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大演舞会 ~俺がファッションデザイナーで妹は女王様~  作者: 武藤一光
第4章

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波乱のオープニングセレモニー

 あまりにもぶっ飛んだ発言に、場内は完全に静まり返っている。

 クリスティーナ女王は全身に激しい空気の渦を纏うと、地上から見上げる三人に向けて、豪快に拳を突き出した。


『はーい注目! この風に触れたら一瞬で衣装を剥がされて全裸になっちゃうよ~♪ 女王の皆さんは国の威信とプライドをかけて、自分の裸は自分で守り抜いてねー!』


「な、なに言ってんだあの人は……」


 グレンは思わず画面に向かって突っ込んだ。

 慌てた様子で、司会者が口を開く。


『クリスティーナ女王、お戯れはお止め下さい! これは神聖な舞台、大演舞会ですよ! いくら貴女様が前回覇者であっても、そのようなことは委員会が……』

『チッチッチ。分かってないなぁ司会者さん。神聖な大舞台だからこそ盛り上がる方がいいんじゃん。大神木もそれを望んでる。みんなも女王の裸、見たいよねー!?』

「うおおおおおおーーーーーーーッ!!!」


 この日一番の、凄まじい歓声である。声を上げたのはなにも、男性客だけではなかった。

 誰もが自国の女王が敗れるなどとは思ってもおらず、反面他国の女王が羞恥に悶える姿は見たいらしい。

 大演舞会に代理戦争としての面があることは、今更言うまでもない真理である。


『この下衆さ、愛すべき人間ってね。この歓声が答えだよ。ステージとは演者とオーディエンスの合作なり♪ ということで運営委員会の皆さん! あたしはやりたいようにやらせてもらうから。悪いようにはしないからヨロシクぅ!』


 今まさにステージ上で起ころうとしているのは、正気の沙汰でないことである。にもかかわらず、運営委員長の四人に動く気配はなかった。ただ単に後手に回っているだけなのか、或いは最初から共犯であるかは定かではない。

 しかし少なくともステージ上の三人はこの展開を全く予知していなかったらしく、一様に唖然とした表情で空を見上げていた。

 アーニャもソフィア女王も、しばらく固まったまま動かなかった。

 そんななか、真っ先にリアクションを起こしたのは、ロゼッタ女王だった。


『ふざけないでくださいクリスティーナさん。大演舞会はあなたのワンマンライブではありません! 一国の女王として秩序を乱してまでスタンドプレイに走るあなたのやり方は正直言って目に余ります』


 ロゼッタは珍しく声を張り上げていた。いつもの丁寧口調ではあるが、はっきりと感情を露わにしているのが見て取れる。

 グレンは未だかつて、彼女がここまで怒った姿を見たことがなかった。


『ふふっ、君みたいなガチガチにカタいタイプ、好きだなあ。その鉄壁の表情を崩したら、さぞや可愛いだろうねぇ~。よし決めたっ、最初のターゲットはロゼッタちゃんにしよう!』

『あなたという人は……』

『残念だね。これがあたしという人間だよん』


 ブオッという音を伴い、ロゼッタの体の周囲から砂嵐が吹き荒れた。

 すなわち、臨戦態勢のサインである。


『……いいでしょう。あなたのやり方が癪に障るのは事実ですが、逃げたと思われるのはもっと癪に障ります。甘んじてあなたのプロレスに付き合いましょう、嵐を呼ぶ女王』

『いいねえ、そうこなくっちゃ。それじゃあ、女王同士のガチンコ能力バトル、第一ラウンドいっくよー!』


 クリスティーナ女王がまずは挨拶と言わんばかりに、矢のようなスピードで突撃をかけた。

 すかさずロゼッタが両手を床に着き跪くと、地中から岩の壁が巨大な盾のごとく隆起する。

 彼女お得意の触れたものを石化させる能力の応用であるが、対するクリスティーナ女王はそれでも余裕の笑みを浮かべていた。


『なになに、それで凌ぐつもり? ぶっ壊しちゃうぞー』


 ドゴッ!


