セセラギ様
「で、話というのは?」
「裏山のヌシであるセセラギ様が寿命を迎えようとしておってな、次のヌシに大猿の太郎坊が成りそうなのだ。太郎坊の器では裏山のヌシには成れん。そこでじゃ、真昼殿にこの件を上手く解決してほしいのだ。」
「この件の縁は高く付きますよ?」
「わかっておる。天狗の王との縁で手を打っていただけぬか?」
「いいでしょう。この件その縁を持って円満解決させて頂きます!」
真昼は真剣な顔から、いつもの笑顔に戻る。
烏天狗はセセラギ様の容体が心配と、急いで裏山へと飛び立っていき、木霊達もその後をついて行くように走って行った。
「もしヌシが居なくなってしまったらどうなるんですか?」
僕は素朴な疑問を真昼さんに問いかけた。
「山が荒れるわね、獣や妖たちが見境なく人を襲い始めたり。大規模な災害に繋がることだってあるわ…ヌシがいなくなるとはそういう事なの。」
「真昼さん、僕たちも急いで裏山に向かいましょう!」
「そうね、わたしはちょっと準備があるから悠河君は先に裏山の天辺にある大木のところに向かって、後は木霊か烏天狗が案内してくれると思うわ。」
「わかりました。」
僕は自転車をこいで裏山に向かった。
酷い傾斜に途中自転車を置き去りにして、走って山の天辺をめざした。
「おお…ぼうず来たか!」
烏天狗だった。僕は烏天狗に案内されて森の奥深くセセラギ様の元へ向かった。
深夜だというのに、森の奥に進むにつれてどんどんと明るくなっていく。
「ここじゃ!」
そこには、白く輝く巨大な龍がいた。
「これが…セセラギ様…」
セセラギ様は囁くような優しい声で僕に話しかけた。
「ほう…この森に人間がくるのは何十年振りかのう…ワシはもう目が見えぬでな…近う寄ってくれぬか?」
僕はセセラギ様に近づいた、セセラギ様は重い首を動かして僕に近づいてきた。
そっと手を伸ばしその輝く鱗に触る、その鱗は硬くて、それでいて暖かかった。
「人間…名は何と申す?」
「悠河です。」
「悠河か…良い名じゃな…。悠河お主は自分に何が憑いているか知っているか?」
「黒蛇の事ですか?」
「ああ…お主には邪の蛇が憑いておる。これから先お前はその蛇から選択を迫られるだろう…でも、決して判断を誤るでないぞ?」
「はい」
セセラギ様の目は見えてはいなくてもまるで僕の心を見透かしている様だった。
それからどれだけの時が経ったのだろう。
真昼さんが息を切らして走ってきた。
「セセラギ様初めまして、小春日真昼と申します。」
「小春日真昼…天に還る前にお主にあえるとはな…よく話は聞いておる。今回は大役を任せることになったな…」
「いえ…これより交代の儀をとり行います。」
「頼む…」
その時だった。
「セセラギっ!お前を殺して俺がここのヌシとなる!」
「お前は、太郎坊!このままでは交代の儀が…」
烏天狗が恐れ慄いていた時だった。
セセラギ様が立ち上がった。
翼を羽ばたかせて、突風を巻き起こし砂埃で太郎坊は目を塞がれた。
その瞬間セセラギ様の尾が大きく振り被り、太郎坊に直撃して太郎坊は後方の大木に叩きつけられ気を失った。
「小春日真昼…時間がない…急ぎ頼む」
そう言うとセセラギ様は力無くまた地に頭を伏せる。
「本当は、悠河くんの為に用意してたんだけど。」
そういうと真昼は虫かごから白い蛇を取り出した。
「これより交代の儀をとり行います。」
魔法陣みたいなモノを地面に描くと、真昼さんはそこに白蛇を置きセセラギ様に触れる
セセラギ様の輝きが白蛇の方へ川のように流れて白蛇はみるみる大きくなり巨大な大蛇となった。
「ありがとう…」
セセラギ様は光となって天に登って行った。
「これにて交代の儀終了!君にはこの山のヌシとして頑張ってもらいますよ!」
「うん、ヌシがんばる」
大丈夫なのだろうか?少し心配だったが、後で真昼さんに聞いたら素直だしセセラギ様の力を受け継いだから大丈夫とのこと。
ヌシの世界はよくわからない。
僕と真昼さんは烏天狗と木霊達に見送られながら森を抜けて山を降りた。
大きなあくびをして歩いていると真昼さんが缶コーヒーを奢ってくれた。
「悠河くん、今日はありがとうね!君が一緒にいてくれたからセセラギ様も安心していれたんだと思うわ」
そういうと真昼さんはいつもの笑顔を見せてくれた。
気がつくと遠くの山の間からは朝日が顔を出していた。