしまう。

「とりあえず、定番のものは皆で分けて変わったもの食べてみたいかな」

 意外とチャレンジャーな副部長に対し――。

「いややっぱ焼きそばとたこ焼きと唐揚げ食べて、〆にかき氷だ!」

 とチャレンジャーそうで硬派だった部長が争い始める。

 八木君はというと、なんか知らぬ間に変な宇宙人?のようなお面を買って付けていた……。

 もしかしなくても、パソコン部って結構変人しかいないのではないのか説が、ここにきて自分の脳内に浮上し始める。

 とりあえず、部長の意見はわざわざ屋台で食べる必要性をあまり感じられなかったので、副部長の提案に乗ることにした。家で食べても差異はあってもものは変わらないのなら、割高のものを食べる理由はない。

 新しい食べ物がおいしければ、新たなる発見と幸せな気分が待っている。もっとも、おいしければの話で、おいしくなければ最悪トラウマになる。

 昔、インドカレーを興味本位で食べたことがあったが、あまりの辛さに食べきることができず、丸一日口の中がマヒしたのであれはトラウマになった。そんな食べ物も世の中にはあることを学んだこともあった。

「拓君もこう言ってるし、色々食べ巡りしよ~!」

 そう言って副部長は俺たちの手を引っ張る。

 そのあとは、みんな一つずつ自分が食べたことのないものを選び、みんなでそれを食べるという一連の流れを繰り返していた。とはいっても、半ば副部長の強制だが。

「ワニ?ワニ食べるの?毒入ってたりしない?ワニって食べられるものだっけ?やだよ俺?享年二十歳にもなっていないのやだよ?」

 最初のうちは、タコのから揚げやタコスなどのメニューとしてみたことはあるけど、実際食べたことはないかつ、屋台で見た覚えのないものばかり食べていたのだが、ついにゲテモノにまで手を染め始め、部長が全力で拒否する。

「じゃあ私から食べる」

 副部長は恐れを知らないのか、ワニの肉を平然と口に入れる。これでもいい値段したので捨てるわけにはいかない。

「ん~!意外とおいしいよ!ほれほれ」

 そうやって、副部長は無理やり俺たちの口にワニの肉をぶち込む。

 観念しておとなしく食べると、意外と知った食感と味が現れてくる。

「ワニの肉って鶏肉みたいだな」

 最初買うのに猛反対していた部長が、ワニの肉を食べてみて目を丸くしながら感想を述べる。

 そうだ、鶏肉に似ている。新たな発見だ。

「もっとこう、禍々しい味なのかと思ったけどなじみ深い感じだよね」

 どうやら買うのを強行した副部長も、驚きの味だったようだ。

「なにあれ!めっちゃでかいポテト売ってる!」

 副部長が新たな珍しい食べ物を見つけ指をさす。その指の先には、渦巻き状態の揚げたジャガイモらしきものが、串刺しにされて売られていた。

「次はあれね!」

 だれも止める間もなく、副部長は買いに走る。

「俺いい加減、たこ焼きとか無難なものを食べたいんだが?」

「部長。俺いつイナゴとかの虫類に手を出されるか不安で仕方ないんです……」

 俺と部長は、各々の思っていることを打ち明ける。軽率に副部長の提案に乗ってしまった自分が憎くなってくる。

 というか、近くでイナゴの佃煮を販売してるとち狂った屋台がある……。

「絶対あれやばいですよ」

「やばさでお客さん避けまくってるくらいだからな……」

 部長にその屋台の存在を伝えると、そこに人が寄っていかないことを部長は指摘する。それでも買う人は一応いなくはないあたりが怖い。

「ただいま~!次は何にしようかな」

 あれだけは絶対に阻止せねばならない。

「そろそろ焼きそばとか買おうよ。こういうの値段の割に量少ないしさ……」

 いい加減珍しいものから引きはがし、イナゴの佃煮から遠ざけようと試みる。

「さすがに俺たちもさ……、いっぱい食べたいっていうか、財布の中身もぎりぎりだからさ、定番メニューで量とりたいわけよ!」

「え~……。じゃあせめてこのあたりで一つくらい」

 やばい!このあたりで珍しいものなんて、さっきのポテトを除いたらイナゴの佃煮くらいしかない。というかなんで定番メニューが立ち並ぶこのあたりで、イナゴの佃煮がいるんだよ!両隣の屋台の人たち迷惑に思ってるだろうな……。

「……。やっぱたこ焼きにしよっか」

 ここまで来てまさかの、意見が通った!?

「え?まじで?」

「だって、イナゴの佃煮はさすがに嫌だもん」

 もっともな理由だった。

「いくらなんでも虫なんて食べたくない。というか見るだけでも無理」

「もしかして副部長って、虫苦手な人?」

「だって、見た目めちゃくちゃ気持ち悪い。それに中途半端に小さいし、道端で轢かれて死んでるのなんてかなりグロテスクじゃない?」

 どうしよう苦手な理由を聞いてるだけで、食欲が失せてきた。

「それじゃ、たこ焼き屋探そう!!」

 そういって副部長はまた歩きはじめ、僕ら男三人はそのあとをつけていく。

 傍から見たらあれだ、逆ハーレムに見えるかもしれない。

 いや下手すると、搾取されてるように見えるかもしれないなどとくだらないことを考えながら、たこ焼き屋の屋台を探す。

 さっきまで定期的にあったのに、今歩いている辺りには無いようで、とても困る。

「なぁ……、先に焼きそば買わないか?ちょうどそこにあるし……」

 部長が切り出す。

「うーん。たこ焼きみたいに見つからなくなってからじゃ面倒だし、いこっか」

 副部長の許しが出た。

 というか、副部長のほうが強い部活になっている気がする。部長って活躍しているところあまり見た記憶がない……。

 焼きそばを買うと立ったまま食べるには、少々食べづらいので、座れるような場所を探す。

「人が多すぎて、座れるような場所ほとんどとられてるな」

「そんな気がしてたよね……」

 どこにいっても座れる場所はすでにとられている。どこか行くのを待つにしても、どこかに行く保証もなければ、ほとんどが複数人で来ていて、場所取り役を残していく。

「これじゃあいつまでたっても座れそうにないよな……」

 そうぼやくと、

「僕レジャーシート持ってきているんで、広い場所に行けば座れますよ」

 あまり発言しない八木君が口を開く。

「まじか!?ナイス!」

 レジャーシートがあれば地面に座ることができるので、大変助かる。直接地面に座るのは俺たちは別にいいが、副部長は浴衣だからさすがにそうもいかなかったので、ベンチを探していたが、これでその必要性はなくなった。

「でも座れる広い場所もこのあたりにあったっけ?」

 付近を見渡すがそんな場所はなかった。

「少し歩けば、祭りのときは使われない駐車場がありますから、そっちまで行けば座れますよ」

「まじで!?」

 珍しく八木君がよくしゃべる方だ。

「でもよくそんなこと知ってるね?毎年来てるけど知らなかった」

「屋台のあるあたりから離れますからね。毎年家族と来るので、その時に使ってました」

 穴場スポットというやつだろう。しかし、家族と毎年か……。

「え?じゃあ今日誘って大丈夫だったの?」

「えぇ、家族といっても下の兄弟の面倒見させられるだけなので、正直気乗りしてなかったので……。一緒に行かなくて済む口実ができてよかったです」

 そうか兄弟がいると、下の子たちの面倒を見るために連れ出されるのか……。一人っ子だからよくわからない話だ。

「兄弟いるんだ?」

「弟と妹が……。弟が小学五年で、妹が三年なのでもう今年は母一人でも大丈夫でしょうし……」

 兄弟二人もいたら、そりゃ面倒を見させられるだろうな……。

 珍しく話をたくさんしてくれる八木君に僕らは色々質問しながら、駐車場へと向かう。

「めずらしいね。そんなに話すなんて」

 兄弟話に一区切りついたあたりで、普段話すことの少ない八木君が今日はよく話すことを尋ねる。

「話しかけられたら話す程度なので……。あまり自分から話しかけようとはしないですね」

 つまりは、尋ねられたことにはきちんと話を返すということだろうか?

