8. ひとりぐらし
カコ 2020年の女子高生、主人公
ナトコ 現地の少女
結局。
ナトコはイフヤさんの武器屋で、ボールペンくらいの長さのミサイルを数十本と、マシンガンの弾倉を一箱と、掌に収まるようなドローン式の機械銃を買って、炎を噴き出して空を飛ぶ機械の羽をメンテナンスに出した。
私はさっきの銃と盾と、服を安いお店で最低限だけ買って、MOD屋なるところで私のAIを戦いの支援もできるようにするMODを買って、雑貨屋さんで調味料を買って、スーパーで合成肉とか模擬野菜とかいう食べ物のパチモンを買って、私はめでたくローンを組むことになった。
つまり借金をした。
だって、銃めっちゃ高い。
借金ってすごい。
とってもダメ人間になった気分。
大人の階段を登った気分でもあるのがすっごく不思議。
一人暮らしの部屋への階段と一緒に大人の階段も登ったってワケね?
なるほどなるほど、やかましいわ!
ナトコと別れて、私は自分の家になった扉を開ける。
カチッ……
ガチャン
「おお!」
私の家になった扉を開けると、中は窓から光が差し込んでぼんやり青く染まっていた。
玄関の先にはトイレがあって、狭いキッチンには冷蔵庫と電子レンジとトースターにIHが備え付けである。
それからよくわからない縦長でモニター付きのレンジみたいなやつと、食器入りの……食洗機?
キッチンの先のお風呂を抜けて、突き当たりのドアを開ける。
「おっ、おー!」
ベッドに、机に、大きいクローゼット、それからでっかいテレビ!!
デザインはシンプルで、丁寧な暮らしって感じ。
これ全部備え付けで、私のなんだ!
お母さんとチャンネル争いしなくていいじゃん!
一人暮らしサイコー!
テンションガチ上げだし!!
ベッドに飛び乗ると、ボフンって布団に沈む。
たっのしいなあ!
「そうだそうだ、忘れてた」
支援AIを起動しないといけないんだった。
市役所のアカツキさんにもらった支援AIは、起動する前からMOD屋で戦闘処理アプリを入れてある。
他にも欲しいアプリを入れて、私が必要な機能を足して行って使うんだとか。
……アプリじゃなくて MODって言うんだっけか。
タブレットは簡単に部屋のネットに繋がった。
支援AIを選んで、ホームコンピュータと同期するを選んで、起動!
[はじめまして 私は生活支援AIです 貴方の名前は 今浜 華子 でよろしいですか?]
いつもの電子音で逆に安心する。
スマホっぽいなこれ。
「はい」
[今浜 華子 をオーナーとして登録いたします ……………… 登録いたしました]
[ホームコンピュータとリンクしました]
[アナライズシールドと同期できます 同期しますか?]
アナライズシールドって多分、今日買ってきたレーダー付きの透明な盾だよね?
これ同期させたらAIがレーダーを管理してくれるのかな?
そうなら楽だし、お願いしとこ!
「同期して!」
[同期しています ………… 同期いたしました]
[アナライズシールドへの私の投影が可能になりました 現在のアバターは光点です 変更なさいますか?]
「変更します。候補は何があるの?」
[表示いたします]
モニターにいろんなキャラが並ぶ。
男の子に女の子、この光の球がデフォルトのやつかな?
あとは犬とネコとリスと……
「あっひつじ! 羊にして!」
ふわふわで可愛いから!
一回でいいからひつじのふわふわにダイブしてみたいし!
[これ以降 当機のパーソナルアバターは ふわふわひつじ になります 当機の名称を設定いたしますか?]
「する! ちょっと待って、羊でAIだから……ひーちゃん……えっちゃん……わたあめ……ドリー。うん、名前はドリーで設定します」
[承知しました 名称をドリーで設定いたします]
モニターにもふもふ2割増しって感じの可愛いひつじが表示される。
そこから吹き出しが出て、声と連動したセリフが書かれていく。
[部屋の設定ができます 窓へ時間に合わせたテクスチャを投影しますか?]
「投影して。景色は何があんの?」
[街中の景色 森林の景色 荒野の景色 海中の景色の 4つの中からお選びください]
「荒野の景色!」
[はい 荒野の景色 を投影いたします]
それまで中空を移していた窓ガラスに、暗くて荒れてて、赤い土ばかり広がる映像が映った。
これかなり惑星っぽくない?
うんうん、我ながら正解!
[現在時刻は 午後8時です 夕食はお済みですか?]
「まだ食べてない。……思い出したらお腹空いてきたぁ」
[夕食の摂取を推奨いたします 自動調理器は現在ロックされています 一品の加工につき300円がかかりますが 利用しますか?]
「自動調理器? 何が作れるの?」
[買い物記録を読み込んでいます ………… 現在、以下の調理が可能です]
モニターにいくつかメニューが映る。
あっ、肉じゃが!
「肉じゃが食べたい!」
[300円です 利用なさいますか?]
「利用します」
あの、一つだけ見たことなかった縦長の機械が自動調理器だった。
買ってきた合成肉と模擬野菜各種をセットする。
肉じゃがを自動調理器が作っている間に、レトルトの合成米をレンチンして、味噌汁を作る。
具は油揚げと玉ねぎで、煮えたら出汁入りの味噌を入れるだけの簡単料理だけど、自分だけでご飯を用意することなんてなかったからすごく新鮮。
電子音がして、自動調理器のドアが開いた。
出汁と醤油とお肉のいい匂い!
飲み物は……さっき買ったお茶にしよ。
一人分のご飯を机に並べる。
ちょっと違和感。
「いただきます」
もぐ もぐ もぐ
もぐ もぐ もぐ
もぐ もぐ もぐ もぐ
ごくん。
…………。
味は、正直こんなものかなって感じ。
美味しいことは間違いないんだけど、味気ない。
別に料理上手だったってわけじゃないけど、お母さんのご飯の方が美味しい。
コンビニのお弁当って感じ。
うーん、これを毎日かぁ……ナトコがご飯適当になる気持ちわかるかも。
食器は食洗機に入れておけばドリーが洗ってくれるっていうから、お風呂に入る。
小さな湯船とシャワーの、ちょっと狭い浴室。
お風呂からあがって髪を乾かして、一人で布団に潜り込む。
静かで誰もいない部屋は、無性に寂しい。
なんの音もしなくて、静かすぎて逆に落ち着けない。
…………
早く寝ちゃって、明日も頑張らないとなあ。
次回投稿は6/5予定です。
投稿遅れてすみません、全部残業ってやつが悪いんや……。




