7 同好会結成
「ねぇねぇ。まだ昼休み残ってるけどどうするの?」
「んあ。そうだな……寝るか?」
「気持ちのいい陽気ですからね」
俊樹は自分の腕を枕に睡眠に徹する構えをとり、ニコニコしている寒奈さんが見守っている。
いつもの昼休みは、ご飯を食べながら適当な話題で盛り上がっているうちに終わるのでこんなのんびりするのは珍しい。
俊樹が積極的に話に加わらないから、盛り上がりが欠けてしまった。
寒奈さんが悪いのではないけど、食べるのに集中出来るタイミングが多かったのは事実だ。
「うーん。僕も、寝ようかなぁ」
欠伸を噛み殺す。
教室で堂々と眠っている如月杏さんを思えば、今眠るのは悪いことではないはずだ。
一応、自由な時間だしね。
「あっ待ってください」
「んにゃ?」
「お話があるんです」
「お話~?」
意識の半分が眠りかけていた。
ふわふわとする視界で寒奈さんを見つめれば、困ったように斜め下を向く。
「同好会を作りませんか?」
「いいよー」
こくりこくりと船を漕ぎながら適当に答える。
「本当に、いいんですか?」
少し嬉しそうな声音を聞きながら、こくんと頷いて瞳を閉じる。
もう、眠いよぉ。
「俊樹くんも含めて三人。超常現象同好会を作りましょう。部室もそれの資料が豊富ですし」
「俺もかよ!?」
「んにゃ?」
ガバッと起き上がる気配を感じて、重い瞼を持ち上げる。
困惑した様子の俊樹が寒奈さんを襲っていた。
仲がいいんだなぁと感想を抱いて。腕を枕に本格的な睡眠に入る。
お休みなさい。
「お前は寝るな!!」
「なんだよぉ」
寒奈さんに詰め寄っていたはずなのに肩を揺すられる。
僕は無関係のはずなのに、どうして関係者に入れたがるのだろうか。困るなぁ。眠いのに。
「ふぁぁぁぁ」
「その大口に指入れるぞ」
「もぐもぐするからいいよー」
ドンとこいと口を開いたのに指は入ってこなかった。
残念である。
「んで、俺もなのか?」
「必要なことですよ。あの子のためです」
「いや、それは分かるけど……部活は」
「わたくしたちの部活なら、帰宅も自由ですよ。同好会ですし、適当な資料をまとめて提出すれば、活動記録にはなるでしょう」
「いや、言いたいことは分かるんだよ。でも、なぁ」
二人の会話に着いていけない。
ふらふらと頭を上下させながら寝ないように踏ん張るので精一杯だ。
何の話をしていることやら。
「あねじゃ、おるかの?」
舌足らずの幼げな声と共にガラリと扉が開かれる。
そこに居た女子生徒と目が合う。ドクンと高鳴る心臓が、誰なのかを教えてくれる。
「杏様!!」
「マジかよ」
「杏、様?」
敬うような呼び方に首を傾げる、
眠気が一気に吹き飛び、背を向ける杏さんへと掴みかかる。
「はなせ。はなすのじゃ」
「話せばいいのー?」
「そうじゃ。はなすのじゃ」
「じゃあ、中に行こうねぇ」
小柄な杏さんを抱き上げ、教室内に連れ込んでから扉を閉めて、鍵をする。
ガチャンと無情な音が響いた。
「なぜじゃ! なぜはなさぬ」
「今から話すんだよ?」
「とし。あねじゃ。こやつにことばかつうじぬ!!」
助けを求めるように伸ばされた手。
しかし、どちらもその手を掴まずに下を向いている。
これは、僕が自由にしてもいいってことなのかな?
酷く怯えているようだけど、何かした記憶は無いんだよなぁ。なんでこんなに震えてるんだろう。
可愛いなぁ。
「可愛い。可愛い」
「きけんなのじゃ。たすけてなのじゃ」
「ああ。とりあえず大地。ステイ」
「えー待てないよー」
「そっと、離してあげてください。お願いです。逃げることはしませんので」
「そお?」
仕方なく。二人に向かってリリースする。
せっかく捕獲したのに残念だなぁ。
「普通さ。女の子相手に平然と抱き上げるか?」
「捕ったぞ~したかったんだもん」
「恋する相手にする行動じゃねぇだろ!!」
パカンと頭が叩かれる。
ちょっと痛い。
行動がおかしかっただろうか?
当然の行動をとったはずなのにおかしいなぁ。
「大丈夫ですか。杏様」
「こわいのじゃ。あやつがこわいのじゃ」
「あれー僕って怯えられてる?」
「いきなり珍妙な行動されたらそうなるだろ」
おかしなことを言いながらため息をつかれるけど、あれは僕のデフォルトのはずである。
なぜなら。
「でもさ。りっちゃんの時は上手くいったよ?」
「理摩もわりと怯えてたからな。見えてなかったと思うが涙目だったからな。記憶の改竄は止めろ」
「んっ?」
そうだっただろうか?
他人と仲良くなるには一歩前へと体を出すのか当然だと思っている。寒奈さんにだってグイグイ行ってたら仲良くなれた。俊樹はいつの間にか隣にいた。他の子だってそうである。
抱き上げたのはりっちゃんを入れて二人目で、大抵は手を出すところからだけどね。
逃げようとするなら捕まえる。それだけの話なんだよなぁ。
「わらわをおそうつもりなのじゃ」
寒奈さんの豊満な胸に埋もれながらしくしくと泣いている杏さん。
教室とは別人のような姿に、笑みが浮かぶ。
新しい一面を知ることが出来るのはいいことだよね。