 普段から話しかけることはなく、話に入ってくるのを待ってばかりいるけど、年上ばかりのチームで入りやすいわけもない。

 今度から入ってこられそうな会話があったら、話を振ってみるのもいいかもしれない。あまりよくわかっていない彼の一面がみられるだろう。

「つきました」

 うるさいくらいの屋台があるあたりとは違い、人の声がかすかに聞こえるあたりまでやってくるとその場所はあった。

 遠くで屋台の賑わいが聞こえる程度で、結構静かだ。

「花火もおおむね問題なく見られますよ。ただ、低く大きい花火は少し見切れてしまいますが」

「いやそれでも、ここなら十分楽しめるだろ!ありがとうな八木!」

 部長は静寂な雰囲気をぶち壊しながら感謝する。

「でもなんで駐車場が閉鎖されてるんだろ?」

 副部長が疑問を投げる。

「たぶん、交通整理できるような場所じゃないことと、駐車場といってもそれほど広い場所でもないので開けていないんじゃないですか?あと、このあたり道もそんなに広くないので、車の利用率が高いと救急車両通れないとか」

 俺は自分の分析を淡々と述べる。あっているかはわからないが、そんな感じがする。

「確かに、このあたり駐車場ないから集中するよね……」

 副部長はそれで納得したようだ。

「焼きそば食ったら、ほかにもいろいろ買ってくるよ。定番のものなら近くの屋台でもあるだろ。各自食べたいものメッセージ送っておいてくれ」

 気前がいいように見えて、おそらく定番メニューの食べ巡りをしたいだけだろうなと俺は推測する。

「部長の奢り?」

「そんな金ねえよ!」

 残念。

「あ、たこ焼き買うの忘れてますね」

「じゃあ部長たこ焼き人数分よろしく」

 焼きそばを買ってから、たこ焼きを買おうとしていたことを完全に忘れていたので、部長に買ってきてもらうように頼む。

「ついでにラムネ人数分と、私にフライドポテトお願いね~」

 勝手にラムネを注文した挙句、さっき変わったポテトを食べていたのに、フライドポテトを要求する副部長。

「そんなに持てねぇよ……」

 ちょっと運ぶには無理がありそうだ。付き合おうかと思ったその時だ。

「ここにエコバッグあります。ここに入れれば持ってこられる量だと思いますよ。ラムネは冷たいのでラムネ用のバッグもあります」

 二つの手提げバッグを取り出す八木君。どうやらついていく必要はなくなった。

「誰か一人でもついてきてくれるって話にならないのね……」

 寂しそうにツッコミを入れる部長に対して、「いってらっしゃい」といわんばかりにグッドサインを出す副部長。

「部長。俺色々見てから買うので、ついていきますよ……」

 さすがにかわいそうなので、俺が付いていくことにした。

「ありがとう拓。お前だけだよ俺の味方は……」

 そう言われて少しだけ寒気がした俺は、部長をスルーして一人屋台へと向かっていく。

「いや拓、待ってくれよ!無視はないでしょ無視は!」

 改めて思う。部長の威厳ってどこにあるんだろうかと……。

「なぁ、なんでみんな最近そんなに扱い雑なんだよ~」

「心当たりがないと?」

 副部長の対応が皆に伝播しているというのもあるだろうが、それ以上に部長があることをしていないからだ。

「ん~。ノリが軽いから?」

「近い、それもあるんだけどさ。他にあるでしょ」

「えぇっ!?悪かったよ……。今度から距離置いて話すよ。できる気がしないけど」

 あ、これ全然わかってないやつだわ。

「部長……。俺たち、今何やってましたっけ?」

「買い出し」

 話にならない……。

「どうしたそんな頭抱えて、頭痛いのか?」

「あぁ、部長に対して頭が痛くなてる」

 ここまで言ってわからないとは、所詮脳内設定厨らしい。不思議そうに首をかしげているのがものすごくムカついてくる。

「仕様書だよ仕様書!今日は休みだから催促するわけじゃないけど、さっさと書き上げないからみんな扱いが雑になるんだよ!」

「あっ、あー、それに関してはごめんなさい。いやほんと!脳内では完璧にできてるんだけど、表現するときに詰まっちゃってさ~」

 これが嘘だということも、さんざん理解している。

 翌日に仕様の内容が変更されるのだから、完璧にできているわけがない。半ば思い付きで追加したり消したりしているに違いないだろう。

「とりあえず明日から本気でしないと、副部長に首絞められるよ」

「はい……」

 軽く脅して、屋台巡りを行う。だが、陽気だった部長からは少々活力が消えていた。

 一通り買うものがそろうと、駐車場へと戻る。

 道は不確かな記憶で進むが、概ね合っていたのでたどり着くことができた。

 ただ、部長がさっきから放心状態で油断するとはぐれそうになるという問題も抱えていた。少し言いすぎてしまったかもしれない。

「ほら部長、戻ってきたんでしゃきっとしてください」

「心が折れた……」

「そうはいっても、元はといえば部長が仕様書作り上げられていないのが悪い」

「死体撃ちされた気分だ……」

 少し責めすぎたか……。いつもテンションが高い部長のテンションが、めちゃくちゃ低い。

「買い出しに行っている間に何があったの……」

 そんな部長を見て副部長は疑問を投げかける。

「いやちょっと、最近扱い雑じゃないかって聞かれたんで、その理由を言ったら……」

 俺は小声で伝える。

「あー、自業自得ね……」

「そういうこと」

 とはいえ、せっかく盛り上がる花火の前に、こうも湿っぽい表情されると雰囲気がいまいち悪い。どうしたものか……。

「そういえば主人公のザキって、結構力技に寄ってるんだよね」

 自分の作品の話につられるだろうと思い、こんなあざとい会話を始める。

「イラストも脳筋みたいなものって頼まれたんだよね」

「イメージソング頼まれたとき、力強い感じって僕は言われました」

 皆話を合わせだす。

「ゲーム中のステータスとしてもずば抜けてるんだけど、調整してたら上位魔法を使えないくらいまで弱体化しちゃったんだよね……。別に問題はないけど、回復が弱くて弱くって……。回復に徹し始めたら負けることが多かったなぁ」

 部長のほうをちらちらと見ながら会話を進める。

 こっちで勝手に盛り上がっているだけのようで、少しずつ部長に動きが見える。

「そうだ!あいつは昔から不器用で魔法を使うの苦手なんだよ!だからヒロインのアイナの回復魔法が必要で、魔法を使えない分、物理攻撃で補えるように日々努力してるキャラなんだよぉ!」

