表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/10

3. ここ

主な登場人物

カコ  2020年のjk、主人公

ナトコ 機械の羽を背負った赤い草の髪の少女

ナトコが私を抱えて飛んで、山ほど階段と崩落跡の穴を抜けた先でキャンプに着いた。

そこそこに広くて家具っぽいものが転がってる。

昔は何かに使われていた部屋だったのだと思う。

でも今はただの廃墟だ。

扉の無くなった入り口から見える外は夕方で、青っぽい光がぼんやり差し込んでる。

それにごうごう風と雨が吹き付けてくる。


 着替えを借りた私と服の持ち主のナトコは、床に作った焚火を二人で囲んだ。

ナトコの銃と機械の羽は外して隅に置かれて、供はあつーい白湯。


 ……この服、Tシャツとズボンをとりあえずあった生地で作りましたって感じで可愛くない。

貸してくれたナトコには言えないけど。


「つまり、こうだ。カコ、あんたは自分が誰かはわかるけど、どうして此処にいるのかまったくわからない」


「うん、そう。まさに完全にソレなの。私ってば気がついたらぷかぷか筒の中に浮いてたワケ」


 何度思い返しても初めっから意味不明。


「んんー、筒の中に水? が入ってて、そん中に人がいるってなると医療ポットとかセフィロトとかくらいしか思いつかねえなあ」


「医療ポット? セフィロト? 何それ」


 ナトコってば、私があんまりに意味不明な感じで現れたからって、ゲームか漫画の話してる?


「ん? 知らないのか? 確かに医療ポットはもうほとんど使えるやつ残ってねえけど、セフィロトはどんなとこにもあるだろ? ましてやこいつァ移民船だぞ、セフィロトがなきゃどうやって人が生まれんだよ」


「ええ……」


 そもそも、セフィロトって何。

移民船と医療ポットはまあ、なんとなくわかる。

あれでしょ、移民船って新しい住むところ目指して行くやつ。

そんで医療ポットは多分、入ったらHP回復できるやつよね?

この令和の時代に移民船とかどこ目指すのって感じだし、医療ポットなんてそんなの開発されてたら寝たきりだって怖くないじゃん。

完全にファンタジーじゃん。

じゃんじゃんじゃん。


「そんな未来ものの映画か何かに出てくるようなものさぁ。そもそもセフィロトって何よ、この世界では人は木の実の中にできますとか、そういう感じ?」


 なんかそんな設定のアニメを昔見たことがあったような、なかったような。

完全にファンタジーだけど。


「確かに木っぽい形はしてるし、木の実っていやぁ人工子宮も木の実っぽく見えないでもないけどなぁ。もの好きな奴は自分の腹で育てるらしいけど、産むのって痛いんだろ? そういうのは痛みのねえAIに任せとくに限るってもんだ」


うんうん、とナトコが頷く。


 言ってる事はわかる。でもわかんない。

それってつまり、試験管ベビーとかそんな感じ?

そんなの、だって、映画の中のものじゃん?


 私が全然納得できないのをわかったのか、ナトコがだんだん真面目な顔になっていく。

そう、私は真面目にわからないんだ。


「カコ、お前生まれは何年だ」


「2005年だけど……?」


「そっか、わかった。いや、わかんねえことが増えたけど、俺たちの話が噛み合わねえ原因はわかった」


 クールダウン、クールダウンとか言いながら、ナトコがマグカップの中身を飲む。

それにつられた私の口に入ってきたのは、当然温くなった白湯。

インスタントのお茶くらい使えば良いのに。

いや今全然関係ないんだけど、ナトコの話がどうにも頭に入ってこないから、つい別のことを考えちゃう。


「よく聞けよ、嘘なんて言ってないし、言わない。あのさ、あのな、今は、34世紀だ」


 なんて?


 今は21世紀だ。

ようやく21世紀ちゃんも地に足がつき出した2020年。

私が昨日まで普通に生きてた場所は2020年。

それは絶対間違いない。


 ナトコは冗談が上手い。

そう言おうと思ったけど、焚火に照らされたナトコは、確かに、私の知らないタイプの人だ。

青い目とか、真っ赤で葉っぱが茂った形をした髪の毛とか。


 外人さんの顔じゃないのに。

近所にいてもおかしくないボーイッシュな女の子の顔に、真っ赤な葉っぱと青い目がついてる。


「カコ、よく聞け。多分お前は、時間旅行をしたんだ」


 時間旅行。

タイムスリップ。

陳腐なお話の設定みたい。


「これは300年くらい前の移民船……宇宙移民船の中でも、科学的なことを受け持ってた船の一つなんだと思う。今はもう技術者がいなくなっちまって、技術も廃れていろんな事ができなくなってるけど、昔この星に来た頃の人間は凄かったらしい。砂漠の星とか、氷だけの星も人間が住めるように改造したりできたんだ。その頃に作られた船だから、時間旅行の装置とかもあったかもしれない」


 口が乾く。白湯。

それってだって、そんなまさか。


「私がタイムスリップして、未来に来ちゃったって、そういう事?」


「そうかもしれない」


 すごい、私マンガの主人公みたい。

びっくりするほど嬉しくない。


「信じたか?」


「微妙、信じたくない」


「そんなこと言ってもな」


 ナトコが髪をもしゃもしゃかき回す。

赤いけど、稲の葉みたいな髪の毛。

気になる。


「俺の髪は草みたいな見た目してるだろ? これは昔昔に太陽系外惑星の開発すんぞってなった時に、作業する奴が食う飯の量を減らすためにこんな風に遺伝子改変したんだと。ちょびっとだけど、これで光合成できるんだ」


「こーごーせー」


「そ、光合成。これとか証拠にならねえ?」


 言ってることが無茶苦茶だ。

無茶苦茶だけど、私は何故だか信じる方に傾いてる。


 だって、今日は最初からおかしかった。

朝起きたのは水の中だし、ライブラリーとかいう電子音が居たし、変な機械に襲われたし。

おまけに私がいたのは300年前の宇宙船の中だって言うんだから、もうめちゃくちゃ。

それなら、タイムスリップだって起きてもおかしくないって思っちゃう。


「思い出した。カコ、此処があんたの生まれた地球じゃないって証明、一つだけあるぜ。千年前生まれって事は地球生まれなんだよな」


「え? 何……?」


「外見てみな」


 ナトコが指差した出入り口を見る。

外は相変わらず夕暮れで、土砂降りの大雨だ。


 まだ、外は夕方だ。


 私とナトコは多分、結構長く話してたと思う。

なのに日が暮れてない。

今にも日が暮れそうな薄い青紫の時間が、ずっと続いてる。

雨は降り続いてるから、時間が止まったとかじゃない……と思う。


 こんなの、おかしい。


「この星は、地球と違って昼と夜が場所で固定されてるんだ」


 ところで夜が来るってどんな感じ? 

ナトコの質問に、私は答える余裕なんてなかった。

次回投稿は明日5/5です


よろしければブックマーク、評価お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