黒蛇と生姜焼き
家に帰ると僕は夕飯の準備に取り掛かった。
部屋に漂う、生姜の焼ける匂い。
美味しそうな匂いに釣られて真昼さんがキッチンに入ってきた。
「この匂いは…豚の生姜焼き?」
「正解!僕の得意料理なんです。」
「にしても随分沢山作るのね?お腹空いたの?」
「今日は腹ペコなお客さんがいるから大盛りなんです。」
何故か匂いに誘われて又助さんも現れた。
皆揃ったところで僕は奴を呼び出した。
「出てこい、黒蛇!」
黒蛇は侍の姿で現れた。
「なんだ?急に?」
「お前のために飯を作った!食べてみて」
「私の為じゃなかったんですね」
しょぼんとする真昼さん。
黒蛇は箸を取ると豚の生姜焼きに手を伸ばした。
恐る恐る一口かじる。
「こ…これは…なんだこれは…美味…美味なりっ」
「これは生姜焼きだ!僕の得意料理なんだっ」
「生姜焼き!気に入った!」
黒蛇は今まで満たされることのない満腹感を感じた。
「腹が満たされていく。なぜだ?」
「それはきっと、愛情をたっぷり注いで作ったからかな?真昼さんの受け売りだけどねっ」
「お前が、俺に?」
「一応、今まで僕のこと守ってくれてたからね。その感謝も込めて作ったんだ。」
「美味い…こんな美味い飯は生まれて初めてだ」
「それはよかった。」
「あっ!わたしまだ、一口も食べてません!」
「わしも食べてないにゃ」
わいわいとした賑やかな食卓。
こんな日が毎日続いて欲しいと僕は願った。