 あっけなく会話に釣れる。部長が単純でとても助かった。

「うおー!キャラの設定思いついてきた!」

 そう言って部長はカバンの中から、ノートとペンを取り出す。

「そのアイデアノート、まさか持ってきてたの?」

「アイデアはいつ降りてくるかわからないからな。いつでも書けるように、基本持ち歩いてるぞ」

 やる気だけは確かな人だ。やる気だけはだが。

 ノートの中身も無茶苦茶で、矢印があっちこっちに伸びていたり、塗りつぶされてるかと思ったら、どでかい四角や丸に囲まれていたりとカオスを極めている。

「実はもう一冊シナリオノートあるけど、そっちは集中できるとこじゃないと書けないから持ってきてない」

 とかいいつつ、落書きを始める。部長には何が何だかわかるのかもしれないが、傍らで見ている俺達には全くわからない。おそらくいつもの”脳内設定”がないと、理解できない内容なのかもしれない。

「そんなにモチベーションあるのに、なんで仕様書が書きあがらないの?」

 今の光景を見て誰しもが思ったことだ。

「いやさ……、あれやこれやとよさそうなものを入れようとすると、面白くなさそうなものになっちゃってさ……、色々悩んでたら全然出来上がらずに数日たってるって感じで……」

 やる気だけは一番の人間の作業が遅れている原因は、そこらしい。

「いやほんとごめん……。皆の作業が止まっているのはわかってるんだけどさ……。進まなくてほんとごめん」

「あーあ、そんなことくらいなら相談してくればいいのに。俺なんか引きこもりでゲームばっかりしてたばかりか、今ゲームを組む担当やってんだから一緒に面白くなる方法考えるのに」

他のメンバーはゲームに直接通じる部分を担当しているわけじゃないから、相談しづらいのはともかく、俺はゲーム部分の担当だ。詰まっているなら相談くらいしてほしい。

「部長が今しでかしてることは、一人で抱え込んでスケジュール食いつぶしてるだけ。行ってくれなきゃ僕らは何もできない」

「一人で作ってるんじゃないんだから、頼ってほしい」

 頼ってもらわなきゃ、手伝ってほしいことがわからない。

「悪かった。すまんが、仕様書の中身書くの手伝ってくれ!特にシナリオが全然うまく進まないんだ!」

 そう言っては、部長は大きく頭を下げる。何事だろうと他の人達が見ているから、そこまでしてほしくない。

「じゃあ、明日からみんなで考えよう」

 明日やるべきことが決まった。

 その時だった。

 夜空に大きな音を立てながら花が咲く。

「しょうもないやり取りしているうちに、花火始まったな」

「まぁ、話のキリはよかったじゃない」

 次々と夏の空に花が咲いては、消えゆく。

「物語だったら、だいたいここで夏休みイベント終わりぐらいじゃないか?」

 唐突に部長が言い出す。

 確かに花火を見て夏が終わるような話の流れはよく見るが……。

「まだ夏休み二日目なんだよな……」

「それだけいっぱい作業する暇があるってことだろ」

 考えるだけで、疲れが襲いかかってきそうだ。

「エンディングに花火演出ってどう?」

 急なエンディング演出の話が挟み込まれる。

「世界観あわなくないか?」

「そうかな?いいとおもったんだけどな」

 副部長からすれば、いい案だと思ったらしい。確かにいい感じになるとは思うが、中世の世界感に合うのか?

「というか、花火見てもゲーム作りの話って……、末期だな」

「毒されてるね~」

「完成させないとな……」

 真面目な顔で部長はつぶやいたが、

「早くシナリオ書き上げてくれないと、曲の作りようが殆どないんです。明日からは頼みますよ」

「はい……」

 と、後輩に責められる。

 だが、この夏休みはきっと忙しくなるに違いない。

 必死にもがいて作り上げた先に、いいものが出来上がっていればいいなと、逆さまになったハート型の花火を見て思った。


 パソコン部は今日も、死地をさまよっています。

「あづい。もう何も頭に出てこない」

「もう、解けない。これ以上解いたら溶けそう。なんちゃって」

 夏の暑さと、脳の酷使で俺と部長は完全に死んでいた。

「今日も?そんなことしてると夏休みあっという間に終わっちゃうよ」

 そのことはもちろん理解している。理解はしているが、それでも集中できないものはできないのだ。

「まだ8月入ったばかりでしょ、あと一ヶ月もあるのに今からそんな調子じゃだめでしょ」

「まだ一ヶ月もあるなら、別に仕様書急がなくていいよな」

 やる気が出なくて、完全に怠けモードへとスイッチが入っており、仕様書の作成を放棄し始める部長。

「別に夏休み明けて登校するかわからないのに、宿題やっても無駄になりそうだし、別にやらなくてもいい気がしてきたな……」

 部長の怠けにつられ、俺も怠け始める。

 やる気がどうしても起きない。

「宿題やらなきゃ、余計学校に行きづらくなるって言ってたの拓君だよね……」

「そんなきもする……」

 気だるさで適当に返事する。

「この二人を見てたら、こっちのやる気まで削がれるわね……」

 完全にだらけきった俺に副部長もお手上げかと思ったが、副部長はそこまで甘い人じゃなかった。

「いい加減にしないと、これで殴るよ?」

 武力行使に出始めた。それは勉強書籍の中でも一番分厚い、英和・和英辞典だ。流石にそいつで殴られてしまっては、文字通り二度と起き上がれなくなりかねない。

 あまりの恐怖に俺は背筋を伸ばし、無理やりやる気を振り絞って、作業に対する姿勢を見せる。反感を買えば即死だ。

 ことの重大性を理解したのか、部長も同じような姿勢になる。

 だが、実際に作業に赴かなければ、いつ行使されてもおかしくない。俺は何が書いてるか意味がわかっていない問題集に向き合い、問題を解こうとする。

「じゃあこの問題の説明に戻るね」

 さっきまでの殺気とは違い、ごく一般の中学生の雰囲気に戻っていた。

 副部長の怖さは、この部に所属していないとわからないかもしれない……。

 部長も今ので手を抜いたらやばいと、顔に文字が出そうな勢いで仕様書作成に努める。

 なんで俺たち、女子に脅されてるんだろうか……。

「夏休みだってのに、遊んだのは今のところ祭りの日だけだな……」

 部長がぼやく。

「そうだよな~、夏休みだけどそれらしいことしてないよな」

「してるじゃない。夏休みの宿題」

 いや流石にそういうことじゃないんだが……。

「でも確かに、このままじゃつまらない夏休みよね」

 毎日作業と宿題を繰り返して終わる夏休み。しかも、中学最後の夏休みでこれだ。むなしすぎる。

「泳ぎたいな」

 部長はつぶやく。

「プールか海か」

「プール」

 副部長が投げかけた二択に、即答する部長。仕様書の中身もそれくらい即決して、書いてほしい。

「プールかぁ……。スライダーとか滑りたい……」

 そういう副部長だが……。

「スライダーなんてあるプール、この辺にないじゃん……」

「うん……、市民プールくらいしかこのあたりないもんね……」

「田舎だよな……、このあたり……」

 本当の田舎に住んでいる人たちに怒られてしまいそうだが、このあたりは大した施設はない。

 ただ、住宅が建ち並んでいるだけの場所で、栄えているとは少し言い難い。

「遠くのプールに行けるほど、俺、金ないしなぁ」

「流石に私もない……」

 電車で一時間ほど行ったところまで行けば、ウォータースライダーや流れるプールといった遊び倒せるプール施設があるが、中学生のお小遣いで行けるような場所ではない。交通費だけでも、月のお小遣いがほとんどなくなってしまうというのに、プールに入れる分のお金なんて用意できない。

