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52 救出

『こんなことがあった』


クロの主観を交えながら過去のことを話終えると、顔を押さえて今にも泣きそうにしている理摩。

その意味が分からないクロは首を傾げながら屋根の上を駆ける。


「それで、どうなったんですか?」

『どうもなってない。目を覚ました大地がクロを連れてそのまま帰った。壊れたのは直してたし』


事故は起きていないことになった。

人が、鬼が消えたと言うのに誰も騒いでいなかった。クロは特に気にしていなかったが、理摩はそのことが気になった。

気になったけれども調べるための時間が今は惜しい。目前に見えている病院を見据えながら引き剥がされまいと食い下がる。


クロは速かった。


ぴょんぴょんと軽い動きで一気に距離を縮めていく。理摩が全力を出しているのに隣で走るのが精一杯だった。


「もう一つ。いいですか?」

『何?』

「今までの大先輩の行動に、クロは関与してますか?」

『していない。けど、ある一点だけ大きな影響を受けてしまっている』

「影響?」


『吸血鬼』


一言。

それだけ言い切ると、病院に向かって突撃する。

入り口をぶち破り看護師の悲鳴を聞きながらクロは病院に降り立った。


傍から見れば完全に悪役である。その後に着地した理摩は慌ててクロの手を引いた。


『何?』

「こっち。こっちだから。ごめんなさい!!」


クロを引っ張り、向かったのは裏口だ。

鍵のかかった扉が二人の行く手を遮ろうとする。けれど、そんなもので止められるわけもなく。軽く触れるだけで扉が闇に溶けた。


『大地を感じる』

「直線です。お爺様が、きっと……」


聞くが早いかクロは弾丸のように飛んだ。開けっ放しの扉を通り抜け、部屋に多大なダメージを与えながら入り込んだ。


『大地。返して』

「返すと、思っているのか?」

「お爺様。大人しく返してください。病院が丸ごと消失しますよ!!」


口上が聞こえたのか、必死に叫ぶ理摩。

ここでクロが暴れれば大変なことになることは間違いない。それが分かっているからこその叫びだったが、お爺様はハッタリだと考えたらしくニヤリと笑みを浮かべる。


「理摩すら手篭めにしたか」

「違う。そうじゃない。そうじゃないんです!!」


理不尽な強さを知ってしまったからこその叫び。

それ以上に……


「大先輩は危ないんです」

「こんな小僧が、か?」


すやすやと寝息をたてる大地。近くでは杏が震えていた。

恐怖の度合いがよく分かる。半分の血しかないからなのか、相手の力量を判断する術に長けていた。

だからこそ、最初から大地を警戒していたのだ。


「お願い、します」

「却下だ」


お爺様が拒否した瞬間。


闇が、病院を包み込む。全てを、呑み込んだ。

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