 突進。破裂音とともに岩の盾の一部が粉砕される。

 場内はアストン陣営の悲鳴で溢れかえったが、しかし土の女王のガードは固かった。ロゼッタは突進の反動でコースが逸れたクリスティーナ女王が体勢を立て直す間に破壊された壁を再構築、その後の角度を変えた二度三度の攻撃も防ぎ切り、逆に観衆を沸かせてみせた。


『まだ来ますか? クリスティーナさん』

『うっひゃー、かったいねー! こりゃ降参だよ、これを突破して君を真っ裸にするのは至難の業と見た。つーかめんどいって』

『そうですか。では私を脱がすと一方的に息巻いておいて、速攻で負けを認めたあなたは脱がないのですか?』

『ははっ、盛り上がる返しだね。一本取られたと言いたいところだけど、防御特化の君の力じゃあたしの服も破けないじゃん? てことでこの勝負は引き分けだね。まあおかげで君の国民を喜ばせるいいデモンストレーションにもなったでしょ。さあ、鉄壁のディフェンスを見せつけたアストンのロゼッタ・ガイア女王、君の勝利を期待している国民に向けて、意気込みの言葉をどうぞ!』


 どうやらこの振りまでもが場を盛り上げるための仕込みであったらしい。

 ロゼッタは振り返り、仕事を奪われた司会者が首を横に振るのを確認すると、軽い溜め息とともに口にした。


『……やれやれ。誰かさんに乗せられるのは不本意ですが、私は今日最高のパフォーマンスを披露することを約束します。そして必ずや優勝の栄光を手にするでしょう。ちなみに私が優勝したあかつきには、今回の件の責任を取ってクリスティーナさんには脱いでも貰いますので、皆さん応援してくださいね』

「うおおおおおおおおおっ!! ローゼ! ローゼ! ローゼ!」


 声援を浴びるロゼッタの背中を目にしながら、グレンはあの日握手を交わした彼女の不敵な笑みを思い出していた。

 クリスティーナ女王は愉快そうに笑い、軽やかに言った。


『かぁー、アストンの新米女王は思いの外やり手だった! あたしの国民のためにもこりゃ負けらんないね。さてスリリングな余興はまだまだ続くよー、次行ってみよう! お次のターゲットはぁ……アーニャちゃんだぁ!』


 グレンの心臓がきゅっと縮み上がる。

 指名を受けたアーニャは、全フレイア国民が固唾を飲んで見守るなか、スポットライトに照らされた。


『……わ、わたっ、私はあんたなんかには絶対に負けないんだからっ!!』


 威勢のいい言葉とは裏腹に、アーニャの額からは脂汗がにじみ、目の焦点は定まっていない。

 この荒れに荒れた空気に、完全に呑まれてしまっているようである。

 グレンは助けに行ってやりたくても、自分の出る幕がないことがもどかしかった。


『ふーん、その意気やよし。して君のその炎、どれだけのものか試してしんぜよう』


 場内の煽るような声を切り裂くように、クリスティーナ女王が再び突風へと変化した。

 彗星のように旋回を繰り返すその動きに合わせんと、アーニャは周囲に発生させた炎の向きをしきりに調整し始めた。彼女の炎はロゼッタのような防御手段としての運用は不可能であるがゆえ、先手を取って攻撃を仕掛けるしか道がない。

 しかしグレンの目にはどうにもその反応が遅れているように見えた。

 アーニャは歯を食いしばり、懸命に炎を操作し続けている。しかし、非情にも炎の矛先とクリスティーナ女王の位置のズレは時間とともに広がるばかりであった。


「アーニャ、頼む……。踏ん張ってくれ!」


 グレンが祈るように拳を握りしめるなか、遂に突風がアーニャの背後から急接近を仕掛けた。


『隙ありっ!』


 妹の裸体が全世界に晒されるというおぞましい光景が目に浮かび、グレンの身の毛がよだつ。


 ブワッ。


 しかしクリスティーナ女王は実際にアーニャの衣装を破壊することはせず、客席からは見えない位置からアーニャのスカートを豪快に捲り上げた。


『ふむふむ。なるほど、こういうパンツか』

『ああ……うぅ……』


 フレイアサイドからの怒号と、他陣営からの喝采が混じり合い、一斉にステージへと降り掛っている。

 恥辱に染まったアーニャは顔を真っ赤にしていた。

 グレンは最悪の事態を免れたことを安堵すべきなのか、彼女に現在降りかかっているこの災難を嘆くべきなのか、にわかには分からなかった。

 クリスティーナ女王はさらにアーニャに浴びせかけるように、こう言い放った。


『意外に可愛い反応いただきだぁ! けど、フレイアの人間なら当然このままやられっ放しって訳にはいかないよね。国民の皆さんからは倍返しを期待する声が出ていますが、アーニャ・プロミネンス女王、本番に向けての意気込みの言葉をどうぞ!』