「やっぱ行くとしたら、チャリで行ける市民プールだなぁ……。そんなにお金かからないし」

 しかし、市民プールはそれほど広いわけでもなく、本気で泳ごうにも人が邪魔だったりしてあまりいい場所でもない。お金さえあれば絶対に選ばないだろう。

「いっそ海ならどうだ」

 プールがいまいちならば、海に行くのはどうかと提案してみる。

「そうだよなぁ、妥協で市民プールに行くくらいなら、海を検討するのもありだよなぁ」

 海までは自転車でも行ける距離だが、炎天下の中行くのは少し大変だ。かかる費用は更衣室と駐輪場の利用料金程度だが、市民プールよりはかかる。

 その分、市民プールよりはのびのびと遊べる。柄でもないがビーチバレーをしてもいいし、海の家もあるので休憩も取りやすい。このことから存分に遊ぶことができるだろう。

「で、どうする?行く?」

「せっかくだしな……。行こう!」

 引きこもりだった俺の発言とは思えない返事をする。このメンバーとなら、色々できてしまう気がする。

「まぁ、来週の火曜日あたりでどうだ?土日にいくと人多いし、月曜祝日だし」

 日取りを決める。俺はなんの問題もないので、首を縦に振る。どうやら他の二人も問題ないようだ。

「それじゃあ、来週の火曜日は海へ!」

 そう決まると、部長は急に手が早くなる。

 俺も一日遊んでも問題ないくらいには、宿題と作業進めておかないとだめだなと感じさせられたので、深く息を吸って集中する。


 約束の火曜日までは意外と長く感じた。

 集合場所は珍しく俺の家ではなく、海に行く途中にあるコンビニだった。俺の家は海から遠い位置にあるためだ。

 水着よし、タオルよし、ゴーグルよし、日焼け止めよし、飲み物よし、レジャーシートよし、お金よし……。

 一つずつ忘れ物がないか最終確認をしていく。問題はなさそうだ。

「行ってきます」

 誰もいない家に挨拶をして、鍵を締める。

 相変わらずものすごい暑さで、自転車のタイヤが溶けるんじゃないかとか思ってしまう。

 コンビニに着く頃には体全体が汗で、塩水に入ったのと変わらない状態になっていた。

「副部長早いね……」

 祭りのときもそうだったが、副部長は誰よりも早く待ち合わせ場所に現れる。

「さっき着いたくらいだよ。それより暑いから中で待ってない?」

 今にも暑さで崩れ落ちそうな表情を浮かべながら、提案してくる。

 その提案には乗るしかなかった。こっちは今すぐ倒れ込んでもおかしくないくらい、暑い。

「ふぁ~、いきかえる~」

 コンビニの中に入るなり、冷房の涼しさに声を出してしまう副部長。俺は声も出ないくらいに暑さにやられていたが、静かに目を閉じて涼を感じる。

「座る場所あるよ!アイスでも買ってゆっくり待ってようよ」

 そう言ってはアイスのあるケースに飛びつく。近づくと汗で冷えすぎて、少し寒気がしてしまうくらいだ。

 互いに好きなアイスを選び、レジで会計を済ますと、コンビニの中にある食事をしてもいいスペースでアイスを頬張る。

 このスペースなんて言うんだろう?

「今回は部長時間通りに来ると思う?」

 前回もやった、部長時間通りに来るかどうかの賭けだ。

「前回来たしな……。今回は来るに賭ける」

「私は今回こそは時間通りに来られないに賭ける。ところで賭けるもの何にする?」

 賭け事とは勝者になんらかの報酬がないと意味がない。

「じゃあ、部長一日酷使権」

 当人のいないところで、勝手に決める。

「私もそれにしとこっと」

 こうして、部長が遅れようが間に合おうが、酷使する権利はどちらかに与えられてしまうことが決まる。

「八木君はどんな現れ方するかな?」

「知らない間に隣りに座ってたりして」

 地味に有り得そうだから冗談でもそう言ってほしくはない。

「呼びましたか?」

 いわんこっちゃない。気がつけば後ろに立っていた。

「いつのまに!?」

「今さっきです。外に二人の自転車がありましたから、おそらく中にはいっているのではないかと思ってきてみたのですが」

 なんて察しのいい子なんだ。

 しかし、入店音もしなかったのは怖すぎる。透明化やステルススキルや隠密の魔法でも使っているのか?

