5. マザー・ブレイン
主な登場人物
カコ 現代のJK、主人公
ナトコ 現地人もしくは未来人
室内に入れていた軽トラに、私にはガラクタにしか見えない壊れた機械を積み込む。
トラックの形は私が知ってるものと大差なくて、違いといえばタイヤが太くてゴツいくらい。
ガラクタの中には私じゃどう頑張っても持ち上がらない重くて大きいのもあるんだけど、ナトコはなんでもないように持ち上げる。
力持ちとかいう話じゃ収まらなくような気がするんだけど、どういうことなの?
ナトコは最後に銃と機械の羽を荷台の隅に置いて、ぐっと背伸びをした。
「っしゃ終わった」
「これどうするの?」
「町で納品すんの、俺の仕事教えたろ?」
「あー……こんな感じなんだ」
「おう。もう出るから乗りな」
「うん」
ナトコは運転席、私は助手席に乗り込んだ。
車内はほとんど見慣れた感じだけど、ものすごい違和感がある。
座席は普通だし、ボンネットもあるし……あっ左手でガチャガチャする棒がない。
それにナトコ側のボンネットが随分スッキリしてて……
「ハンドルないんだけど!?」
「ハンドル?」
「そう! ハンドル! ハンドルないのにどうやって運転すんのよ車」
「うんてん……?」
ナトコが何言ってんだこいつって顔をしてるけど、その顔したいのは私の方なんだけど!?
「え? まさかとは思うけど、ナトコ車動かせないとかそういう……?」
つまりこの車は寝るために潜り込んだだけ……?
「ああ! 俺が動かす訳じゃねえから別にいいんだよ、見てな」
ナトコは自信満々にボンネットにある窪みに手を入れた。
フロントガラスの右から左に光の筋が走って、何か数字……多分時計と日付かな? が表示された。
あとカーナビっぽいやつ。
そこにスイッチがあるってこと?
「ただいま、マザー・ブレイン」
フロントガラスに光の波が走る。
〈おかえりなさい、ナトコ。登録より4日も早いですが、怪我はありませんか?〉
「車がしゃべった!」
しかもとっても人っぽい! 多分目が覚めたときに聞いた合成アナウンサーと同じだと思うんだけど、この声は完全に人じゃん!
〈あら、利用登録外の子がいるようですね?〉
「おう。こいつはカコってんだ、この遺跡で拾った」
〈船のセフィロトが生きていたのでしょう。カコ、簡易登録をしますので、生体認識をしてください〉
「ここに手ぇ入れな」
さっきナトコが手を入れてたボンネットの凹みを指差される。
ちょっと怖い。
真実の口に手を入れる時とかってこんな感じなのかな?
おそるおそる手を入れて……。
何も起こらない。
え?これほんとにこれで合ってるの?
〈登録しました。離して構いませんよ〉
何が起きたかさっぱりわかんない。
何これ? 指紋認証とか、そんなのってわけ?
〈宇宙船ソウヤ生まれとして嵐の星に住民登録しました〉
フロントガラスの波紋が喋る。
〈私は惑星統括AI マザー・ブレインです。よろしくお願いします、今浜華子。どうか健やかに日々を過ごしてくださいね?〉
「あっ、ハイ……」
よくわかんないけど、登録されたんだって……。
なるほど、こいつが未来技術ってわけなのね?
何一つわかんないけど。
「マザー・ブレイン? はこの車に付いてるAIなの?」
〈いいえ、華子。私の本体は星都ゆうだちキャピタルの中心サーバーにあります。ここにいる私は、中心サーバーから制御していますので……クラウド上から制御していると思ってください〉
なるほど?
よくわかんない。
「わかんないけど、IOT的な感じ?」
某アレクサとかその辺の。
〈その進化系だと思ってくれて間違いありませんよ〉
〈さて、しののめシティまで約2時間の走行です。ナトコ、華子、到着までゆっくりくつろいでいてください〉
マザー・ブレインの運転で、私達は楽々街を目指す。
マザー・ブレインは人間の生活に必要だけど面倒な事を一手に引き受けてくれるAIらしくて、運転だけじゃなくて、工場生産とか洗濯とか掃除とか道路や家の整備とか、そういう事を全部やってくれるらしい。
だから今はやりたい事だけしてても全然生活できるんだってナトコが言ってた。
そうそう、こういうの未来に求めてたやつ!
遺跡の外は一面熱帯雨林って感じで、トラックはそこをガタガタ走る。
根っこなんかにつまずくことが多いから、車体が揺れなくするのは無理だとか。
木の葉はほとんどが紅葉してて、赤とか黄色。
地面に生えてる草も似たような色だから、おとぎ話の世界みたいでなんか可愛い。
ガサゴソ……
ガザ……
「カコ、食う?」
「食べる、ありがとナトコ」
何か漁る音がすると思ったら。
そりゃナトコは地元だから見慣れてて興味ないよね。
でも何だろこれ、カロリーバー的な?
長方形の塊で、焼き菓子っぽい見た目で、色は白。
ナトコはそのままかじってるから、そのまま食べるやつなのかな。
何味だろ。
もしょ もしょ もしょ
…………ごくり。
かじると簡単に崩れて、口の中で荒い粒になって唾液を吸ってくる。
味はない。
ただザラザラした食感だけが口の中に残って……しかもだんだんネバネバしてきて歯にくっつく。
少し味がする気がするけど、これ絶対唾液の味だよね……。
うん。
「まっっっずい!!」
「えっ、そんなにか!?」
「不味いよナトコ! これ不味い! もしょもしょして口の中に残るし! 味ないし! 水の方がまだ味あるよコレ!! 虚無味の固めた砂食べてる気分だよコレ!!」
「虚無味の砂!? そりゃ味はないけどそこまで言うことないだろカコ!?」
「いやコレは虚無よ! 虚無味の虚無!」
「虚無味の虚無!?」
〈ナトコ、貴方は何を食べているのですか?〉
「えっマザーまで? ただの基本食料だぜ!? 食研のやつ」
こんな虚無が基本のご飯!?
未来じゃご飯のかわりに虚無を食べてるの!?
〈車内をスキャニングします。……確かに食品研究所の基本食料ですね。一食分の必要栄養素と8割のカロリーがこれ1つで補える優れものではあります〉
「こんなのが、未来のご飯だなんて……」
いくら栄養があろうとマルチビタミンだろうと、虚無は虚無じゃん!
あっりえないんですけど!?
〈その認識は私と現在に対する侮蔑です、華子。これは本来、様々な味をつけ加工して食べるものです。こんなものが食事であると私は認識しません。間違っています。もっと美味しいものを用意しています〉
「だってこれが一番安いじゃねえかよぉ……そのまま食えば楽だし、早いし、やっぱ安いし」
〈もっと文化的な食生活をしてください、ナトコ〉
ナトコは武器の修理のローンがとかぼやいてるけど、早い安い旨いチェーンはもっとずっと美味しいから!
虚無は認めない!!
「決めた。私ナトコにまともなご飯ってもんを食べさせたげる。私だって料理が得意ってほどじゃないけど、虚無を食べてるナトコよりは絶対うまくできるよ!」
〈その意気ですよ華子、ナトコに文化的な食事をさせてください!〉
「任せて、マザー・ブレイン!」
次回更新は明後日5/8となります。
次回でストックが底をつきますので、今後更新頻度が下がります、ご了承ください。
以下私信です。
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