転校と木霊と烏天狗
自転車で爆走する真昼さんと僕。
「はあはあ、まさか、2人とも寝坊するとは」
「悠河くん急いで、はあはあ、まだ間に合うわ!」
2人で息を切らしながら走る。
「はあはあ…到着!ギリギリ間に合ったわね」
「小春日さん、卒業しても遅刻癖は治ってないようですね!」
「その声は田口先生」
「今は、田口教頭です。初めまして小鳥遊悠河くん。ようこそ城北高校へ。君のクラスは1年2組です。担任の梓川先生に教室へ案内してもらってまずは自己紹介からですね。小春日さんは職員室で説教です。」
「え?ちょっと待ってー」
職員室に無理やり連れて行かれる真昼さんを見送り、僕は梓川先生に連れられ教室に向かった。
自己紹介、引っ越しの度にしてきたけど、未だに苦手だ。
教室に着いて先生に紹介される
「みんな静かに、今日からうちのクラスに転校してきた小鳥遊悠河くんだ。小鳥遊くん挨拶を。」
「小鳥遊悠河です。宜しくお願いします。」
「特技とかあるんですか?」
ギャルっぽい女子生徒が質問してくる。幽霊や妖怪が見えます…なんて言えるわけもなく
「特にありません。」
この一言で大概の生徒からは距離を置かれる。まあ、独りで過ごすのには慣れてるからいいのだけどね。
「じゃあ席は岸谷のとなりな」
岸谷くんって言うのか。
ちょっとガタイがよくて目つきが鋭く話しかけづらいイメージだ。
ん?気のせいか一瞬岸谷くんを包み込むモヤのような物が見えた気がした。
「小鳥遊って珍しい名字だな」
意外と岸谷くんから話しかけてきた。
「うん。よく言われる。」
「俺は岸谷亮二気軽に亮二ってよんでくれ!おれも悠河って呼ぶからさ!」
なんか絡み辛い…
友達がいた事なんて無いからどう接したらよいかわからないし、とりあえず…上手く流そう。
「悠河教科書見せてくれよ」
「悠河一緒に飯食おうぜ」
「悠河昨日のテレビみた?お笑いのやつ」
「悠河一緒に帰ろうぜ!」
…ガンガンくるーっ!?
「ちょっと亮二!小鳥遊くんが困ってるじゃない!」
女の子が僕と亮二の間に入る。
「なんだあさこか!悠河こいつは学級委員長のあさこ。口うるさいけどいい奴だ」
「口うるさいは余計だし、私はあさこじゃなくて真朝!(まあさ)小鳥遊くん改めてよろしくね」
「…よろしく」
ツインテールを揺らしながらニコッと笑う顔にちょっとドキっとした。
「じゃあまた明日」
何気ない挨拶だけど、僕にとっては初めてでとても特別な言葉だった。
2人と別れて家路に着く
自転車を停めて玄関の前に来たときだった
カラカラカラカラ
玄関の影に隠れるように白くて小さい生き物がいた。
「なんだろう?」
「こいつは木霊じゃな」
「又助さんっ来てたんですね!木霊っても●のけ姫にでてくる、あの木霊ですか?」
「なんじゃ?もの●け姫て?木霊は樹齢の高い木に生まれる妖精でな。こんなとこで見れる事はなかなかないもんだ!こぞう今日はラッキーだったな。」
木霊は影からこちらを見ると、家の裏の方に走って行った。
それから自分の部屋の襖を開けると、木霊が3匹飛び出して来た。
珍しいんじゃなかったのかな?
それからというもの…トイレの中に木霊
お風呂の蓋を開けると木霊
部屋の外の塀に関しては20匹くらい仲良く座っていた
カラカラカラカラ
さて、そろそろ寝ようかなと布団に入ってみるも
カラカラカラカラカラカラカラカラ
カラカラカラカラカラカラカラカラ
カラカラカラカラカラカラカラカラ
カラカラカラカラカラカラカラカラ
「あーっ!うるさいーっ!」
思わず叫んでしまった。
「どうしたの悠河くん?」
真昼さんが目をこすりながら眠そうに部屋から出てきた。
「ちょっとこの木霊どうにかなりませんか?」
「あら?木霊じゃない!珍しいわね」
もはや全然珍しくない
「でもこんなに沢山、ウチは木も植えてないのに何しにきたのかしら?」
そのときだった。
バサッバサッバサッバサッ
空から黒い鳥人間が降りてきた。
「カラスの化け物ーっ!」
「誰がカラスの化け物じゃ!」
鳥人間がすかさずツッコミを入れてくる。
「あら?裏山の烏天狗じゃない?こんな時間にどうしたの?」
真昼さんがあくびをしながら訊ねる。
「緊急事態でな!使いの木霊を朝から送ってたのだが1匹も帰ってこんでな、心配になって来てみたのじゃ!」
カラカラカラカラ
木霊達は我関せずと塀の上で寛いでいた。
「最初から自分で来たほうが早かったみたいね。笑」
まさにその通りである。
「小春日真昼殿、折行って頼みがあるのじゃ、話を聞いて貰えぬか?」
真昼はパジャマから着替えると、仕事モードに切り替わり烏天狗の話を聞いた。