58 さようなら
逝こう。
大地は手を差し出して、クロを誘う。
もう二度と帰ることが出来ないと知りながら、大地はクロと消える道を選んだ。
「できない。できるわけ、ない」
「そうなの?」
「そう。だって、だって」
できない。
それは、ずっとクロが抱いていた考えだ。
できないから、生きる。死ねないから、生きる。挑戦するには覚悟が必要で、一人で試すには恐怖しかない。
「僕が、いるよ」
「大地」
触れられない手が触れ合う。
今にも泣きそうなクロを優しく包み込む。
クロが全ての始まりで、終わりを担うのであれば本望だ。こんな不思議を体験出来るのだから、死んでも文句は言えない。
「ごめんなさい」
「謝らないでよ」
浮かべる笑み。
クロは涙を零すと指を鳴らした。
牢屋の扉が開かれる。それと呼応するかのように二人の体が透け始めた。
一つ。また一つと魂が外に流れていく。遠くから闇が晴れていく。
「みんなにお別れ言いたかったなぁ」
「忘れさせる?」
「それがいいかもね」
大地と言う存在を抹消する。
そうすれば、誰も悲しむことは無いと頷いた。みんなが幸せであればそれでいい。付き合ってくれたみんなに後悔してほしくない。
光に向かって飛んでいく魂を見つめる。
「あれ?」
気がつけば、手に何かが触れる。
視線を落とせば、クロに触れていた。涙目で微笑むクロを抱きしめる。
「さようなら」
届くことの無い別れ。
届くことの無い恋物語は、こうして幕を閉じる。
大地とクロの退場をもって……




