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2. 少女

登場人物

カコ 2020年のJK、主人公

?? ?????

 なんて大見えきって、部屋を出てきた私ですが。


「おうち帰りたい……」


 いやね、廊下に出て片っ端からドアを開けてみたんだけどね。

半分は全然開かなくて、残りの半分のうち4分の3は真っ暗で、後の3部屋くらいは地獄だった。

部屋自体は私が居た部屋と同じ機械と水槽が置いてある部屋だったんだけど、水槽の中身が。


 一つは濁って酷い匂いがした。

もう一つは割れて中身が乾燥して、底に白いものが溜まってた。

最後の一つはやっぱり濁ってて、人の骨がぷかぷか浮いてた。


 何なの、何なの、ありえない!

あのアナウンスは未来にようこそって言ったじゃん!

未来ってもっとキラキラしてて、ワクワクして、すごく良いもののはずじゃん!!


「なのになんで、私は未来でマッパで白骨死体なんて見なきゃなんないのよぉ……」


 うちに帰りたいってのよ、もう、もう、もー!!

ここがどこかもほんとに未来かもわかんないんだけどー!!


「はぁ……まあ言っても仕方ない……」


 そして今私の目の前には階段がある。

ここは一番下の階なのか、上に登る階段だけだ。

廊下を見てきた感じだと、きっとこの建物の人はみんな死んでしまっているんじゃないだろうか。

だから、誰かに見つかってしまう危険は少ないはず。

たとえ誰かに見つかったとしても、初めからここに居たんだから叱られる事はないと思う。


 胸の奥まで息を吸い込む。

……カビ臭い。


「行くしか、ない!」


 えいやと踏み出した足は階段の板にしっかりと支えられて、私を上に連れて行く。

踊り場を抜けて、次の階まで。

階段一つ登るのだって、今の私には大冒険だ。

……ほんと、信じたくなーい!!




 階段を登り切って、私は二階に到着した。

相変わらず赤いぼんやりした光で照らされた廊下だけど、一階と違って掃除されているみたいで、あんなにあった埃は隅にしかない。

私が歩くたびにペタペタと足跡がついていく。

普段なら絶対怒られる事をするのはちょっと楽しい。


 一つ目のドアに手をかける。

ぐぬぬ、多分引き戸なんだけど、手をかける場所がない。

これ、自動ドアだ!絶対そうだ!!

さっき電源がなんたらって言ってたし、停電してたらそりゃ開かないよ……。


 でも私は絶対服を手に入れなくちゃいけないんだから、止まってられない。

素っ裸でこれ以上うろつくのは嫌!

ギブミー服!

服を! ください!!


うゔ、早く裸を卒業したい……。



 ペタペタ廊下を歩く。

開けられる扉は見つからない。

なんだか裸で恥ずかしいってのも気にならなくなってきてしまった。

だって、私以外誰もいないし。


 誰かに見られたら私は裸のJKだけど、見られない限りは裸かどうかわからないJK。

そして普通のJKは裸で出歩かない。

つまり私が裸のJKだってバレる可能性はとっても低いってわけ。

我ながら勘弁な理論じゃない?



 まだまだ廊下を歩く。

ちょっと先にT字路があるみたい。

まっすぐ行くべきか曲がるべきかそれが問題だ、なんて考えながら歩いていたのが悪かったのだろう。

小さな機械と鉢合わせた。


 それは円筒形で、私の膝くらいの高さの機械だ。

塗装が少しだけ残っている。

足のところにはモップ見たいのが付いている。

この階の掃除をしているのはこのロボットだったんだろう。


 ロボットから出た光が私を調べるように包む。


《ジジ……ジ……ジ、ショウゴウ シュウリョウ。ガイトウ ナシ。フホウ シンニュウシャノ ハイジョヲ カイシ》


ガショガショ……ガシャコン! 


関節のついた長い棒が出てきた。


 ふほう しんにゅうしゃ。

……不法侵入者。

私、不法侵入者!?


《ハイジョ シマス》


「う、ぅあ、あ、あぁ……」


 棒が私に向かってくる。

……逃げなきゃ!!


逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ

逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ

逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ

逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ

逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ


走った。


周りなんて見てない。

とにかく走った。


ヤダ、こんな変なとこで死にたくない。

足を前に出す。手を振る。

一人で死ぬのはイヤ。


足が痛くても前に行かなきゃ。

知らないとこでミイラになりたくない。

喉が痛くなってきた。

死んで腐りたくない。

肺だって痛い。

一階の人たちみたいになりたくない。

口の中が血の味がする。



死にたくない!!



ずるり


「ぎぁ……」


ベシャっ


 足をくじいたんだと思う。

私は体ごと床に倒れ込んでしまった。

膝やら肘やらぶつけたところが痛い。


 きゅりきゅり金属の擦れる音がする。


 振り返ってしまった。

掃除ロボはすぐそこにいて、私に向けて棍棒を振り下ろそうとしてる。


「ヒッ! や、やだ……」

 こんなわけわかんない場所で、わけわかんない格好で死にたくない。

ヤダヤダ、誰か助けて!!


 棍棒を構えた掃除ロボは、もう目の前だ。


 ヤダ、死にたくない。

「だれか、たすけて……」


 ガタガタ体が震える。

走って逃げなきゃ? ……できない。

立ち上がらなきゃ? ……できない。

後退りしなきゃ? ……できない。

目を開けなきゃ? ……無理だよ!


 私には無理だよ、ただの高校生だよ!

映画の主人公みたいに逃げたり戦ったりなんてできない!!

生きてなんて、そんなのもう無理だ!!



怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い


シュパ

  アァ

   ァァァ……


       ガァンッーーー!!!!


大きな金属が吹っ飛んだみたいな音がした。


「おぉーぅい! もう大丈夫だぞー!!」


 瞑った目蓋の暗闇の向こうから、ちょっとがさつそうな女の子の声がした。

友達の奈々に似た声。



カツン……


  カツン……


 カツン……



体はどこも痛くない。

手、ある。

足、ある。

そっと目を開けてみた。


「なあ、聞いてる?」


 女の子が私を覗き込んでいた。

青い透き通った目と、ふさふさの葉っぱみたいな赤い髪の毛。

背中には羽みたいな機械を背負っていて、腰に映画でしかみないような機関銃を下げている。

服はちょっとボロっとしてて、大きなリュックを背負っていた。


「助けて、くれたの?」


「おう。怪我はないか?」


「転んだ時に、ぶつけたくらい」


「そんなら大丈夫だな。あんた、服は?」


「服は、えと、探したんだけど見つからなくって」


 私、まだ素っ裸だ!

急に恥ずかしくなって、なんとか手で隠そうとするのに、この、なかなか難しいというか……。


 私がそうしてモゾモゾしていたら、女の子か何かを差し出してくれた。

もしかして、もしかしてこれってーー


「マントで悪いけど着てろよ、裸は嫌だろ?」


「ありがとー!!」


 服じゃなくてマントでしたかー!

裸から卒業できたのは嬉しいけど、裸マントって逆にエロいんじゃなーい!?


「俺はナトコ=トトリってんだ。あんたは?」


「私は華子。今浜華子っていうの」


「カコが名前か?」


「うん。華子って呼んで。私もナトコって呼んでいい?」


「おう、いいぜ!」


 ナトコは男の子みたいに私に笑い返してくれた。

なんか、ちょっと安心する。

それから、私がきた方をじっと睨んでいる。


「もうちっと下まで行きたかったんだが……あんたその格好で彷徨かせんのもなあ」


うん、何せ裸マントなので。

絶対イヤ。

パンツください。


それにしても、下かあ。


「私、その下の階から来たよ。楽しいものとか何もないけど、何があるか話せる」


「お前下から来たのか!?」


「う、うん……まあ」


 そんなに食いつくような事は無いと思うけどなあ……。

ナトコ、ホラーとか好きなのかな?


「そうか、うん、そんじゃ俺のキャンプに行こう。それで良いか?」


キャンプ!

つまりテントとか着替えとかご飯とか、あとやっぱり着替えとかあるって事だよね!!


「うん、良い。よろしく、ナトコ」


「おう、守ってやるから任しときな、カコ」


「ありがとう。あとパンツ貸してください」


「うん、切実だな!」


そう、切実なの!!

次話の投稿は明日5/4です



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