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7. ぶきや

主な登場人物


カコ  主人公、2020年代のJK

ナトコ バーニヤで飛ぶ羽を持つ少女

 ざぁざぁと雨が降っている。

空から落ちた雨粒はオレンジのエネルギーバリアに当たっては波紋を次々に作るので、無秩序に輪が踊ってはかき消されていく。

雨の日に水中から見上げた景色みたいだけど、バリアに覆われた空は一見オレンジ一色で、まさに夕暮れ。


「ねえナトコ、バリアなんでオレンジなの?」


「知らね。でも夜時間になると青くなるぜ」


「青の方が昼っぽくない?」


「オレンジのが昼っぽいだろ。んなことより前向け、転んでも知らねえぞ」


「あーい」


 ナトコがこの夕焼け空を昼間だって言うのは、慣れってやつに違いない。

私は青空の下で生きてきたのと同じに、ナトコはオレンジのバリアの下で生きてきたんだから。


 道には背の低い木造の建物が並んでいる。

大通りの建物はみんな、通りに向かって大きく口を開いていて、外から見える傾斜のある台へ溢れんばかりに商品を載せている。

車道は黒いアスファルトで、歩道にはカラフルで小さなタイルを敷き詰めてある。

エネルギーバリアを貼るために上空へ向かって何本も細い灰色の棒が突き出していて、電柱みたい。


 少し歩いただけなのに、むわっとくるほど蒸し暑い。

気温もそこそこ高いから、じんわり汗をかいてしまう。


 大通りに面したアーケードの一つへ潜ると、両脇にたくさん平屋の店が並んでいる。

一つもシャッターなんて降りてない。

お店を覗きながら歩く人達は、とても髪色がカラフルで、見たことない形だったり見慣れた形だったりする服を着ていて、楽しそうに歩いてる。


 一度も見たことのないはずなのに、すごく懐かしい。

小さい頃にこんな商店街を、お母さんと手を繋がれて歩いたなあ。

今はシャッター通りだけどあそこ。


「まずは武器屋ー!」


 ナトコがふっふーんなんて歌いながら、ショーウィンドウにたくさん銃の飾られた店に入っていく。

これ本物なワケ?


「おーい、客だぜ親父ー!」


「だァれが親父か」


店の奥から顔を出したのは、見るからにサイボーグでロボットな感じの男だった。

サラリーマンくらいの歳かな?

右目が青く光ってるのが最高にサイボーグって感じ。


「親父、こいつカコっていう生まれたての奴」


「えっと、よろしくお願いします?」


「おう、よろしくな嬢ちゃん。俺はイフヤだ」


「こいつ、何の改造も、電脳すら入れてねえんだけど、ある程度自衛出来るモン見繕ってくれよ。一緒に遺跡潜る事にしたから」


「はぁ!? 未改造ぉ!? ナトコ、お前のツレがぁ!?」


 イフヤさんがものすごく驚いてる。

そこそんな驚くところじゃなくない?


「おう、未改装に未建造で未改修だ。タイムスリップしてここに来ちまった奴でさ、遺跡からタイムマシン見つけて帰るまでだから」


「そりゃ随分な夢物語を……魔法のランプ探すようなもんだぜそりゃ」


 イフヤさんはそう言って首をゴキンと鳴らした。

タイムマシンは魔法のランプレベルに存在を疑うし、手に入れられないものって言ってるみたい。


「でも私はタイムスリップしてきたんです! だから絶対どこかにあるはず!」


 未来に来れるんだから、過去に戻れない訳がないんだから。

絶対、帰るんだから!

だから夢物語じゃ困る!


「あー、悪かったな。まあ何かしら見繕ってやるよ。電脳入れてねえならアシストシステムはねえんだよな?」


「生活支援の外部AIしかねえな」


「んじゃ狙いは甘くていいやつで……不慣れなら動きまわんねえ方がいいか?」


 私抜きでナトコとイフヤさんの間で話が進んでいく。

いやまあ、銃とかわかんないしいいんだけど。

タイムマシンだって、ないって言われた訳じゃないし!

だから全然気にしてないし!


「この辺がいいな」


 ナトコと二人で、イフヤさんが持ってきた銃を見る。

腕の長さより少し短いくらいの、大型の銃だ。

なんか、鉄砲!って感じの銃で、戦争ゲームでよく見る感じのやつ。


 ……これを私が使うんだよね?


「大きくないですか?」


「確かにちょいと大きいわな。こいつはいわゆるアサルトライフルってやつで、エネルギー弾が基本だが実弾も撃てる。ちいとばかしコスパは悪いが、反動がねえし弾切れに強い。デカめだが初心者向けだと思うぜ」


「拳銃とかじゃなくて?」


「拳銃はたしかに持ちやすいがそれだけたぞ。反動はでけえし弾切れも早い。初心者向きとは思わねえな。そういうのはナトコにやらせときな」


「遺跡で拳銃使うならガンカタ覚えねえとな! カコはアサルトで慣れたらな」


「ふうん?」


 ナトコとイフヤさんは分かり合っていて、微妙に疎外感。

頑張って銃練習しようかな。


「それからこいつも持ってけ」


 イフヤさんが銃の隣に置いたのは、ゆるくカーブしたプラスチックの板。

丸まってる側に小さな機械とか銅線みたいなのがくっついてる。


「これ、透明な盾?」


「そう。こいつは二の腕あたりにつけて使うもんだ。それに隠れながら進めば多少はビビらずに済むと思うぜ。レーダーも付いてるから、上手く使いな」


「うまく……使う」


 やっぱり、練習しなきゃだ。

盾も銃も使った事なんかないもん。


「さっすがおっちゃん! で俺のは?」


「お前のはここだ」


「ひゃっほう! 俺の可愛い小型ミサイルちゃん! 弾切れで足の火力が落ちててさあ!」


 ボールペンサイズのロケットが入った箱を高く持ち上げて、ナトコがくるくる回る。


 楽しそうなとこ悪いけど。


「ミサイルは可愛くないと思う!!」


 ナトコ流石に無理があるでしょ!!

次回更新は22日です。



おしまい惑星を描くために集めた資料を紹介していくのってどこかに需要ありますかね?

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