6 寒奈
「ここは、誰も来ないから安心してください」
にこやかな笑みを浮かべながら電気を点ける。
普通の教室の半分ほどしかない部屋がそこにはあり、中心には大きな長机が置かれていて場所のほとんどを奪っている。
丸いすが色んな場所から顔を出し、誰かが使っていることだけは分かった。
壁側にある棚には、超能力や超常現象を記した書物があり、資料か何かなのだろうと推測出来る。
僕の想像が正しければ、ここは……
「超常研の部室。かなぁ?」
「そうですよ。とは言え、部員が居なくなって放置されているのを、わたくしが利用しているだけですが」
「大丈夫なのか?」
「はい。色々とお願いしまして。こういう場所があると、便利のはずですしね」
「どういうこと?」
にこやかな笑みを浮かべたまま口を開かずに椅子へと促してくる。
話したくないのだろうと椅子に座れば、頭をガリガリとかいた俊樹も正面に座る。
使い古されてはいるけれど、ちゃんと手入れはされていた。
きっと、寒奈さんがしたのだろう。どんな用途を考えて手入れしていたのかはきっと説明してくれない。俊樹は何かを知っているようだけど、僕に言うことは無いのだろう。
なら、今は聞く必要がないってことである。必要になれば自ずと分かる話だ。
ともかく今は……
「いただきまーす」
「いただきます」
「はい。どうぞ」
ご飯を食べよう。
お弁当の蓋を開ければ、ふりかけでハートマークの書かれたご飯が目に入る。彩り豊かなおかずを眺めながら、栄養バランスまで考えられたお弁当に手を合わせてお辞儀する。
りっちゃんに感謝の気持ちが届くようにと。
「ハート、マーク?」
「んっどうかしたの?」
目を丸くしているのは寒奈さんだ。俊樹は慣れているのか、僕の弁当箱を見ることはなく。コンビニのパンを口に入れる。
「それ、誰が?」
「りっちゃんだよ。一緒に住んでる可愛い女の子」
「俊樹くん。これは大丈夫なのですか!!」
「問題ないだろ。一緒に住んだところで、こいつは絶対に手は出さないよ」
「んー?」
りっちゃん特製ミニハンバーグを口に入れながら首を傾げる。
手間隙かけているのでしっかりと味わうのが礼儀だ。欲しいのならば、分けてあげるけど……俊樹は頑として断るからなぁ。
なんでだろう?
「えっと、あの、その」
「りっちゃんってのは、一学年後輩の子だ。寒奈さんが卒業してから仲良くなった。だけど、知ってると思うぞ」
「もしかして、理摩さん。ですか?」
「大正解」
「あれーりっちゃんのこと知ってるの?」
面識無いと思ったけど、違ったんだなぁ。
僕と違ってりっちゃんの顔が広いってことなんだろうな。凄いなぁ。僕も少しは見習わないと駄目だね。
「あの、えっ? あの……理摩さん。ですか?」
「あの理摩さんですよ。最後に会ったのは何年前かね」
あははと笑うところを見ると、寒奈さんは最近のりっちゃんとの面識は無いみたいだ。
生徒会長やっていたみたいだからりっちゃんは知っている感じだったけど、それとは別の話なのかな?
よく分からないや。
「頑張ったん。ですね」
「まぁな。大地のために色々と勉強したせいで、今では家が大好きみたいだけどな」
「不憫ですね」
「?」
二人の会話についていけない。
なんだか僕のことを非難しているようだけど、どうなんだろう。
僕の上で話が進んでるから、入ってもいけないし……むむむ。ちょっと悲しい。
「大地くん。一口。貰っても大丈夫ですか?」
「いいよ! 何がいい~?」
半分ほど食べてしまっているお弁当箱を見せる。少し悩んだ様子だが、ミニハンバーグを指定してきた。
僕はそれを半分にしてから箸で口元まで持っていく。
「はい。あーん」
「えっ! あの、蓋に置いてくだされば……」
「いいからいいから。落ちちゃうよー」
「はっはい」
小さく開かれた口に、ちょうど入るサイズだったミニハンバーグ。
美味しく食べてくれると嬉しいな。
「美味しい。ですね」
「うん。りっちゃんの料理は美味しいよ!」
「本当。頑張ったんですね」
「?」
頬を朱に染めながら、涙を流しそうなほどに感激している寒奈さん。
なんでそんなに感動しているのだろうか?
「俊樹~?」
「さあな。俺からは何も言えないよ」
残りのパンを放り込んで首を横に振る。
みんな秘密が多いいなぁ。
でも、仲良くしてくれるならそれでもいいや。僕たち友達友達~
楽しい食事は、それから十分ほど続いた。