『あ……ああ……えっと……わたしが、優勝するので……応援よろしく』


 場内のざわめきに言葉の大部分が掻き消された、いつもの威勢の良さがまるで影を潜めたスピーチである。

 この状況では無理もないと言わざるを得ないが、やはりどう好意的に解釈しても、アーニャが本番の演舞を前にしてメンタル面に深手を負ってしまったことは言うまでもない。

 グレンは唇を噛み締めた。

 風の女王は満を持して、標的を最後の一人に乗り換えた。


『最後はソフィアだよ。ユーの裸は期待してる人多いだろうし、今みたいなスカートめくりじゃ済まさないぞっ!』


 ソフィア女王はゴミを見るような目で彼女を見上げると、気だるそうに口を開いた。


『神聖な舞台とか言っておきながら、私物化して荒らす不埒な女王……。下品な言葉をまるで自重しない観衆……。見て見ぬふりの委員会……。はぁ、人間なんてくだらない』

『こらソフィア、この場に立つ女王にあるまじきダウナーな発言は止めてよね。せっかく盛り上がって来たんだからさあ』

『そんなの、知らない。まあ、来たいなら来ればいい……』


 彼女の返答にはしかしどこかでこの波乱を待ち望んでいたような、微かな上機嫌さも伺えた。そして発言の直後、ステージは瞬く間に濃霧で覆われた。

 ソフィア女王の姿は、もはやぼやけた影でしか目視することが出来なくなっていた。


『なるほど考えたねえ。霧で隠しちゃえば中でどんなにいかがわしいことがあっても見られないで済むってわけか……てことは裏を返せばやりたい放題じゃんっ!?』

『観衆の想像力を掻き立てるいい発言だけど、それは無理。あなたはわたしに触れられない』

『はっ、それはどうだかっ。ソフィア、覚悟!』


 朧げな影に狙いを定め、クリスティーナ女王は霧中へと突貫した。

 目標に向かって一直線、その軌道にブレはない。しかし彼女が影を捉えたかに見えたその瞬間、ゆらりと影は消え、豪快に空振った彼女の体は霧の外へと投げ出された。


『ありゃ? えっ、ええっ?』


 さすがの嵐の女王も驚いた様子である。キョトンとした表情で、影のあった方向を二度見した。

 すると不思議なことに影は再び元の場所へと蘇っており、魔法のようなこの鮮やかな回避劇に会場全体は酔い知れた。


『わたしは幻。否、あなたの目に映る全ては幻。わたしは今日、いつも通りに歌うだけ。全てを幻に包み込み、願わくば生きとし生けるもの全てに幸福で安寧な死を』

「うおおおおおっー! ソフィア女王ーーッ! 意味わからんが心中してくれーーーッ!!」


 一連の流れでイレギュラーを歓迎する空気が出来上がっていたのだろうか。不穏な発言内容を意にも介さず、会場のボルテージはさらなる高まりを見せていた。

 クリスティーナ女王は降参とばかりに頭を抱え、


『あちゃー、あたしが振る前に意気込み言われちゃったけど、盛り上がったんならまあいいか。それじゃあ最後にあたしのターンっ! みんな本番はこんなもんじゃないよー。嵐を呼ぶ女王はもっともっと激しい嵐で大会を荒らしていくから、みんな覚悟してねーっ!!』

「うおおおおおおーーー!! クリスーーーー!!!」


 こうして前代未聞のオープニングセレモニーは締め括られた。

 あらためてそれぞれの女王の顔を見比べると、最も晴れやかな表情をしていたのはやはり、クリスティーナ女王である。意のままに会場の空気を操り、場を存分に盛り上げることに成功した彼女は実に満足気な笑顔を浮かべている。次いで十分なアピールをすることが出来たロゼッタとソフィア女王もそれなりにいい表情をしており、一方でアーニャ一人だけが死んだ魚のような目をしていた。


 その後進行は司会者へと戻され、くじ引きで出演順を決める抽選会が行われた後、女王たちにとっては本番前の最後の休憩が与えられた。

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