岸谷亮二(きしたに りょうじ)
「ふぁあああぁぁ…」
朝から欠伸が止まらない。
「どうしたの、さっきから大きな欠伸ばかりして。」
真朝ちゃんだった。
「昨日ちょっといろいろあって一睡もできてないんだぁ」
「まだ、火曜日だってのにオールするなんてタフねぇ」
したくてしたわけじゃない。
「そういえば亮二、遅いね」
「そうね、遅刻するような奴じゃないのに風邪でもひいたのかしら」
そんな話をしてたら梓川先生がやってきた。
「皆に報告がある。今日岸谷が事故に会ったらしい。信号無視した車に轢かれて市民病院に運ばれたと警察から連絡が来た。先生は岸谷の様子を見に行くから1時間目は自習だ。」
「亮二が事故!?先生、僕も病院に連れて行って下さい」
「先生、私も付いていきます!」
僕と真朝ちゃんは梓川先生の車に乗って市民病院へと向かった。
病院に着くと受付の看護婦さんに病室を教えてもらい、急いで亮二の元へと向かった。
「亮二!」
「おお悠河!どうした?」
亮二は思いのほか元気そうだった。
「どうしたじゃないわよ!皆心配したんだから!」
「ごめん、ごめん!俺はかすり傷程度だから病院に行かなくていいって言ってたのに警察の人が一応病院で診断受けた方がいいって聞かなくて、大袈裟なことになっちまって。俺より轢いたドライバーの方が重体らしいんだけどな」
あははと笑う亮二の姿にホッとして、全身の力が抜けその場にへたり込んだ。
「良かった…」
「おい悠河大丈夫か?」
手を差し伸べてくれた亮二の手に触れた時だった。
ソレは見えた。
黒いモヤのようなもの、とても濃くて凄く悪いものだと分かるソレは亮二に抱きつくようにまとわりついていて、それを見た瞬間に全身に鳥肌が立ち動けなくなった。
「どうした?俺の顔になんか付いてるか?」
黒いモヤが強すぎて亮二の笑顔すら僕には見えない。
何とかしてあげたいけど出来ない自分の無力さに腹が立った。
でも…真昼さんならなんとかしてくれるかもしれない。
「亮二、怪我は大丈夫なんだろ?明日会って欲しい人がいるんだ。」
「おお、いいけどどうした急に?」
「急ぎの用なんだ、たのむ!」
「わかった、明日学校帰りにな」
僕は明日、亮二を真昼さんに会わせることにした。
翌日、更にモヤは濃さを増して亮二に近づくことすら難しいほどに酷かった。
学校が終わり亮二を連れて家に帰る。
「ここ、魔女の家じゃないか」
「亮二、この家知ってるのか?」
「長崎でも有名な場所だよ、ここになにしに来たんだ?」
「いいから付いてきて。」
亮二を連れて家に入ろうとした時だった。
玄関で真昼さんが待っていた。
「悠河くん待って、その子を家に入れちゃダメ!大体の話は分かるわ…場所を変えましょう。」
僕たちは近くのカフェに向かった。
「あなた亮二くんね?悠河くんからよく話は聞いているわ。わたしは小春日真昼と申します。」
「どうも!で、状況が掴めないんだけど、なんの話があるんだ?」
「亮二くん、貴方にはかなり強力な悪霊が憑いているわ。今すぐ払わないと命に関わります。」
「…」
目を閉じて黙る亮二。
「亮二どうした?」
「ごめん悠河…俺は心霊とか宗教の類いはもう懲り懲りなんだ。家族がおかしくなっちまったのも宗教のせいで…俺は両親と縁を切った。」
「亮二…」
「ごめん…これ以上大切なモノを失いたくないんだ。」
「あなたの決意は硬いみたいね。わたしはいつでも待ってるから、気が変わったら家においで。」
「すいません。」
亮二は立ち上がり去って行った。
「悠河くん、彼…死相がでてるわ…急いで追いかけてあげて。」
「わかりました!」
僕は急いで亮二を追った。