花、溢れしステージ
『突き上げるデッカイStream 乗らない手はない 皆で Join♪
飛び出せ Hurry up♪
行け行け Go Fight♪
さあ さあ 走ろう 行くぞアゲアゲボルテージ♪』
観客がノリ易いように分かりやすく作られた、クリスティーナ女王の楽曲。
当初はエアエアの民だけがしていたコールもすぐに広まり、気付けば会場中が一丸となっていた。
その声援を受け、またそれらに応えるようにして、彼女本人の動きのキレも増していく。
地に足つかぬ風の女王にはステージという概念は存在しない。無数の煌びやかな紙吹雪を引き連れながら、またそれらを巧みに操作しながら、クリスティーナ女王は空というキャンパスに刻一刻と変わるダイナミックな物語作品を紡いでいた。
そんな彼女を彩る衣装はその魅力であるセクシーさを強調したタイトな電飾つきのセパレートで、特筆すべきはその美脚を包み込むブーツである。括り付けられた特殊な素材のリボンは彼女の動きに合わせて発光しながらまるで羽のようにはためき、女王をもはや女王でなく天女にまで昇華させていた。
「……やるわね」
アーニャは指をくわえながらモニターを眺めていた。
あくまでもグレンの推察に過ぎないが、おそらく他の三人の女王のうちで一番彼女のスタイルに近いのがこのクリスティーナ女王である。
そして現在会場で彼女が見せているのは、以前彼が衝撃を受けたあのライブよりもはるかにスケールの大きい、ハイクオリティーなパフォーマンスだった。
『君がいる 未来のあたしがそこにいる♪
とまらない どこまでも 飛び込んだ先 道はあるのさ~♪
ヘーイ! みんなありがとー!!』
「ウオオオオオォォォ!! クリス最高ーーーーーーーーー!!」
約二十分間で四曲を歌い終え、嵐を呼ぶ女王は怒涛のごとく疾走した。
盛大な歓声を浴びながら舞台を降りる彼女の額には、やりきった清々しい汗が滲んでいた。
『エアエア王国女王、クリスティーナ・ブラスト陛下による演舞でした。それではただいまより集計作業に入りますのでしばしお待ちください』
モニターの映像はステージから一旦離れ、色とりどりの花が大量に咲き誇った大神木と、その周りをせわしなく飛び回る大量のドローンの様子を映し出していた。
大神木は女王の演舞に感動すると数分の間花を付けると言われ、その付いた花の数の多さでこの大会における順位が決まる。
ゆえに本演舞会に人間の審査員はおらず、“各国の女王たちが大神木に演舞を捧げる会、略して大演舞会”なのである。
「正確な数は発表されるまでは分からないが、これ相当な数いってるんじゃないか?」
「例年の優勝クラスは軽く超えているわね。さすが、セレモニーを堂々と自分色に染め上げただけのことはあると言ったところかしら」
グレンもアーニャも、その彩り様から目を背けるわけにはいかなかった。
当然、後に続く女王たちにとっては重圧として圧し掛かる展開であることは言うまでもない。
「ふん、ロゼ。あんたも貧乏くじを引いたわね。この空気のなかでやるだなんて、ハードルの高さは尋常じゃないわ。さっき勢いでクリスに喧嘩売ったこと、内心後悔しているんじゃない?」
「後悔はしていませんし、ハードルが上がるのも大歓迎ですよ。私は負けませんし、なにより優勝するためにここに来ましたから」
「口で強がりはいくらでも言えるわよ。ま、優勝するのは私だけどね」
「ふふ。そのお言葉、そっくりそのままお返しいたします。強がりかどうかは、その目で確かめてみてくださいな」
揺るがぬ自信を仄めかす言葉を残し、ロゼッタは控室を後にした。
「さあいよいよロゼちゃん本人が自負する、「綿密な計算に基づいた抜かりない準備」とやらの成果が発揮される時だな」
「まあ、どうせいつものお家芸でしょ」
しかしロゼッタが会場に姿を見せたその瞬間。場内は先程クリスティーナ女王が登場した時以上のどよめきに包まれた。
『らぶらぶきらきら きらりんりん♪