「おーみんなおはよう」

 数分後に部長はやってくる。

「部長。今いつだと思います?」

「約束の時間前だけど?」

「なんでこんな遅れそうで、遅れてこないのよ!」

 理不尽にキレ始める。

「えぇ!?なんで怒られるの!?」

 そりゃ遅刻して怒られるならともかく、遅刻しなくて怒られるなんて、とんでもない話だ。

「さてはまた何か賭けてたな……」

「おう。ちなみに部長を酷使していい権利を、お互い賭けた」

「当人いないのに、なんてもの勝手に決めてやがる!!」

 これは当たり前のツッコミだ。俺だって、学校に現れるか現れないかを勝手に賭けられた挙げ句、酷使されるのが決まっているのなんてキレているに決まっている。

「というかなんで、お前たちそんなに早いんだよ……。俺五分前目標でここに来たのに……」

 確かに俺達の到着は明らかに早すぎる。五分前に待ち合わせの場所に到着しているなんて、普通に考えれば優秀な方だ。

「まあいいや。ほれいくぞ~。遊ぶ時間減っちまう」

 そういって、部長はさっき入ってきたばかりの店から出ていき、自転車にまたがる。

 各々出発の準備が完了すると、先頭を部長が走り、俺たちはあとに続く。

「やっぱマップ上で遊ぶギミックって追加するの大変なのか?」

「それぞれに処理を組み込んだりしないといけないから、ややこしいんだよ。それにバグを生みやすいし、あんまり増やしてほしくない」

 俺と部長はゲームの実装に関することで、話し合いをしながら漕ぎ進む。

 副部長と八木君は兄弟の話で盛り上がっているようだ。

 話し相手がいる移動は楽に感じる。一人だと、ただひたすら道を進むだけで移動に飽き飽きする。せいぜい変わった景色を見つけたりして驚くことくらいだ。

「疲れたら休憩挟むから、遠慮するなよ!」

 大声を上げて、後ろを走る二人にも聞こえるよう部長は言う。

 結局、誰も休むことなく海へと問題なく到着した。移動中は互いにやったことのあるゲームから、今回のゲームに行かせそうな要素はないかと部長と議論を続けていた。

 普段からこんな感じに議論をするのも、大事かもしれない。

 有料駐車場に自転車を預けると、更衣室のある建物に向かっていく。一人だけ女子の副部長とは一旦別れ、建物の出入口前で待ち合わせをする。

 着替えは男子陣のほうが早かった。

 まぁ、全裸になって海パン履けば完成してしまうのだから、手間を考えれば妥当だ。そう考えると女子って着るものが多いなと感じた。

「ごめん、おまたせ」

 日陰のない出入口前を待ち合わせ場所にしたのを後悔し始めた頃、副部長は出てくる。

「ごめん、新しい水着で少し手間取っちゃって」

 白色の可愛らしいフリルのついた水着だった。

 それに対し、男子陣ときたら単色のなんの着飾りもない、海パン。

「あれ?部長は?」

 待ち合わせ場所には、俺と八木君だけが立っていた。一人消えた部長の存在を聞かれる。

「部長なら先に場所確保と、遊び道具の準備してるってさ」

 ここで三人揃って突っ立っていても仕方ないからと言って、止めるまもなく一人だけで駆けていった。

「どのあたりに行ったのかは?」

「わからないから探すしかないんだよな……」

 平日だから人は少ないほうだとはいえ、それなりに人は来ている。

「とりあえず、海の方へ向かって行けばわかるでしょ……」

 楽観的な思考だが、それ以外にやりようはない。

 一直線に海へ駆けていったし、そんなに遠い場所に行ったとは思えない。

「あー、いたいた。おーい」

 一人レジャーシートの上でくつろいでいたのを、なんとか見つけ声をかける。部長は手を降って合図する。

「やっときた。先に海に入ろうかと思っちまったじゃねえか」

「そうなっていたら、こっちはどこに場所をとったかわからなくて困り果てていたよ……」

 それに、レジャーシートには部長の荷物だけしかおいていなかった。これでは風に飛ばされてもおかしくない。

「海とか久しぶりに来たけど、砂がやたら熱いのは変わらないのね!」

 履いていたサンダルを脱いで、砂浜に足をつけると、焼けるように砂が噛み付いてくる。

「この熱さ、なれないよな~」

 サンダルを脱いで、海へと足をなるべく砂浜につけないようあるき進んでいく。波が届くあたりの砂浜は、熱くはないのでそこまでたどり着けばなんとかなる。

 みんな跳ねるように進んでいるのが、少し馬鹿みたいで面白かった。

 海へとたどり着き、近づくと波に足がさらわれる。

「冷た!」

 砂浜の熱さから一点、海の水はそれなりに冷えていて、急な温度差に体が跳ねる。

「プールもそうだけど、このなれるまでって意外と地獄だよな……」

「わかる」

 まぁプールとは違いシャワーを浴びさせられることはない。あのシャワーは出だしはまだ生ぬるいことが多いが、あとになるにつれて、とても冷たくなる。

 生ぬるいあたりから冷たいのに変わったときが、一番地獄だ。心臓止まるかと思う。

「ひゃ~」

 副部長も変な声を出す。

「俺は徐々に慣らすなんて、じれったいことはしないからな~!うおおお!」

 部長はまた一人走って、海へ突っ込んでいく。

「あ、だめ。冷たい……」

 さっきまでの勢いまで冷えてしまった、部長がとぼとぼと歩いて戻ってくる。 肩まで浸かっていたのだから、三秒くらい我慢すればなれそうなのに……。

 無茶はせずに、少しずつ前へ足をすすめると、自然と体の下から浸かっていく。腹のあたりまで沈んだあたりで、体は十分に慣れたと感じ、海へとダイブする。

「気持ちい!」

 思わず叫ぶ。

「くらえ!」

 叫んだ俺に対して、部長は思いっきり水をかけてくる。

 ムカつく。

 すかさず水の中に潜ると、部長の足を思いっきり引っ張ってやる。危ないので、絶対に真似いてはいけない。

 不意に足元を救われた部長は盛大に、海の中に倒れ込む。入り方が悪いと、鼻から水が入ってめちゃくちゃ痛い。

 引っ張ったあとはすぐに手を離す。掴んだままだと事故の元だ。いやそもそも危ない行為なんだが。

 問題なく、部長は浮き上がってくる。

「やってくれたな」

「やりましたとも」

 なぜか、水中プロレスが始まる。

 副部長と八木君はただ呆然とそれを見つめていた。

「普段の鬱憤ここで晴らす!」

 部長に対する不満をこの水中プロレスでの糧にしようとする。

「ふん、引きこもりに負けるわけ無いだろ!」

 そう、めったに体を動かさない引きこもりに、意外と筋肉がある部長が負けるはずなんてないのだ。

 だからお見舞いしてやる。ゴーグルをしていない今だからこそくらわすことのできる、海水目潰しを!

 俺は思いっきり部長の目元にめがけて、海の水を飛ばす。直撃すれば、一時的に目は開けられなくなる。

「お前!さっきから卑怯だぞ!」

「策略家とよんでくれ、真正面からじゃ勝ち目ないからな!」

 結局その後は、部長はタックルしてきて海水に俺も漬けられ、お互い目に海水が入り、これ以上は目が危ないと休戦することとなった。

 それに、二人を放置したままになるという理由もある。

 せっかくみんなで来ているのに、それはもったいないことだ。

「でも何するんだ」

「とりあえず、ゴーグル付けないか?」

 目がしみて、薄目のまま俺たちは会話する。

「それもそうだな……」

 おとなしくゴーグルを付けて、目を守る。

「そうだ水鉄砲あるぞ」

「お、喧嘩するなら二人も参加できる丁度いいものがあるじゃんか」

 水鉄砲の撃ち合いなら、さっきまでの肉弾戦なんてことになって二人が入ってこないなんてことはない。

「そもそも戦う前提なのね」

 副部長は突っ込む。泳ぐとか、ボール遊びをするとかじゃなく、戦闘。

 所詮男なんて、血の気の多い生き物なのだ。

「せっかくだしチーム分け――」

「「だったら俺とこいつは絶対敵にしてくれ」」

 副部長の提案を聞き終える前に、俺達はチームを分けるならこいつと同じチームだけにはしないよう、釘を刺す。

「八木君、どっちにつきたいとかある?」

「どっちでも構わないです」

 俺たちが睨み合っている傍らで、どっちにつくか二人は決めようとするが、二人共どっちについても、どうでも良さそうな顔をしている。

「じゃあじゃんけんで勝ったほうが部長の方ってことで、じゃんけん」

「「ぽん」」

 結果は八木君の勝ち。つまり彼は敵の仲間だ。

 一方俺には副部長がついた。怒らせると怖いこの人が来てくれるほうが、少し心強い。

「じゃあ、少し離れよう。俺が”はじめ”と言ったら開始だ」

「OK」

 まぁ、サバゲーではないのであたって脱落という概念もない。というか今思えば、これに終わりはあるのだろうか?

