小春日真昼(こはるびまひる)
家に帰ると真っ先に真昼さんの部屋に向かった。
まだ真昼さんは部屋に篭っているようだ。
閉じきった部屋の扉に話しかける
「真昼さん?」
「…はい。」
「そのままでいいので聞いて貰えますか?」
「…はい。」
「僕は今まで人を好きになったことがありませんでした。婚約者の件もいきなりすぎて飲み込めなかったし正直、真昼さんのことも好きなのかわかりませんでした。」
「でも、今日真昼さんのおばあさんにあって話をして今のこの日々を、真昼さんとの日常を失いたくないと思いました。今でもまだ好きって気持ちがどういうものかわかりません。…だから、僕にこれからゆっくり真昼さんが教えてくれませんか?」
「…はい。」
ドアが開いて真昼さんが出てきた。泣いていたのか目が少し腫れている。
「悠河くん…」
真昼さんに抱きしめられる。
「撫でて下さい…」
「え?」
「撫でて下さい。」
ぼくは真昼さんを抱きしめたまま、頭をなでてあげた。髪はさらさらでいい匂いがする。
「ご飯にしましょうか、今日は真昼さんの為につくります!」
「はいっ!」
僕はキッチンに立つとこの家に来て一番心に残っていたものを作った。
はじめて感じた愛情の味。
お味噌だ。
「今日の献立はお味噌と納豆と豆腐と卵焼きです」
「夕ご飯なのに朝ごはんみたいな献立ですね」
ふふっと笑うと、真昼さんはお味噌を一口飲んだ。
その目からは涙が溢れる。
「…美味しいです」
「愛情をたっぷりと込めてますからね」
「なら…」
「なら?」
「愛してるって言って下さい…」
顔を真っ赤にする僕
「…それは、できません」
「えー!なんでですか」
「できないものはできませんっ。さあ冷める前にご飯たべちゃいましょう?」
「はあい。」
うふふ、あはは、お互いに笑顔が戻った。