39 鬼の宿命
大地が行方不明となり、別々に探すことになった理摩たちだが、その行く手を猫又が阻む。
「邪魔、しないで!」
物の数を気にしない理摩は、手を振ることで対処する。僅かな動きだけで無双すると屋根伝いに街中を駆け回る。
身体能力の高さと特殊技能が理摩の売りであり、普段は使うことの無い全力を今使っていた。
大地を連れ去った犯人が分からないせいで捜索は難航していた。虱潰しに探すには、この街は広すぎる。
どこか当たりをつけなければと思うけれど……思考を深める度に猫又が邪魔をするのだ。
「もう。なんなんですか!」
この道が正解に続いているからこそ、この密度なのか理摩を狙っているからなのか……それを知る術がない。
ただ、全力で駆けるしか道はなかった。
「大先輩。無事……ですよね」
ため息が零れた。
大地は色々なことに巻き込まれる。巻き込まれるのに、大抵が無事なのだ。傷一つ負わずに笑って帰ってくる事もよくあり、頭が痛くなる。
巻き込まれ体質なのに……何らかの加護を持っているとしか思えないほどに無事なのだ。
「困りますよね」
「そうねぇ本当に、困るわね」
「さつき、さん?」
「そうよ。来てくれて嬉しいわ」
猫又に囲まれたさつきが、ゆっくりと歩いてくる。
「どうして、ここに?」
「あなたの本気を出すため、かしらね」
パシンとムチが地面を叩く。
それだけで、猫又が列になる。
「つまり、大先輩を攫ったのは……あなたですか?」
「あれは……攫ったと、言えるのかしらねぇ」
「……ああ。そうなんですね。やっぱりですか……」
さつきの反応だけで、大地が自らの意思でついて行ったことを悟る。面白くなりそうならなんでもやるのは知っている。知っているからこそ頭が痛くなる理摩は顔を覆った。
「聞いても、いいかしら?」
「なんですか?」
「なんで、あんなのが好きなの?」
「絶対に言いません」
禁則事項であるかのようにブンブン首を横に振る。
言いたいことはよく分かる。けれど、その答えを口にしたくはない理摩。それは、寒奈も同じだろうと思っている。
訳の分からない行動と言動。なのに、好かれる秘密なんて言えない。大地がこれ以上好かれることを理摩は良しとしていない。
「なら、あなたは彼の隣に立てると思うの?」
「それ……は」
「あなたは鬼なの。人と交わるべきじゃないことは、分かるわよね?」
「それは、分かります。分かりますけど!!」
鬼と人が交わった結果。どうなったかなんて理摩はよく知ってる。歴史が、それを全て記している。
良かったことなど一度もなく。悲恋だけが語り継がれた。己の全てを失う覚悟で一緒になり……命すらも無くした人も少なくない。
理摩に、その運命を辿らせるわけにはいかないからこそ、さつきはここに立っている。大地を誘拐したのも、その一環でしかなく。訪れるであろう未来に関しては、すでに共有されていた。
大地は笑っていた。一緒になる未来が無いと分かっているのに、平然としていた。
そのことは、さつきの胸に引っかかっている。なにか裏があると考えているが、それを引き出すことは出来なかった。
「だから、家に帰ってもらうわよ。どうせ、学校にも通ってないわけだし」
「それ、は……」
「こっちに来たのは社会学習のため。だけど、その役を果たさないなら、帰ってもらうわよ。だから、隠れてたんでしょう?」
それは図星だった。今の状況がバレれば連れ戻される。それを避けるために、部屋に閉じこもっていた。部屋を由埜にお願いし、逃げ込んだ。大地と一緒になるために……
「帰りますよ。理摩さま。鬼の宿命ですよ」
「理摩は、理摩は!」
拳を握る。
負けるつもりは無い。ここを突破し、大地を救出して、楽しい日々を過ごすために……




