5 昼休み開始
昼休みになった。
午前中の授業を終えてグッと伸びをする。
「飯はどうする?」
「お弁当~あるよ!」
りっちゃん特製お弁当をカバンから取りだし、ニコニコと返事をする。
「毎日作らなくてもいい」とは言っているのだけど「やりたいことだから」と台所に立って作ってくれるのでありがたくいただくことにしている。
毎日毎日大変だと思うけど……やりたいことなら受け入れるだけである。
「それは分かってる。どこで食べるかって話だ」
「んーここでもよくないかな?」
誰かに迷惑をかけるわけでもないし、入学してからお昼はずっと教室で食べていた。
移動しなくていいから楽だし……
「いや、教室は……」
困ったように周囲を見回す。
好機の視線を向ける女子生徒が数名見えた。
名前は知らない。特に興味がないから覚えていない。だけど、俊樹と一緒に居ると嬉しそうにする集団であることは知っている。
きっと、あの人たちと同じ空間で食べるのが嫌なのだろう。よくあーんをしたりしていると煩いし、僕たちの行動になにかと関心を持っているようだ。
僕としては興味があるのならば話しかければいいと思う。そうしてくれたならば、ジロジロ見るのを止めてもらうように言える。こっちから言いに行こうとしたけど俊樹が絶対に止めてくれと頼むから我慢していた。気にしてないならそれでいいのかな、と。
でも、実際は嫌がっていたのか。
なら……
「旧校舎は?」
「お前なぁ」
呆れたように頭をかいている。
この学校は、僕たちが通っている新校舎と数年前まで使われていたが、ボロボロで使われなくなった旧校舎がある。もちろん立ち入りは禁止されている。
だけど、人数の少ないせいで部活と呼べない同好会が勝手に占拠しているようで、鍵は常時解放。入ったところでお咎めなしとなっている。
そもそも、放課後に入り浸っていることは先生はもちろん生徒会でも把握しているらしい。らしいと言うのは、この情報の全てをりっちゃんから仕入れたからだ。
入学してすぐの頃に心霊スポットを調べて教えてくれた。その時のついでで教えてもらっただけである。
りっちゃんには感謝しかない。
「あそこなら、邪魔は入らないでしょ?」
「人。の邪魔はな」
暗い顔をされる。
つまり、人以外の邪魔が入る可能性が高い。端的に言うならば、幽霊の邪魔が……
「えっ! やっぱり、あそこには幽霊居るの!」
「まあ、な」
「うわああああ。今度こそ見られるかな!?」
「無理、だろうな」
「むう」
青ざめた顔の俊樹を見るに、本当に居るのだろう。見えるがゆえに幽霊に好かれるのが俊樹なのだ。幽霊を嫌っているのに好かれるなんて大変だろうけど、昔に比べたら大分耐性がついたほうである。
しかし、そうなると今日は諦めた方がいいかもしれない。本当に駄目になったときに旧校舎に行くとして、今日はどうしようか?
「二人。呼ばれてるぞ」
「分かった」
クラスメイトの男子に声をかけられ縮こまる。俊樹が返事をしてくれたので呼ばれた方を向くと……
「あれ、寒奈さん?」
「どうしたんだ?」
教室の入り口でひらひらと手を振る姿が見えた。
視界の角で如月杏さんが熟睡しているのも確認したが、ご飯は食べなくて大丈夫なのだろうか?
「そっちに視線を向けるな。ほら、行くぞ」
「うん」
後ろ髪を引かれる想いで席を立ち、どうせ外に出るのだからと荷物を持って寒奈さんのところへと急ぐ。
「どうかしたの?」
「お昼。一緒にどうかなと思って。もう、食べちゃったかな?」
「今からだよ」
「どこで食うかって話してたとこだ」
「でしたら、わたしくが良いところを案内しますね」
嬉しそうに両手を重ねると、笑みを浮かべて背中を向け歩き出す。
俊樹と一度顔を見合わせるが、着いていくのが楽だろうと判断してトコトコと歩き出す。
美人さんとイケメンだからか、寒奈さんと俊樹が並ぶと華がある。色々な視線を集め、僕が一緒にいたら文句をを言われそうな感じになっている。
なんだ、あのオマケ。みたいなことが僕の耳でも拾うことが出来てしまう。寒奈さんは、少しムスッとした表情を浮かべながらズンズン前へと向かう。
「怒ってる?」
「うん。わりと怒ってるよ。みんな勝手だもの」
「ふうん」
僕には聞こえない会話が聞こえているのだろう。
地獄耳と言うのは、こういう時に厄介なんだろうと思う。聞きたくないことでも耳に届いてしまう。それは、塞いだって変わらない。どんなに聞かないようにしても耳に入ってくるそうだ。
自分の意思でコントロール出来ないと聞いた。
だから、僕は……
「はい。手」
「大地、君?」
「んっ? 握らないの?」
「いい、の?」
「当たり前だよ。昔はそうしてたでしょ?」
ニコニコと笑みを絶やすことなく手をフラフラと振る。
ビックリしたように小さく口を開いたが、俊樹と目で会話してから僕の手を握る。
柔らかい手の感触が心地よく。体温を交換し合う。
不安そうにしているとき、昔はよくこうしていた。懐かしさが沸き上がり、昔に戻ったような感覚になる。
「ありがとう」
消え入りそうな感謝を述べながら一つの教室へと入っていく。
僕たちの食事タイムの始まりだ。