4 友人
「ふぁぁぁぁ」
大きく欠伸しながら通学路を行く。
空を見上げれば雲一つ無い晴天。視界を下げれば、少し前まで咲き誇っていた桜並木。葉桜になりかけてはいるが、薄い桃色の花びらはまだまだ元気で僕の目を楽しませてくれる。
今日も一日いい日になりそうな予感に気分も高まる。
「よお。のんびり、何してるんだ?」
「ああ。俊樹。おはよー」
「おはよう」
長身のイケメンがにこやかに声をかけてくる。
りっちゃんに僕の情報を流している張本人である俊樹だ。
俳優だって目じゃない容姿をしていて文武両道。そのために、中学ではファンクラブがあったほどだ。僕と同い年なのに、着ている制服ですら華があるように感じる。僕なんて制服が似合わなくて笑うしかないのに……人それぞれ違うんだよなぁ。
りっちゃん曰く、好意を持つ人は多いみたいだけど、互いに牽制しあっているせいで直接告白されることはないらしい。
どうやって調べたのか知らないけど、ドヤ顔で言っていたのでパチパチと拍手しておいた。
バレンタインなんかの行事だと、両手で持ちきれないくらい貰うので大変そうだし、色々と気疲れしているみたいなので、普通が一番である。
まぁ、当人である俊樹が普通じゃないからこそ、僕は大好きなんだけどね!
「にこにこして、どうしたよ?」
「んー俊樹のこと。やっぱり好きだなって」
「頼むからそう言うことを公共の場で言うのは止めろ。俺に恋人が出来ない理由の大部分がお前のせいなんだからな?」
「そうなの?」
りっちゃんの調べだと、僕は関係無いはずなのになぁ。不思議だ。
好意は素直に表した方がいいんじゃないの?
「ほんと、お前は知り合いかそうじゃないかで態度が変わるよな?」
「それはそうだよ。俊樹やりっちゃんと同じように他の人に接するなんて無理無理」
あっけんからんに笑うと頭を抱えられた。
友達とそれ以外で態度が変わるのがそんなにおかしいのだろうか?
確かに、知らない人だとかなり固くなるけど……それは普通じゃないのかな?
「寒奈さんにも、固くなったんだろ?」
「あれ~俊樹も知ってるの?」
「その、知ってるが、昨日のことなのか本人のことなのかで言いたいことが変わるが、どっちだ?」
「両方!」
「そうかよ」
ポンポンと背中を押すので仕方なく歩き始める。
まだ学校に着いてないのだ。話は着いてからと言いたいのだろう。
それにしても、さっきから女子生徒たちが嬉しそうに色めきあってるのはなんだろう?
僕の好き発言からなんだけど……変なことなのかな?
「おはよう」
「おはよー」
二人であれこれと話ながら移動し、挨拶してから教室に入ると、女子生徒からの視線を一気に集める。
登校中もこそこそと話しているような声が聞こえたけれど、教室に入ると集中していることがよく分かる。
首を傾げて止まろうとするけれど、背中を押されるので仕方なく自分の席へと向かう。
「むー」
「いらないことは悩むな。気にしたら負けだぞ」
「そうかなぁ?」
席に着いて荷物を机に入れていく。キョロキョロと教室を見回すと、一番前の席でありながら堂々と机に突っ伏して寝ている女子生徒を見つけた。
ドクン。と、心臓が高鳴る。
やっぱり、間違いじゃないんだなと感じて嬉しくなる。
俊樹やりっちゃん。寒奈さんでは感じなかった高鳴り。今までに味わったことの無い感覚は、いつまで経っても変わることがなく。その度に嬉しくなる。
「あいつは、止めとけ」
「えー」
そんな僕の心情を知ってか知らずか、俊樹は絶対に受け入れはしない。寒奈さんもそうだし、りっちゃんもそうだ。
みんな揃って、如月杏さんは駄目だと言う。
その意味がよく分からない。
特におかしなことをするでもなく。ひたすら寝ているだけ。
それだけを見るならば、特に興味は持たなかったと思う。
寝てる人が居るなぁ。不良さんかなぁ。で、終わるところである。
勉強が出来ようが、とてつもなく可愛い子だろうが、そのた一般人と差はそんなにない。俊樹だって、僕が彼女に恋をしたことを口にしたらそんなことを捲し立てていた。
同意見である。
僕が興味を持ってきたのは、みんな特別な人たちであった。
地獄耳と言われた寒奈さんを筆頭に、りっちゃんも俊樹も他の人たちも、特別なことが出来る。
この中で、一般人よりの如月杏さんに恋をしたなんて言われたらどこかに頭をぶつけたのか。って思われたっておかしくない。
でも、仕方がないのだ。
恋は唐突で突然だった。それだけの話である。
「不満そうな顔をするなよ」
「だってさぁ」
「他にも人は居るんだ。あいつを選ぶ理由は無いだろ?」
「あるある。あるよ~」
「恋って理由は勘弁な。本当に、みんな頑張ってくれよ」
「頭抱えてどうしたの?」
理解不能な俊樹の行動に首を傾げることしか出来ない。
高校に入るまではこんなではなかったはず。だとしたら、何かが変わったのかな?
こんな風になった理由。理由。理由?
「分かんないや」
「俺も分からねぇよ」
俊樹は手を上げて自分の席へと向かう。
時計を見れば、もう先生が来る時間だ。
気持ちを切り替えて今日も一日、授業を頑張ろう。