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第二話 異常

 帰り道、耳をつんざくような悲鳴が響いた。

 友輝が声が聞こえた路地の方へいくと、筋肉質な長身の軍服のようなものを着た男が女性を襲っていた。

 彼らの周りにはたくさんの人が倒れており、男の頭上には赤い球体が浮いている。

 その異様な光景に友輝は息をのみ、立ちすくんだ。

 この男はまともな人間ではない。

 友輝がそう直感していると、男は叫びながら女性に抜き手を繰り出す。


「お前も血をよこせ!」


 反射的に友輝は胸元から剣を取り出して男が繰り出した鋭い抜き手を受け止めていた。

 周囲には紫色の霧が漂っている。

 この霧には認識阻害の力が働いているらしく、現実世界で『勇者』やその仲間の力を使うと現れて周囲の人間に見ているものに対して違和感を感じることがないように働きかける。

 そう、『勇者』の力だ。なぜか友輝たちは現実世界に帰ってきても召喚者としての力を使うことができた。

 刃渡り60㎝という胸元に入れるには大きすぎる剣を収納できたのも、≪収納≫というスキルのおかげである。


「うん?その顔、もしかしてお前が『勇者』の小僧か?」

「なぜおれのことを知っている?」


 友輝がそう言いながら男の注意を引いた。

女性に逃げるよう目で合図し、女性に逃げたことを確認していると、


「儂らはお前たちを追ってこの世界まできた。お前たち勇者とその仲間を全滅させるためになぁ!抹殺対象を知っているのは当たり前だろう?」


 男はそう言いその巨大な拳で友輝に殴りかかる。


(まずい)


 さっきのは遊びだったからか受け止められていたが、本気の一撃は受けきるには少しきつい。

 男は友輝へまっすぐ右の拳を突き出すが、友輝の剣に阻まれる。

 しかし、友輝も無事とはいかず、少しふらつく。


「隙あり!」


 男はその機会を逃さずがら空きの脇腹へ右の拳を突き出す。

 友輝は強引に剣を引き戻すと男の拳の進路をずらす。

 空振りしてバランスを崩した男の右腕へ剣を振り下ろす。

 すると男は左の腕で、友輝が剣を持つ両手を掴む。

 男は友輝を吊り下げると右の拳を突き出す。

 友輝は体をひねって振りほどくと剣の腹で拳を受ける。

 何度も拳と剣を打ち付け合い、ギリギリの応酬を繰り返すと業を煮やした男は、


「今のをいなすとはさすが勇者。では、儂も本気を出すとしよう。」


 そう言うと男は頭上の球体に手を入れると呪文を唱える。


「<血液変換(コンバージョン)>」


 男が手を抜くとその手には大きな斧が握られていた。

 球体が小さくなったのを見るに倒れていた人たちの血液を斧に変質させたのだろう。


「それではいくぞ!」


 男はまるでおもちゃのように軽々と斧を振り回した。

 男が斧を振り下ろすと、友輝は剣の原で受け止める。

 剣が折れそうなほどの衝撃を感じてなんとかはじき返すと、

 男はひるまず斧をたたきつけ続ける。

 友輝は同じように防いでいくが、その衝撃を殺しきることはできず、そばの建物の壁に追い詰められる。

 友輝の驚きで生まれた隙を逃さず男は斧を横になぎ払い、剣を弾き飛ばした

 男は友輝の首へ斧を突きつけると、友輝へ話しかける。


「抹殺対象の中で最も強いお前を始末できるとは僥倖。これからの任務が楽になりそうだ」


 友輝はそれに臆することなくニヤリと笑って言い放った。


「油断したな。此処で終わりだ!」

「は?お前は何を言って……」


 そう話す男の足元には魔法陣が浮かんでいた

 男が驚くと強烈な風が吹き、男は近くの段ボールの山に吹き飛ばされる。

 同時に男の頭上の球体ははじけ、血が飛び散った。


「<風撃発破(ストームブラスト)>。

 強い風を吹かす、この一点に特化した魔法だ。発動範囲が使用者の半径2メートルかつ、使用者の魔力の9割使うという難点はあるが、対象はほぼ確実に気絶する。正直大勢を相手する場合には使えないし、気絶しなかった場合のデメリットが大きすぎる。だが、出し惜しみして負けるよりはいい。立ち上がらない所を見ると気絶したみたいだな。あとは警察に……」

「隙を突いたと思ったらまさか自分が追い詰められるとはな……」


 友輝は安心して胸をなで下ろす。

 だが、大きな音が鳴ると男は段ボールを吹き飛ばして現れた。


「だが良いことを聞いた。もうお前には魔力が殆どない。他の手段を取らなかった以上、今のが最終手段なのだろう?だったら此処で仕留めさせてもらおう」


 男が友輝に襲いかかると、何者かが間に割って入り、指先で斧の刃を受け止めた。


「そこまでです」


 若い男の声が響く。


「準備もできていないのに交戦するとは感心しませんね、()()()



 そこには狐の面をかぶったスーツの男が立っていた。


「ぬ、ヌル様!ここでヤツらを始末できれば……」

「命令違反をするような子は『再教育』しなくてはなりませんねぇ」

「はい?な、何を言って……!」


 スーツの男ーーヌルは大柄な男ーーゼクスのそばへ移動すると蹴り飛ばした。

 ゼクスの上半身は砕け散ったが、不思議なことにその断面は茶色にくすみ、血が出ることはない。

 その残骸から1枚のメダルが飛び出し、スーツのヌルはそのメダルを掴む。

 ヌルは友輝を見ると思い出したように話し始める。


「おっと、『勇者』がいたんでしたね。命令違反したとはいえ、此処で始末できることはゼクスに感謝しなくてはなりません。では、<血液収集(コレクション)>」


 呪文を唱えた男が手を挙げると、そこに散らばっていた血液が集まっていく。


「<血液変換(コンバージョン)><性質変化(トランスフォーム)>」


 そうして生まれた刀は先ほどの斧より小さいにも関わらず、すべての血を使っておりそこから感じる存在感は先ほどの斧とは比べものにならない。


「<()()()()>だけでなく、<錬金魔法>を使えばこんなところでしょうか。」


 ヌルが無造作に刀を振ると防いだ友輝の剣が折れた。


「は?」


 友輝は驚愕した。

 この剣には破壊不可に近い耐久性と自己修復機能がある。

 ゼクスとの戦いによって剣が負ったダメージ僅かで、しかもほぼ回復していたにもかかわらず、一撃で折れてしまった。

 比較的痩身なヌルだが、その力は先ほどのゼクスとは比べ物にならないだろう。


「ほう、『勇者』様もなかなか弱い武器を使っていらっしゃいますね。私が作った程度の武器で折れるとは。ゼクス程度この武器でいいと思ったのでしょうが、その油断が命取りですよ」


 ヌルは友輝の首に刃を突きつけると、


「チェックメイト、です」


 その刀を振りかぶる。


「他の方々もすぐに送って差し上げるので、楽しみにしておいてください」


 その振り下ろした刃が友輝の首に達するその瞬間、






黒き波動(ショックウェーブ)


 凛とした声が響いた。

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