黒蛇の過去
病院に到着するとすぐさま亮二は手術室に運ばれた。
手術中のランプが点灯する。
「ちょっと喉が乾いたんで飲み物買ってきますね。」
「わかった。わたしはここで様子を見てますね。」
亮二を真昼さんに任せて僕は屋上へと向かった。
「居るんだろ?黒蛇」
「ああ、一応お前の守護霊だからな。」
黒い蛇が姿を現す。
「何の用だ?」
「お前は何故、悪いモノを寄せ付ける?」
「腹が減ってるからだよ」
「幽霊でも腹が減るのか?」
「一種の呪いの様なものだな、今のこの国は平和だ。でも俺の時はそうじゃ無かった。そこらじゅう死体だらけでよ、生きるのに精一杯だった。俺は生きる為なら人を殺して喰いもした。そのうち辻斬りと呼ばれるようになって、役人共に捕まり処刑されてな、地獄に落ちるんだとそう思ってた。だが違った。」
「天国に行ったのか?」
「地獄にも極楽にも行かなかったな。どういう訳か気付いたらお前に憑いていたのさ。満たされない胃袋と蛇の身体でな。きっと呪いなんだと受け止めて霊を寄せては満たされない腹にぶち込んだ。」
「そうだったのか…」
「あの小娘、名前はまひると言ったか?やつなら俺を払えるかもしれん。現世にはもう未練すらないしな。お前が家族を失った原因も俺を恨んでることもわかってる。」
このときだった。僕はセセラギ様を思い出した。
『これから先お前はその蛇から選択を迫られるだろう…でも、決して判断を誤るでないぞ?』
「黒蛇…お前のことは嫌いだし憎んでもいる。でも真昼さんには払わせない。腹が減ってるならお前の胃袋俺が満たしてやる。だからこれ以上霊を引き寄せるのは辞めてくれ」
「なんか策があるのか?」
「ある!」
僕はキッパリと答えた。
あはははと大きな声で笑う黒蛇。
「わかった。お前に従ってみよう。」
そう言うと黒蛇は姿を消した。
それから僕は、自販機で二本ジュースを買って真昼さんの元に戻ると、真昼さんは誰か知らない男の人と真剣な顔でお話していた。
「あ、悠河くんお帰り。こちら刑事の白鷺さん。今回の話を全部話してくれないかな?」
白鷺さん、細い目にきつね顔のこの男性は警察手帳を見せるとまずは自己紹介をしてくれた。
「特殊捜査第十課の怪異事件を担当しております白鷺と申します。今回のお話聞かせてはもらえませんか?」
僕は洗いざらい、今までの出来事を話した。
「それは蛇女ですね、長崎にもたまに現れる妖怪の一種です。話はわかりました。亮二さんのご家族にも上手いこと話をつけておきますのでご安心下さい。でわ。」
そう言うと白鷺さんは病院を去って行った。
それからしばらくして亮二のおじいさんもやってきて、手術中のランプが消灯し、中から先生が出てきた。
「手術は成功しました。即座に応急処置をしていただいていたので非常にスムーズに手術を行うことが出来ました。ありがとうございます。」
全員がホッとしていると、元気そうな亮二が現れた。
「このバカ2日連続で交通事故に遭いやがって!」
ゴツンとゲンコツが飛ぶ。
「いってえなぁ、病人だぞ!優しく扱えよ!」
どうやら白鷺さんの話で交通事故として話は通してあるらしい。
「でも、無事でよかった。」
「ありがとう悠河。しばらくは入院しなきゃだからたまには会いに来てくれよ。」
「うん、早く治して学校に来いよ!」
「おう!」
亮二はそのまま病室に運ばれて、僕と真昼さんは家へと帰った。
「あ、真昼さん。今日の晩ご飯なんですが…僕に作らせてください。」
「悠河くんの手料理?!もちろんいいですよ楽しみにしてますね!」
真昼さんはニコッと笑うとルンルン気分で歩いて行った。