「はじめ!」

 悠長に考えていると、戦闘が始まる。

 むやみに突撃しながら乱射してくる部長に対し、俺は姿勢を正してその場で引き金を引く。水鉄砲では決まらないが、冷静に一撃当てるほうがかっこいいと思うからだ。

 しかし、冷静に当てても当てても所詮は水。目を潰せなくなった以上、効果のある威力は出せない。

「目に入らなければ怖くないわ!」

 そう威勢よく叫ぶ部長だったが、乱射していたため弾(水)切れを起こす。

「あ、ちょっとたんま。補充するから」

 そして、悠長に海の水を水鉄砲に入れる。隙だらけだ。俺は容赦なく水をぶっかけてやる。

「おい!おいまて!まてっつってんだろ!」

 ルール上、水鉄砲の撃ち合いと決まっている。そのため、補給が終わるまで部長は何もできないので、顔面にありったけ水をかけてやる。

「何も考えずに水を浪費するのが悪い」

 そう言っていた俺だったが、こっちも水が切れる。

「すまんたんまだ」

 俺は手で、待つよう合図する。

 ちょうどその頃に部長の補給が終わる。

「ほら仕返しだ!」

 そう言って俺を水攻めする。

「くそ!きたねぇ!」

「お前がさっきやったことだろうが!」

 さっきまで考えていた不安点が頭の中に戻ってくる。この戦いの終わりはなんだろうか。

 楽しそうに俺に水をかけまくる部長。しかし、その背後に人影が現れる。

 頼れる味方。副部長だ。

「よいっしょっと」

 バケツに汲んだ水を部長の頭の上でひっくり返す。

「ぬおおおお」

 これは爆撃だ……。

「副部長。水鉄砲使わないのは反則でしょう」

 八木君がツッコミを入れる。正直俺もそう思うが、威力は間違いなかった。

「えー?そんなこと言ってなかったじゃん」

 いや水鉄砲で撃ち合いって言ってたのに、バケツ使うのはどう考えてもアウトでしょう……。

「ルール違反したんですからそちらの負けですよ」

「そーだそーだ!」

 相手チーム、こちらのルール違反を理由に勝利を手に入れようとする。

 これには何も言い返せないので、受け入れるしかない。

「くそ……、じゃあ次はビーチドッジボールだ!」

「バレーじゃないのね……」

 俺が次の遊びを提案するが、副部長にツッコミを入れられる。ネットがないのだからしょうがない。

「四人だけでドッジボールってのも虚しい気がするんだが……」

 部長は困惑顔で述べる。

「ボールがめちゃくちゃ軽くて軌道が読みづらいだろうから、少しは手応えあるでしょ」

 それに加えて、独自のルールを設ける。二回当たるまでは大丈夫なことだ。あとは、外野が相手にボールを当てられたら復帰できるなどの、ルールを説明し試合を開始する。

「どっちから投げるかはじゃんけんな」

 困ったらじゃんけんで物事はたいてい決められる。かもしれない。チームはさっきのままだ。

「いけ八木!お前はさっき副部長に勝った男だ!」

 部長はこのじゃんけんに八木君を出してきた。さっきのじゃんけんでは副部長は負けている。ここは俺が出て勝利をもってかえるべきだろう。

「それじゃあ、じゃんけーんぽん!」

 声に出してたかわからないが、手はきちんと動いていた。俺がチョキで、八木君がパー。俺の勝ち。

「いや負けるのかよ……」

 じゃんけんなんて相手が出す手を予測してみることはできるが、確実に予測するのは不可能なのだから強さもクソもないと思ってはいるが、堂々と送り出されて負けたんじゃ少し思うところがある……。

 さて、スイカ柄のビニールボールを手に持つ。引きこもりに勢いよく投げられるわけもないが、勢いよく振りかぶったところで、勢いにボールが負けてうまく飛ばないだろう。

 だからこそ、これは風とかで軌道が変わって当たることを祈るという、半ば運ゲー!

 俺は軽やかに、優しくボールを投げる。運動部の本気のボールではなく、幼稚園児が投げるようなボールだ。

「これくらい余裕で取れるわ!」

 そういって、落下地点に手を構える部長だったが――。

「あっ!?風が――」

 風邪で流されたボールが、部長の肩に当たって砂の上に落ちる。

 作戦通りだ。風が味方してくれた。

「いやいやそんなのありかよ!?」

「ボールにあたったらだめっていうルールなんだ。風で軌道が変わろうが関係ない。変化球がだめなわけじゃないんだから」

 呆然と立ち尽くす部長。

 ドッジボールは体育会系とやると一方的虐殺にしかならないが、このルールならば腕力が優れていようが関係ない。だからこそ、平等な強ささで戦うことができる素晴らしい競技になるのだ。

「まぁ、あと一回は大丈夫。次当たらなければどうってことはないっ!」

 と鼻息荒くする部長だった。

「次そっちが投げていいぞ」

 相手が投げてくるとき気をつけることは、確実にキャッチすることだ。

 本来のドッジボールならば、速いボールが弾丸のように飛んでくるが、このルールでは飛ばない風船が飛んでくるくらいの感覚で望めばいいのだ。弾いて威力を抑えてからキャッチなんて芸当など、する必要性は皆無。というかできない。