りんりんぱわーで はぴるんるんっ♪
うきうきだいすきっ にゃー にゃー にゃー♪』
ステージ上の彼女を見ている、世界中の誰しもが混乱していたはずである。
少なくとも会場にいる百万の観衆は一様にして面食らっていた。
「は……? これがロゼ?」
アーニャのその一言に、まさに事のすべてが集約されていた。
髪を下したロゼッタは正統派美少女を地で行く可愛らしさがある。
しかし問題はその下である。
身に着けているのは全身ピンクのフリフリドレス、ハートのチョーカー、真っ赤な靴。
そしてまさかの電波ソングに加えて、振り付けは萌えに振り切ったステップである。
振袖は、アストン王国に伝わる伝統舞踊はどこへ行ったのだろうか。彼女のあの理知的なキャラクターはどこへ消えてしまったのだろうか。
場内の空気はしばらくの間、完全にドン引きの様相を呈していた。
声援の後押しを受けて自身のパフォーマンスを引き上げるクリスティーナとは対照的に、ロゼッタはどれだけ白けていても取り乱すことなく、演出用のカラフルな砂を操作し、歌や踊りを続けていた。
「しかしあれだな。目が慣れてきてよくよく見るとこれ、普通に滅茶苦茶可愛くないか?」
「ふん、女子の目線からすると完璧に計算されつくされた究極のあざとさってところね。やっぱりあれは間違いなくロゼだわ。相当練習したんでしょうね」
アーニャがその発言をした直後あたりから、少しずつ空気が変わり始めた。
静寂の質が困惑から別のものへと変わりだし、観客の中に音楽に合わせて手拍子をしたり、或いは首を縦に振る者が現れ始めた。
彼らを魅了しているのは単なるパフォーマンスの完成度だけではなかった。
普段の彼女のキャラクター、そして代々のアストン女王たちが築き上げてきた固定観念じみたイメージとのギャップ。その意外性があるからこそ、彼らは彼女の一挙一動から目が離せなくなっていた。
あのロゼッタのことである。
おそらくはそのギャップ萌えでさえも計算の範疇であるのだろうと、グレンはあらためて末恐ろしさを感じていた。
『めとめがあったら ずきゅーんらぶらぶ ずきゅんらぶっ♪
こいいろモードでうめつくせ あいつもこいつもてきだけどー♪』
「ハーイ、ハイッ! ハイハイハイ!」
『ずきゅーんらぶらぶ ずきゅんらぶっ♪
らぶらぶぱわーで めちゃぽじぽじっ♪
むてきのじゅもんだ にゃー にゃー にゃー♪』
「ウー、ェエイ! ウー、ェエイ!」
『ずきゅーんらぶらぶ ずきゅんらぶっ♪
きみのせなかにこいしてる まっすぐせなかにめろめろりんっ♪』
『ロゼたん! ロゼたん! ロゼたん!』
曲が終わるころには野太い歓声が鳴り止まないほどの、大盛り上がりとなっていた。
ロゼッタはそこからさらにこのキュートな路線を二曲続け、四曲目にしてアストンの伝統舞踊と萌えとの融合という離れ業にて見事にクライマックスを飾り、出番を終えた。
そして彼女がはけると同時に再び集計タイムが始まり、次の演者であるソフィア女王が静かに席を立ち上がった。
「ロゼちゃん、最初は驚いたけど見事に流れを持っていったな。とはいえ、トータルで見た限りでは微妙な差でクリスティーナ女王のときの方が盛り上がっていたように見えたが」
「いいえ、兄ぃは肝心なことを忘れているわ。あのロゼが伝統を捨ててあのスタイルを選んだのには根拠があるのよ。この大演舞会における審査員は誰なのか、言ってごらんなさい」
「審査員はそりゃ大神木だろ? ……って、まさか」
「そう。過去の歴史を紐解くと、こういう路線は意外とあの神様の好みなのよ。まあその分完璧にやらないと審査のハードルが高くなるし、私は自分を捨ててまでやろうとは思わないけど」
その指摘の通り、大神木の盛大な咲きっぷりはクリスティーナ女王のときと同等、或いはそれ以上の壮麗さであるように見える。
グレンは苦虫を噛み潰したような顔でいるアーニャの頬から、汗が滴り落ちるのを目にしていた。




