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大演舞会 ~俺がファッションデザイナーで妹は女王様~  作者: 武藤一光
第3章

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最後のピースを求めて

 アーニャはレッスンにも学校にも復帰し、また以前と同様グレンの家にも顔を出すようになっていた。

 グレンからすればこれで一安心と行きたいところであるが、テレビを付ければ相変わらず、どの局も大演舞会のニュースばかり。

 彼女に圧し掛かっているであろうプレッシャーが消えたわけでないことは言うまでもない。

 だからこそ彼は、約束のドレスだけは完璧に仕上げてやりたかった。


「で、どんなのを作ってるのよ。ちょっと見せてみなさいよ」

「ちょっ、見るなまだ。出来上がってからのお楽しみだから。必ず最高のやつを仕上げるからもう少し待っててくれ」

「あらそう。随分勿体ぶるじゃない」


 覗き込もうとしてきた妹の目から、グレンは必死にスケッチを死守した。

 彼の頭の中では既に、ドレスのイメージ自体は出来上がっていた。

 しかしそれをより完璧なものにするための最後のピースに、まだ不確定要素を残していた。


「それよりセクハラを承知で言うが、プレッシャーがあるからって本番直前にドカ食いして激太りなんかするんじゃないぞ。せっかくの最高傑作も、着られなくなったら水の泡だからな」

「ふん、私のプロ意識を舐めて貰っちゃ困るわよ。もうこっからはカロリーをちゃんと計算して一グラムだって変動させないんだから」

「計算するのは栄養士だろ。まあ基礎代謝の高いお前なら余程のことでない限り大丈夫だとは思うけどさ」

「余計な心配よ……。あら? ところで兄ぃ、机の上に置いてあるその切符はなによ?」

「ああこれか。まあちょっと野暮用があってな」


 アーニャはその紙切れを手に取り、そして一気に目をつり上げた。


「呆れたわっ! なにが『俺はお前の傍にずっといる』よ! あんなプロポーズばりのくっさい台詞を吐いといて、まさか速攻でウォルタに遊覧旅行を決め込むとは失望したわ。なるほど分かったわよ、つまりグレン・プロミネンスという男はそういう奴なのね」

「いや違うんだ。今度ちゃんと説明するから、今は黙って俺を信じろ……って破るなこら! 高いんだからっ!」

「知らないわよ。ツバを掛けるくらいで勘弁してあげるわ」

「うわああああああ!」


 “大神木の涙”。大神木の樹液の結晶で作られた、この世でもっとも美しいと言われる宝石である。

 グレンはドレスを完成させる最後のピースとして、どうしてもそれを必要としていた。

 一応法外な金額さえ支払えば店で買うことも可能であるが、なるべく誰の手にも渡っていない新品が望ましい。

 ということで導き出された答えは、自力で採掘場まで行ってそれを採取するというものだった。

 つまり、このウォルタ行きの切符はそのために用意したものである。


 次の休日。彼は早速アーニャに内緒でウォルタ王国の首都、アークアの街に降り立っていた。 

 採掘場は街を越えた山岳地帯からのみ入ることの出来る、広大な地下洞窟を進んだ先にある。

 街自体には別段用がなかったので彼は素通りすることにしたが、建物の作りが軒並み美麗であるにもかかわらず、霧がかかっていてそこには全体的に暗い雰囲気が漂っていた。


「なんだか彼女の歌を思い出すな。歌から垣間見えていた心象風景そのものというか」


 グレンはあの掴みどころのない女王のことを思いながら、ふと独り言を呟いた。

 どこまでも透き通るあの歌声は、彼がその気になりさえすれば今でもはっきりと脳内再生することが出来た。 


「俺は今からあの歌の魅力に勝負できるような服を作らなきゃならないんだよな……」


 グレンは奥歯を噛みしめ、歩みを進めた。

 山岳地帯までは危なげない道のりではあるが、それなりに距離がある。

 普段あまり運動をしないことも祟って、彼がその地に辿り着いた時には既に大分足に来ていた。

 とある山の中腹、断崖絶壁の崖のはるか下に見えるは小さな洞窟の入り口。

 その中に入ってしまえばもう地図はなく、大神木の真下までの約二十キロ、ひたすら未知の連続となる。


「入って無事に帰還できた人間はおよそ一割。ケイビング未経験の人間がいきなり挑戦するというのは無謀が過ぎるだろうか……なんてな。ここまで来て、引き下がってたまるかよ」


 グレンは耐久性と防水性において最も信頼のおける、彼本人がデザインしたつなぎとヘッドライト付きのヘルメットを装備し、ゆっくりと崖を下りていった。


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