57 解放
僕の気持ちは恋ではない。
そう言われて小さな納得があったのは、心臓の高鳴り以外に杏ちゃんに対して強く抱く物が無かったからだ。
初めて見た時の高揚感。あれが、擬似的にもたらされた恋なのだとしたら……今ここで思い出して何も感じないことで受け入れられる。
だけど、僕は吸血鬼ではない。
結果として、杏ちゃんを怖がらせることになったのだろう。そこは反省か。次に会うことがあるのか分からないけど、その時は誠心誠意謝罪をしよう。
「それで、解放すると僕が死んで、クロが取り残されるんだっけ?」
恋は置いといて、話を元に戻すことにしよう。ここで永遠に過ごす訳にはいかないのだ。
「解放しなければ、永遠」
「んーでも、それはそれで困ったことになるんじゃない?」
「……なる」
「どんなこと?」
「闇は、世界を覆っている。これが解けない限り、人が生きることは出来ない」
「みんなを取り込んだか〜」
世界中の全てを取り込んだ僕たちは、人類……いや、地球規模での犯罪者になるのかもしれない。
「今はどうなってるの?」
「意識なく。眠りの中で夢を見てる」
「夢、か〜今のこの時間も、夢みたいなものだよね〜」
現実味がなさすぎる。
だから、夢だと言われたら頷けてしまう。
ここで死んだらどうなるのか気になるけれど、それで悲しむのは眼前のクロなのだ。
クロを泣かせたいわけではないので、死の選択肢は選べない。選べないけど、救うためには選ばないといけない。
面倒な問いかけだ。他のみんなならどう答えるのか気になる。
答えのない回答はとりあえず放置して、クロとの話に注視しようか。
「僕を殴ったら目が覚める?」
「大地は起きてる」
「そっか〜」
「選ぶ道は一つ。だけど、それを選びたくない」
子供のように駄々をこねるクロを、抱きしめられないけれど抱きしめる。
虚空を抱いている気しかしないけど、クロには思いが伝わったようでこちらを見つめてくる。
笑顔を返し、耳元に口を近づける。
「なら、一緒に逝こうか」
僕の想いは、恋は、勘違いだからこそ実らない。僕の人生は、クロとの出会いで大きく変わってしまった。
だから、一緒に逝こう。
ここを解放し、一緒にーー




