榊宗一郎(さかき そういちろう)
可愛い巫女さんがお茶を出してくれた。
お茶を飲む僕を見て、真昼さんがおじいちゃんみたいだね笑。ってくすくす笑っていたら、先ほどの神主さんが現れた。
「宮司の榊と申します。」
「小春日真昼です」
神主さんが重い口を開く。
「あの…あなたが現れたということは、私はもうここを去らなくてはならないのでしょうか?」
「それは、これから私が見極めます。少なくとも光明神様はそれを望まれています。」
「そうですか…」
重たい空気が周りに漂う。
「では、着替えて参りますので、更衣室を使わせていただけますか?」
そう言うと真昼さんは巫女さんに連れられ、奥の部屋に入っていった。
部屋に2人で取り残される。
「あの…差し支えなければ何があったのか話を聞かせていただけませんか?」
僕の問いかけに神主さんは俯いたまま口を開いた
「私には、代々この神社の神主が持っていた霊力と言うのが全くと言ってないんですよ。先代も先先代も光明神様と対話していたと聞きます。しかし私は何も感じることができないのです。」
見えることが苦痛とばかり思っていた僕は、
見えないことで苦しんでいる人がいる事を初めて知った。
「おっまたせー!」
振り向くと、巫女服に着替えた真昼さんがいた。
巫女服も良く似合っていて可愛い。
「どう?似合ってる?」
真昼さんはくるりと回って見せた。
「…可愛いです」
声に出して言うと恥ずかしい。
「ありがとーっ!ちゅっ」
ほっぺにちゅうされて真っ赤になる僕。
「ちょ、ちょっと何するんですかっ!?」
「かっわいい笑。さあて仕事に入りますか。」
切り替えがはやい。僕は右頬の余韻にひたりながらゆたゆたと真昼さんについて行った。
「お仕事と言っても何するのですか?」
素朴な疑問を問いかける。
「見てるだけよ?」
「見てるだけなんだ…退屈ですね」
「そんなことないわよ。この仕事には人1人の人生がかかっているんですからね。」
「そうか、もし榊さんが真昼さんに認められなかったら宮司を辞めないといけない。」
そうなったら榊さんは無職になってしまう。
「そういうこと、これはすごく重要な仕事なの。」
それから僕と真昼さんは離れたところで、榊さんの仕事を眺めていた。
特に変わった様子もなく1日が過ぎ、2日が過ぎて3日目の夕方。
「何もないまま3日が過ぎちゃいましたね。」
「そう?結構いいものが見れましたよ」
真昼さんはニコっと笑うと、僕の手を引き神社の本堂に向かって歩いて行った。
本堂には榊さんがすでに待っていた。
「ホッホッホ!やっときたようじゃな!」
光の球が四方八方から集まり、一つの塊となり光明神様の形を成した。
「光明神様、この三日間神主の榊さんの行動を見させて貰いました。」
いつもはあまり見せない真剣な顔つきの真昼さん。
「それはどういうことじゃ?そなたにはこの神社の神主になるよう頼んだはず。今更、こやつの働きぶりを見て何が変わると?」
「榊さんには、確かに霊力はありません。しかしもっと大切な力を持っています。」
「私に力が?」
「ええ、貴方には人に好かれ人を引き寄せる力があります。神の力の根元は信仰心、信仰してくれる人が居なければ徐々に力を失い、信仰されなければ消えてしまう。ここの参拝者の多くは老若男女、貴方に会いにくる人ばかりではありませんか。」
そうだ、確かにみんな榊さんに会いにこの神社を訪れていた。
「うう…しかしだな…」
「光明神様は寂しかったのですよね?今までの神主さんは皆、光明神様の姿が見え話し相手になってくれた。でもその先代の神主、榊さんのお父様が亡くなって話し相手もいなくて孤独を感じていた。」