 ゆるく飛んでくるボールから目を離さず、俺は落下予測地点に立つ。あとは手を構えてボールが落ちてくるのを待つだけだ。

 自信満々にとった行動は狙い通りに事が進み、ボールを獲得する。

「当たれよ!」

「当たりに行くわけ無いだろ……」

 当てられたのに、当てられないのはやはり歯がゆいものがあるらしい。

 その後は風が吹けばあっちこっちに飛んでいくボールに翻弄されながら、無事俺たちが勝利を収めて終了した。

 その頃には、腹の虫がなるようになっていた。

「海の家には何があるかな」

 貴重品を預けているロッカーから財布を取り出してきた俺達は、昼食を取るために海の家に向かう。

 小さな家だが、この海水浴場の中で唯一の場所。それなりに人は多い。

「結構色々あるのね」

 壁にかけられたメニューを眺めると、炒飯に焼きそば、カレー、おにぎり各種等と色んな物がある。受付のところにはカップ麺とポッドまで用意されている。

「先に座る場所確保してこようぜ。立ち食いになっちまう」

 確かに席を確保しないことには、注文をしたところで場所がない。

 昼時なので人の入りが多いのか、席が見当たらない。

「少し待つか」

 仕方ないので席があくのを待つ。こういうときイライラするのが、食事を終えてもべらべらと会話をしているやつだ。混雑している時間なんだから、さっさとどいてほしい。

 十分程待っただろう。一組の家族が席を開けたので、すかさずに席確保に向かう。

「やっと座れたなぁ」

「俺達はあとの人たちのことも考えて、食べたらさっさと出ような」

 やっとの思いで座ると少しだらけるが、すぐに立ち上がる。

 待たされている間、いい匂いにやられて空腹感がすごいことになっている。

「僕がここに座って待っているので、皆さん買ってきてください」

 八木君は自ら留守番役を引き受ける。

「じゃあ頼むわ。八木、なにか食いたいものは?」

「僕にはカップ麺を、シーフードのやつで」

「了解」

 留守番役が求めるものを調達することを部長は約束し、買いに向かう。

「副部長は何にしたの?」

「カレー」

 匂いがきつくて、さっきから嫌というほど嗅いでいる。カレーの匂いは、カレーをものすごく食べたくさせてくるので犯罪的だ。

「拓君こそ何頼んだの?」

「カレー」

 俺も匂いの誘惑に勝てなかった。

「なんだよみんなカレーかよ……」

「部長も?」

「いや、俺焼きそば」

 みんなというほどみんなではなかった。

 カレーと言ってもレトルトだった。これでも商売ができるのだから、世の中こだわりなんてなくても、生きていけそうな気がしてしまう。

 一方、焼きそばは鉄板の上でしっかり作られている。

 カップ焼きそばというオチで、部長をからかえると思っていたのに……。

 カレーはすぐ出てきたが、焼きそばは少し時間がかかりそうなので、その間に部長は八木君のカップ麺を作る。といっても、お湯を入れるだけだが。

 自分たちはとりあえずカレーを一旦置きに戻る。カップ麺を運ぶ人員が必要だからだ。

 片手で持てないことはないだろうが、わざわざリスクのあるやり方を選ぶ必要は一切ない。

「じゃあ俺、部長のところ戻るよ」

 そう言って、カップ麺を受け取りに行く。

「部長。カップ麺持つよ」

「ああ、すまん」

 少し慎重になりながら、カップ麺を受け取る。多分持っていく頃に出来上がっているだろう。

「じゃ、先戻ってるから」

 受け取ってしまえば用はない。さっさと戻って座りたい。

「ほーい」

 部長はまだかまだかと、作られる焼きそばを待ち続ける。

「ただいま」

 俺は席へと戻ってくる。

「はい、これ」

 八木君へカップ麺を渡す。

「ありがとうございます」

「あれ?副部長は?」

「みんなの分の水をとってくると言って、さっき」

 ちょうどすれ違いになったようだ。

「ただま~」

 部長が焼きたての焼きそばを持って、戻ってくる。

 ソースの匂いが一瞬だけするが、カレーの匂いには勝てない。

「カレー一つでも匂いきついのに、2つもあるとソースの匂いも感じられないなんて……」

 部長は残念そうにする。

「ただいま~」

 副部長が水を持ってくる。四人分の水を、一人で運んできたようだ。

「ありがとう」

 そう言って水を受け取る。

 全員の食事の準備は整った。

「それじゃぁ」

「いただきます!」

 我慢していた食欲を一気に開放するように、ゆっくり味わうなんてことはせず次から次へと口に運んでいく。

 十分程で全員が食べ終わり、俺達はすぐに席を空けた。


「は~食った食った~」

「あんまり動けそうにないな……」

 食べたあと動くのは少し厳しい。

「砂で遊ぶ分には大丈夫でしょう?」

 副部長は砂遊びを提案する。

「誰が一番でかい山を作るか勝負?」

「いやでかい穴かもしれない」

「なんで勝負前提なわけ……」

 幼少の頃は砂遊びが好きだったが、何故か今になるとそれほどしたい遊びでもない。

「まあまあ、部長は最近仕様書づくりで疲れているだろうし少し寝っ転がるのもいいんじゃない?」

 妙に優しくなる。

「それじゃあお言葉に甘えて」

「みんな聞いたね。今から部長を埋めるよ!」

 砂遊びってこういうことか……。

「いやそれはおかしい!」

 そりゃおかしい。

「砂風呂って気持ちいいらしいぞ」

「そんな勧められても困るんだが!?」

 全力で拒否される。でも、流石に暑そうだな。なんて考えてもみる。

「なぁ、俺を埋めてみてくれないか?」

 出てしまった興味が、頭の悪い発言をさせる。

「お前正気か?」

 正直おかしいとは思う。

「いや、埋められたら冷たいのか、暑いのかどっちだろうって思って」

「入る前からわかってることだろ……。こんな暑くて、熱い砂が冷たいわけないない」

 そうだろうか?案外ほってみると、下の方の砂は冷たいかもしれない。

「とりあえず、軽く穴を掘ってみよう」

 人が寝転がれるほどの穴だ。体の真正面から見て奥行の部分が、半分程度埋まればいい。

「とりあえずこんなものだろう。掘った砂ちょっと冷たいな」

 憶測でしかなかったが、本当に下の方に埋まっていた砂は冷たかった。これなら、体がいい感じに冷やせるかもしれない。

 掘った穴に俺は寝転がる。少し動くと崩れていく砂が体を撫でるので、少しこそばゆい。

「それじゃあ、掘った砂で埋めてくれ」

 埋めるように頼む。このとき、その辺の陽に当たりまくった砂で埋められては、とんでもないことになる。全身やけどするかもしれないと感じられるだろう。

 みるみる俺の体に砂が被せられていき、ある程度載せると成形される。思ったより重たく、体は動かせそうにない。

 一応枕代わりの砂山も用意してくれていたので、首は楽な方だった。

 ひんやりとした砂が冷たく、顔だけが外に出ているので、顔だけが暑く感じる。

「こんな感じでどうよ!」

 そう叫ぶ部長と、それを見て笑うほか二名。

 胸のあたりから砂山が2つ生えていた。

「おいちょっとまて」

 これはどう考えても、あれだ。おっぱいだ。

「人の体で遊ぶんじゃねぇ!」

 ツッコミの勢いで起き上がろうとするも、意外と起き上がれない。

 手を使うこともできないので、腹筋だけでこの砂をどけないといけないが、引きこもりには到底困難な技だ。

「やーい、何もできんだろう!」

 身動きがとれないので、ヤラレ放題になる。

「副部長!頼む!出してくれ!あいつ顔ごと埋めてやる!」

「面白そうだから、はい」

 副部長は蹴って砂をどけていく。やり方がめちゃくちゃ怖い。失敗すれば、俺にキックが炸裂することになる。そのことをこの人は理解しているのだろうか?多分理解していないだろう。

「これでどうじゃ!」

 大きく振りかぶった足で、思いっきり蹴飛ばす。

 俺の肩を……。

「いってぇ!!」

 蹴られた痛みで跳ね上がると、砂は一瞬で吹っ飛んでいく。

「出られたけど、いてぇ……、いてぇよぉ……」

 なんで副部長のサンダルこんなに硬いんだ……。男子の履いているのなんか、ゴムとか柔らかい素材なのに……。

「次はお前だ!」

 痛さを噛み締め、今度は部長を埋めるために俺が入っていた穴に押し倒す。

「やめろ俺はホモじゃない!」

 押し倒してしまったので、少々いやらしい感じになってしまったが、もちろんそういうつもりじゃない!

「ふざけんな!誰がお前と!」

 そういえば今日、海に来てから部長と口論ばかりしてるような気もする。なんでだろう?

