エピローグ 大地
泣いていた。
僕と関わった人たちが泣いていた。
僕のことなんて覚えていないはずなのに、止まらない涙に苦しんでいた。
どうして?
疑問をぶつけようとして、自分に感覚があることに気がついた。意識して動くことが出来る自らを見下ろし、腕の中で丸くなるクロを確認出来た。
居なくなった。死んだ。のであれば、そんなことも分かるわけはない。頭は悪いけど、いや、悪いからこそこの事態に首を傾げる。
僕は、一体どうなっているのだろう。
「繋がりがある。だから、消えられない。それが、今」
「そっか〜」
全て断ち切ったはずの繋がりがあるから、死ぬことも戻ることも出来ずにここにいるのだろう。
目の前にはみんなの姿がある。僕のいない世界が見える。触れれば届きそうな距離なのに、どこまでも遠くにあるその世界にか細い糸のような物が残っているということなのだろう。
「誰と繋がっているんだろう?」
意識をすれば、目の前の映像は即座に切り替わる。
一度でも関わった人たちに視界を向けるが、誰も彼も僕のことを覚えている素振りはない。泣いている彼女たちが心の奥底で覚えていると言うのであれば美談であるが、そうでもないだろう。
見ていれば分かる。僕のことは覚えていない。覚えていないことで心に穴が開き、涙で埋めようとしているだけだ。
だとすれば……
『ようやく。姿を見せたねぇ』
「あっ由埜さんだー」
『明るいねぇ。居なくなったってのにさぁ』
吸血鬼。由埜さんに視界を向ければ、返事が帰ってきた。向こうから干渉出来るはずもないのに、軽々とやってしまえるのは特別な存在だからだろう。ちょっと安心する。でも、同時に疑問も抱く。なんで僕のことを覚えているのだろうと、そんな疑問が……
『妾は、真祖の一柱。故に、万物を記憶しておける。無論忘れることも出来たがの』
「だったら、なんで?」
『つまらぬであろう。吸血鬼や鬼すらも凌駕する化け物の存在が無に帰すのは』
「でも、あなたは憎んでた」
『そうじゃの。最愛の息子を奪われたことに対する憎しみはあったわい。じゃが、もう戻っておる。蟠りは流せよう』
二人に確執があったのかな?
話に入っていけないけど、とても大切な何かをクロが奪っていて、この間のことで返せた。だから怒ってないと言いたいのかな?
だとしても、
「僕たち。帰ってもいいのかな?」
「すでに寿命が違う。この世全てが滅んでも、大地は死なない。今のタイミングで、死ぬべき」
『笑わせるでない。妾は同じように永劫生きるのじゃ。先に往くなど許さぬ』
そっか〜という事は、由埜さんと同じなのか〜
あれ?
「僕も、化け物の一員?」
『当然じゃな』
「わーい」
喜んでおく。
まさかの事態だけど、それなら今後生きていても楽しめそうだ。この世の不思議を全部解き明かすことも出来るだろう。
「大地。いいの?」
「うん。帰ってもいいよ。クロがずっと一緒に居てくれるんでしょ?」
こくりと、首を縦に振る。
『なら、早く帰るがよい。ルートは、ここじゃ』
手を伸ばせ。
そう言っているかのように手を差し出す由埜さんに僕は画面越しから飛びついた。
すり抜ける。すり抜けて、何かを掴む。
それは、二度と手に入らないはずの幸福。世界。繋がり。
だから、僕はこの場所で生きていこう。例え、どんな結末になろうとも……
これにて「届かぬ大地の恋物語」を終了します。
長い間お付き合いありがとうございます。