「宗二は…こやつの父親は良き神主で、よき話し相手じゃった。幼き頃からわしの後をついて回ってのぅ…84年間あっという間で、とても楽しい時間を過ごせた。じゃが、こやつには話しかけても何も返してくれぬ。わしは胸にぽっかりと穴が空いたようじゃった。」
「それで私の所に来たのですね。でもその穴を塞ぐ方法も考えてあります。」
「本当かっ?」
「榊さん、貴方は息子さんがいますね?年は3歳かな?その子は十二分にお爺さまの…宗二さんの力を受け継いでいます。その子をこの神社に連れてきてあげてください。光明神様もお喜びになられます。」
「確かに私には3歳になる息子がいます。しかしどうしてそれを…?」
「相談屋ですからっ!」
にこっと微笑む真昼さん。
相談屋さんはなんでもお見通しのようだ。
「では、これで!」
着替え終わっていつものお洒落な真昼さんに戻り、車に乗り込もうとした時だった。
「あの、ありがとうございました!」
榊さんが走ってお礼を言いにきた。
「いえいえ、これからも頑張ってくださいね。」
「はいっ」
榊さんは一安心したのか、やっと笑顔を取り戻したようだった。
車に乗り込み真っ直ぐ真昼さんの家に帰る。
真昼さんが晩ごはんの準備をする間、部屋で横になっていた。
ひょいっと縁側を飛び越えて部屋に入ってくる又助さん。
横になっている僕のお腹の所で丸くなった。
「ぼうず、真昼の仕事はわかったか?」
「なんとなく、ですけどね。」
「まあ変わった職業だからな、なんとなくわかれば十分よ」
それからしばらくしないうちに部屋にいい匂いが漂ってきた。
「じゃーん!今日の晩ごはんはカレーでーす!」
やっぱりカレーだ!
「いただきます。」
一口食べてみる
「美味しい!」
『愛情たっぷり込めてますからね』
真昼さんに合わせて僕も声を合わせる。
「あー私のセリフ!」
あははは
2人で声を上げて笑った
こんなに楽しい夕食は何年ぶりだろう…
「あっそういえば悠河くん、明日から高校に通って貰います!ちょっと遠いんだけどね、城北高校って場所で明日は初日だから一緒に自転車で行こうか♪ちなみに城北高校は私の母校でもあります。」
真昼さんの母校か、どんなとこだろう?
「あと私から離れるときはこのミサンガを身につけておいて。特別な糸で紡いであるから悪いものを寄せ付けない効果があります。」
そういうと小春さんはミサンガをぼくの左手に付けてくれた。
「ありがとうございます。」
その晩、ミサンガを眺めながら床についた。
ところどころ青く光る不思議な糸で材料は頑なに教えてはくれなかったけど、何気に物心ついてから初めてもらうプレゼントだったりする。
「何をにやついとるんだぼうず」
「うわーっ!って又助さん驚かせないでくださいよ」
「今日は冷えるからのー布団に入れておくれ」
「どうぞ」
ふとんのトンネルを作るとスルスルと入ってきた。
暖かくてフワフワした又助さんを抱いていたら自然と眠くなり、僕はいつのまにか爆睡していた。
その日の夢を僕ははっきりと覚えている
小さい男の子が神社で遊んでいる姿が見える
その隣には光明神様。
「お姉さん一緒に遊ぼう」
「ホッホッホ、良いぞ。おぬし名はなんと申す」
「さかきそうた」
「そうたか良い名じゃ。わしはこうみょうじんと言ってだなここの神様じゃ」
「神様すごい!バトレンジャーとどっちがすごい」
「バトレンジャーとはなんじゃ?わしの方がすごいに決まっておろう」
「じゃあ変身して変身!」
「変身はできんのぅ」
光明神様もそうた君の前ではたじたじだった。
光明神様息子さんに会えたんですね。
良かった。
これが正夢だったかどうかは知らない。でもこうあって欲しいと僕は思った。