又助さんの作戦
その夜…
真昼さんの手が僕の額に触れる
「悠河くん、熱下がったみたいね!良かったぁ」
真昼さんが安堵の表情を見せる。
僕が寝てる間もずっと看病してくれてたみたいだ
「もう寝ましょうか」
「そうですね、おやすみなさい」
真昼さんが部屋を出ると、黒蛇が現れて傍らに座って見守ってくれた。
やな奴だけど、心強い。
「主よ、安心して寝とけ」
「…ありがとう」
僕は黒蛇に礼を言うと、又助さんの作戦を実行し眠りについた。
丑三時である、事が動いた。
「うききききっ」
変な笑い声を上げて枕返しが僕の部屋に現れた。
睨みを効かせて、刀に手を掛ける黒蛇。
「三下よ…悪さが過ぎると斬るぜ?」
枕返しは怯む事なく近づいてくる。
次の瞬間、黒蛇の刀が枕返しを引き裂いた。
目では捕らえられない早業!
だが、枕返しはぴんぴんしている。
「斬った感触がないだと…」
奇妙な感触に黒蛇が驚いていると
闇夜から声が聞こえた。
「無駄じゃ、枕返しは夢うつつの幻。刀で切れるような相手ではないわい」
又助さんだった。
又助さんは枕返しに問い掛ける
「どうしてこぞうに執着する?」
「こんな純粋ピュアな魂は久しぶりにみた。悪戯じゃなく夢うつつに連れ去りたくなったのよ」
「ならやってみい?」
又助さんの挑発に乗った枕返しは驚いた
「枕が…枕がない?!」
枕返しは面を喰らった。
「にゃはは、無ければ返せまい!」
「一休さんか貴様!」
「亀の甲より年の功ってな、伊達に200年以上生きとらんわ」
悔しがる枕返し。
「おのれー次に枕を使ったときが最後と思うんだな」
そう言うと枕返しは消えようとした…
そのときである
「逃がしませんよ?」
真昼が現れた。
「真昼、起きてたのか」
驚く又助さん
「大切な婚約者が狙われるときに寝てられますかっ!悠河くんは私のものです!」
そう言うと真昼は青い紐の輪を取り出して枕返しに投げた。
その紐は枕返しに巻きつくとキリキリと締め付けた。
「痛い痛い!なんなんだこの紐は?」
「それは妖術の紐、幻妖でも容赦なく締めつける事ができます」
紐はキリキリと音を立てて更に枕返しを締め上げる。
「痛い痛い、参った!この紐を外してくれ」
「枕返し、貴方の真名を差し出しなさい。そうしたら外して上げましょう」
「わかった渡す渡すから」
そう言うと枕返しは真名を紙に書いて真昼に渡した。
「真名は私の手に…もう悪さはできませんね」
真名の紙はその者の形代。持ち主の言葉には従い。もし燃やされでもしたら命を失うことになる。
「もう、この家には近づかないと誓いなさい!」
「御意!」
そう言うと枕返しは早々と姿を消した。
「これで一安心!…さあて、寝ましょうかね」
ふぁあああと大きな欠伸をすると真昼は部屋に帰った。
その夜僕は不思議な夢を見た。
僕は赤ん坊になっていて泣いていると、大きな天狗がやってきてあやしてくれる夢だった。
不思議な夢なのに、どこか懐かしくて僕は何処かでこの状況をみたことがある気がしたのだ。
この夢の話を理解するのはまだ少し先の話である。