 今はそんなことはどうでもいいので、一旦思考を保留し、まずは手足から埋めていく。

「あれ?意外と動けない……」

 こうなってしまえばあとは簡単だ。

 体を埋めていってやればいいだけだから。

「ほらほら、あっつあっつの焼け砂だぞ!」

 もちろん俺は優しい人間ではないので、陽の光を浴びた熱々の砂を上にかけてやる。

「これのどこが気持ちいいんだよ!熱い!」

「さっきのお返しだ」

 精神的苦痛を与えられたので、仕返しに肉体的苦痛をこんなやり方で与える。ついでに副部長にけられた分も」

 そんなこんなしているうちに、更衣室の利用可能時間というタイムリミットがやってきてしまった。

 俺と部長はそこら中砂まみれだというのに、他二人はほとんど砂なんてついていない。

 馬鹿なことをするもんではないなと思う。

「なぁ……」

「ん?」

「俺たち結局泳がなかったな……」

「うん……」

 しょうもないことをしていると、泳いでいなかった。そのことに今気がついたのだ。

 だけれど――。

「楽しかったからいいか」

「そうだな」

 楽しくなければ遺憾だが、楽しめたので問題ない。ただ単に泳いでいても楽しかった保証はない。

 シャワーで砂を流し、着替え終え、出入口前で副部長を待つ。

 行きも帰りも、やはり待たされてしまう。こればっかりは仕方のないことだろう。

「帰るのだりぃ……」

 帰って休みたいところだが、帰る行為自体が面倒くさくなってしまう。

「自転車が勝手に家まで動いてくれたらな……」

 そんなうわ言まで言い出す。

「おまたせ」

 副部長が更衣室からでてくる。言っていても仕方がないので、帰って休むということを頭の中に思い浮かべながら、自転車を漕ぎ、家を目指す。

 あまり記憶はないが、どうやら帰ってすぐに寝てしまったらしい。

 おかげで少々生臭くなってしまった……。


 そうして夏休みの中盤も終わり、気がつけば終盤に差し掛かっていた。

「宿題が終わっている夏休み終盤って、人生で初めてかもしれないな」

 いつものように部員全員が集まって、作業をする。

「そうなの?私は絶対終わってるけど」

「優等生め……。俺なんか仕様書のせいで、まだ終わってないんだぞ……」

 それは自分がさっさと書き上げないからだ。そういう視線を送る。

「さっさと書き上げない自分が悪い」

 あえて口にしなかったことを、副部長は口にする。

「あぁ……、みんな冷たい部活になっちまったなぁ……」

 嘆く部長。

「自業自得でしょうに……」

「うるせいやい!どうせ俺は31日に不眠不休で宿題に追われるんだー!」

 仕様書の紙を撒き散らし、喚き散らす。

「やかましい!」

 近所迷惑なので、思いっきりチョップをくらわせてやる。

 悶絶する部長をよそに、副部長はあることを尋ねてくる。

「どう?二学期からは学校来られそう?」

「わからない……。でも宿題やったからには、出しには行きたいと思うから、教室にはいけなくても、一度担任のところには顔を出そうかなとも思う」

 実際二学期が始まったところで、登校できるかどうかは本当にわからない。

 数ヶ月前まで感じていたような、行っても居場所がないという感情にのまれてしまえば、多分足を踏み出せないだろう。

「放課後に来て、パソコン部覗きに来るのもいいかもしれないよ?」

 副部長はそう言ってくれる。

 パソコン部になら、居場所を感じられるはずなので、その提案はとてもありがたいものだった。

「そういえば、副部長は自由研究何したんです?」

「私は、適当に鉄板に陽の光を当てて、どのくらいの温度になるかって調べたよ」

 適当な割にめんどくさそうなことをしていた。

「それで何度くらいだったんですか?」

「なんと60度以上!」

 35度前後の外気温に比べて倍ほどの熱量だった。

「怖すぎない?」

「怖すぎる……」

 下手をすると、火傷してもおかしくないくらいだ。

「拓君は何をしたの?」

 会話の流れとしては、間違いなく来る質問。狙っていたわけではないが、会話というのはこういうこともある。

「ホームセンターで買ってきた、炎色反応の実験キットで燃やしたものとそれに対する色を……」

「なにそれ!?楽しそう!」

 目を輝かせながら、副部長は前のめりになる。

「みんなで祭りに行ったときのことを思い出して、面白そうだからやったんだけど、結構楽しかったよ」

「あ~、私もそっちにしたらよかったなぁ」

 すでに宿題は終えた後。もう遅い。

「今からやり直すのも手かもしれない」

 俺は提案してみる。

「さすがにめんどくさいし……」

 そりゃそうだ。

「それに、まだ売ってるの?そのキット」

 夏休みも終盤。あったとしても売れなくて、残っているものになるだろう。

「さすがにないと思う」

 アリの観察キットとかに比べたら、断然みんなこっちを買うだろう。華々しさが違いすぎる。

「にしても、夏休みももうすぐで終わりだっていうのに、暑いのは変わらないね~」

 暑さはまだまだ健在で、たった四か月後に冬が来るなんて到底信じられない。そして、制作期間も残すところあと半分となってしまった。

 このままのんびり作っていて間に合うのかどうかわからない。

 ただ、夏休みに入ってから部長の仕様書進みが少し良くなったので、今後もこのペースで進めるなら間に合うかもしれない。というより、仕様書が出来上がっていくにつれやることは増えていく。

「とりあえず続きのシナリオできたから、実装頼むわ」

 そう言って部長は、俺にUSBメモリを渡す。しかし、部長はいいものを持っている。ノートパソコンだ。持ち運びできるので、どこに行っても作業ができる。

「やっと続きが出来上がる。これでシナリオどのくらいなんだ?」

「三分の二くらい?」

 三分の二というと、大体四天王の最弱くらいは倒してそうな辺りだ。

「まだまだ、先は長そうだなぁ……」

 とりあえず、一日でも早く作業を終わらせることのできるように、進められるところから着手する。

 今のところ仕様書に書かれているマップは概ね完成しており、シナリオに合わせたイベントの作成、演出などの作業が部長の遅れで詰まっている。

 企画?の仕事に当たるのか、その職に就いている人は全体の作業に影響するのにもかかわらず、うまくやれていないことが多いらしい。そのため、結構憎まれてるとかなんとか……。そういう話をネットで見た。

 実際、部長の遅れは俺が頑張ることで何とかしている節がある。

「しかし、夏休みだからこうも進んだわけだけど、二学期に入ると朝から放課後の時間まで授業あるから、どれだけ進められるかだな……」

 夏休み中は丸1日時間があるが、学校が始まるとそんな時間はない。

「授業サボりたいけど、期末テストやばかったから親にめちゃくちゃ怒られたんだよな……」

 テスト期間中も部長は仕様書の内容を決めるため、頭を抱えていたらしく、その影響でろくに勉強せずに期末テストを受けた結果、二十点前後という記録をたたき出してしまったらしい。

 俺は受けてすらいないので0確定だ。

「今頃みんな受験勉強とかしてるんだろうなぁ」

 三年の夏休み。いい進学先に行こうとすると、この夏は必死に勉強しないとならない。だが俺たちは大して勉強はしていない。

「二人はどこの学校行くとか決めてるの?」

 質問した自分は、結局全く考えていない。通信ならいけるだろうかとかも考えているが、さすがに納得してもらえない気がする。

「まだちゃんと決めてないけど、自分が余裕持っていける学校にしようと思ってる」

「へー、なんで?勉強したくないってこと?」

 イメージだと大体、必死に勉強してより上の学校を目指すような感じだと思っていたが、副部長は自分の行けるレベルの学校を考えているらしい。

「必死に勉強したって、あとでついていけなくて困りたくないし、絵を描く余裕がなくなりそうだもん。それだったらそこそこの学校行って、絵を描いてた方が有意義」

 という考え方のようだ。

「拓は?」

「俺は、今学校行ってないから、ちょっと想像つかない……。でももし、全日制の高校行くなら俺も余裕ある学校に行こうかな。だいぶ下の学校になりそうだけど……」

 勉強、理解はできるがしてはいないので、並の学校に行くのは無理だろう。

「俺も、こうやってやりたいことやってたいしなぁ。学歴社会ってわけでもないし、行けるところに行って、続編とか考えたいな」

 結局皆、それほどいい高校を目指さないということが分かった。

「続編作るとしても、手伝う気になれんわ」

 俺はぶっちゃけて言う。

「ひど!仲間だろ~!」

「上がらない仕様待っているのは、非常にストレス」

「悪かったって!」

 こんな、作業形態二度とごめんだ。

「私も手伝う気ないから、また一からメンバー探してね」

「そんなっ!八木ぃ……。お前はついてきてくれるよな」

「なんでついてきてもらえると思えるんですか?」

 全員から容赦のない返事が返ってくる。

「俺は悲しい……。そんなに嫌われてたのか……」

 部長がへこみだす。

「嫌ってるわけじゃないけど、仕様書が全然固まらないから腹立ってるだけ。もし続編作るとして、俺たちが作業手伝うとしたら、仕様書が完成している状態だな」

 仕様書が完成している状態ならば、組んでいるときに部長の遅れのせいで、こっちが忙しくなるなんてことはない。だからそれを続編を作るうえでの条件として、提示する。

「つまり、仕様書が完成している状態でない限り手伝うことはないと?」

 確認の質問をされる。

 全員がそれに対して頷く。

「わかったよ……、書いてから提案するよ」

「もっとも、部活としての作業はこれで最後になるけどな。八木以外引退の年だから」

 作るとしたら、同じ高校に行ってまた部のメンバーとして作るか、完全に趣味として、互いに連絡を取り合って作るしかないだろう。

 実は内心、続編には興味がある。自分の中ではこのゲームは面白いものになってきているのが、日々の作業で感じていることだ。

 続編を作るなら、このツールを使わないで作れるくらいに、技術を伸ばしたいとも考えるようになってきた。

 理由はいろいろあるが、一番の理由は拡張性に乏しいことだ。

 どうしてもツールの仕様の範疇から出たことは作ることができない。

 だから最近、ゲーム開発に関して色々調べたりしている。ゲームエンジンというものを使えば、今のツールよりは難しくなるができることの幅は広がる。

 プログラミングの知識なんてほとんどない。授業で少しやったくらいで、サイトに書かれているものを見ると、即効頭を抱えるくらいだ。

 でも扱えるようになったら、IT企業への就職の可能性もできるのでやってみて損はない。

 自分はこの開発が終わったら、プログラミングの勉強をしたいと考えている。

「でも、もし作るなら、これよりもっと面白いものを作ろう!」

 そう言って、僕は部長の手を強く握りしめる。

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