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3 同居人

先生の車で住んでいるマンションに送り届けられる。

地上十五階建てのここら辺では高級マンションに属する一角である。住んで数日ではあるけれど、何回見上げても首が痛くなる。こんなところに住んでいるのが嘘のようではあるが、預かった鍵と暗証番号を使えば正面の扉が開き、中へと入ることが出来る。

エレベーターで十五階まで一気に昇ると、角部屋の前で立ち止まる。

先程とは違う鍵を取り出して鍵を開ける。


ガチャガチャ。


ドアノブを回すが開けたはずなのに鍵が開かない。


「また、鍵してないのか~」

 

苦笑しながらもう一度鍵を動かしてドアノブを回す。

ガチャリと開いた扉に素早く滑り込む。


「ただいま~」

「にゃ!」 

「おっと」


玄関に入ると、黒猫が腕の中に飛び込んでくる。

にゃあにゃあと胸元に猫パンチをしてきて、帰ってくるのが遅いと非難をぶつけてくる。そんな黒猫。名前もそのままクロの背中を優しく撫でながら靴を脱いでリビングまで移動する。

いい匂いが鼻を刺激して、お腹がグーっと鳴った。


「ただいま~」

「遅かったですね。大先輩」


中学のジャージにエプロン姿の少女が腰に手を当てて台所に立っている。

丸眼鏡に肩までしかないショートカットの髪型。全体的にこじんまりとした体格の彼女はこの家の家主である綺堂(きどう)理摩(りま)である。年は一つ下で中学三年生。両親が海外出張で一人暮らしになるはずの僕を家に招いてくれた張本人である。


「ちょっと告白されててね~」

 

カバンを下ろし、うりうりとクロの喉元を撫でる。

ジトッとした視線を向けながら、大人しく撫でられるクロは、なにか言いたげである。


「ええええええええええ!!」 

「どうかしたの?」

 

唐突の大声にビックリしてクロを落としてしまう。

華麗に着地を決めるが、怒っている様子でパンパンと足に猫パンチをしてくる。爪を立てないので痛くはないのだが、不満だけはたっぷりと感じられる。

機嫌を治してもらうために抱き上げるけれども、腕の中でジタバタともがき、床に再び着地してフーと威嚇してくる。


あれ? なんだか、すごく怒ってる?


落としたのがそんなに腹がたったのだろうか?


「あのあのあのあのあのあの!」

「りっちゃんもどうしたのさ?」


壊れたCDのように同じ言葉を繰り返すりっちゃんに首を傾げる。

なにか変なことを言っただろうか? どうして遅くなったのかを的確に説明したはずなのだけど……


「告白って、誰にですか!」

「なんで気にするの?」

「気にしますよ!!」


なぜか力説されてしまった。

僕としてはそんな話題よりも美味しそうな匂いのする晩御飯をご所望したいのだけど、グーってお腹もさっきからご飯を要求している。

りっちゃんも聞こえていると思うのだけれど、まるで無視してジッと僕のことを睨み付けている。

これは話さないとご飯抜きの予測が立つ。頬を掻きながら天井を見上げ、


「知らないと思うよ?」

「大丈夫です。大先輩の交遊関係は全て把握してますから」

「そっか~」


なら、分かるのかもしれない。

ストーカーの気もありそうだけど、一つ屋根の下で暮らしているのだ。知っていたって何ら不思議はない。そもそも、僕の交遊関係が少ないし、一人と知り合いならばみんな知っているのと同然だもん。


「えっとねぇ。悠凪寒奈って先輩だよ」

「えええええええええええ!」

「あれ。知ってるの?」

「知ってるもなにも中学の時生徒会長してたじゃないですか!」

「ん~?」


生徒会長?

記憶にないなぁ。

りっちゃんが知ってるってことは、僕が中学二年生の時に生徒会長をしていたのだろうけど……覚えがまるでない。そもそも、生徒会なんて興味がないから記憶に残ってないんだよなぁ。宇宙人や未確認生物が生徒会長をやっていたのであれば、絶対に突撃してただろうけどね。そんなことをしなかったところを思うと、そう言うわけではないのだろう。


「覚えがないや」

「小学生の頃は仲良く遊んでたと、俊先輩は言ってましたよ」

俊樹(としき)が?」


神郷(しんごう)俊樹。幼稚園からの親友にして僕の保護者みたいな立場に居る同級生。りっちゃんとも面識があって一緒になって遊んだのが昨日のことみたいに思い出せる。

楽しかったなぁ。河童やツチノコ捜索と称して山や川を駆け回ったものだ。

見つからなかったけど、俊樹の反応やりっちゃんの怖がる姿は今でも瞼に焼き付いている。

りっちゃん。以外と怖がりだもんなぁ。


「ニヤニヤしてどうしたんですか?」

「なんでもないよ~」

「どうせ、昔のことを思い出してたんですよね」

 

ジト目でため息を吐かれてしまう。

どうやらりっちゃんにとっては忘れたい黒歴史のようだ。

あんなに楽しい日々が黒歴史なのは不満ではあるが、思い出した先に悠凪寒奈って先輩は居ない。

すっごく綺麗な先輩だから一緒に遊んだのならば覚えてそうなものなのに……なんでだろう?


「地獄耳。覚えてますか?」

「あったり前だよ~小学生の頃に遊んだ友達だよぉ」


その名前は忘れもしない。

地獄耳とバカにされて泣いていた女の子である。一学年上の先輩だったけど、昼休みにはよく遊んでいた。

なにせ、地獄耳だ。どんな些細な音ですら聞き逃さないなんて凄い特技だと興奮しながら話したことを今でも覚えている。

小学生の頃は河童やツチノコよりも特別な技能に惚れ込んでいた。自分とは違う。それだけで憧れて近づいたものだ。

りっちゃんも、その延長で近づいて仲良くなり……一緒に暮らすまでなっている。人生どうなるのか分からないものだ。

不思議な出来事大好きっ子としては、なんでバカにされていたのか分からず首を傾げたものである。

でも……


「あの子、地獄耳って名前でしょ?」

「そんな名前の人がいるわけ無いですよね!?」

「あれ~?」

 

ねぇねぇとか、先輩としか呼んだ記憶がない。

名札があったような気がするけど、なんて名前だったかど忘れしている。見た記憶はあるのに不思議である。


「もしかして、誰かに記憶を操作されたのかも!」

「そんなわけないですよ。大先輩が興味無さすぎて忘れただけです」


二度目のため息を吐かれた。

不本意ではあるが、全くその通りなのでぐぅの音も出ない。


「その地獄耳の先輩が悠凪寒奈さんです。俊先輩から聞きましたから間違いないです」

「りっちゃんは面識無いんだもんね」

「はい。理摩は入れ違いでしたからね」


りっちゃんが転入してきたのは五年生の頃。寒奈さんはすでに卒業していたので、こんな人が居たんだと話した程度だったはず。

それでも覚えているなんて記憶力いいよなぁ。さすが僕の家庭教師なだけはある。

高校一年生のレベルだって平然と教えられるもんね!


「寒奈さん。可哀想です」

「あんなに驚いてたのに同情?」

「したくもなりますよ。はぁ」

「そんなにため息ばかりだと幸運逃げるよ~笑顔。笑顔」


にっこりと笑って見せると苦笑いされてしまった。

ん~何が不満だったんだろう?


「もう、いいです。ご飯にしますから、着替えてきてください」

「は~い」


軽く返事をして洗面所に移動。まずは、手洗いうがいだよね~

帰りの挨拶したら、ちゃんとしないとね!

季節の変わり目。風邪引かないように!

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