33 一緒の時間
夜。
クロを抱きながら歩く。隣にはりっちゃんが居る。あまり外には出たがらないのに今日は着いてくると聞かなかったので一緒に居る。
不安なのか、僕の腕に抱きついている。それはいいけど、思いっきり抱きついているので完全に極まっている。まるで動かせないし、だんだんと痺れてきたけど左腕だからまだマシかな?
これが右腕だったら困ってたよ。
「あっ寒奈さんだ〜」
手を振りたいけど、右腕はクロ。左腕はりっちゃんが占拠しているので声だけかける。
地獄耳の寒奈さんは即座に気づいたようで僕に手を振ろうとして固まっている。この状況に対して言いたいことでもあるのかもしれない。
「とーちゃく」
「あの、なぜ、理摩さまが?」
「んー来たいって言ったから」
「そうですか……ちょうどよかったです」
「ちょうど、いい?」
寒奈さんの頷きと共に飛んでくる猫又(仮)に、クロがダイブした。仰向けに倒れたお腹にクリーンヒットしたせいか泡食っている。
「おーこれは、十点かな?」
「あの、えっと……冗談、ですよね?」
「点数?」
「いえ、この……猫です」と青ざめた表情で指差す。生きているようだから何に対しての冗談なのか理解できない。うんうん首を回すけど、回答に辿り着かない。
「寒奈さんは分かるー?」
「はい。冗談でないことだけは確かですよ」
「そう、ですか……」
何か知っているのか、落胆したように肩を落としている。ズルズルとズレて膝を地面に着けるほど。
それにしても、この猫又(仮)を吹き飛ばした相手はどこにいるんだろう?
多分杏さんだろうから挨拶したいんだけど……
「ねぇねぇ。杏さんは?」
「あちらの方でうーうー唸っていますよ」
「そっか。じゃあ、挨拶は無理か〜」
猫又(仮)相手に威嚇しているのであれば邪魔する訳にはいかない。
猫と同じ目線で相手するのはとても大事なことだもんね。躾は大切。クロに躾をした記憶なんて欠けらも無いけどさぁ〜
「さて、役者も揃いましたので理摩さま?」
「ひゃう」
「お願いしてもよろしいですか?」
どこからか取り出したのか分からない変な光る塊が寒奈さんの周りに漂う。
よくよく見れば、先程の猫又(仮)が普通の猫にジョブチェンジしていて目を回していた。
クロは仕事を終えたとばかりに腕へと帰ってくる。一体何をしていたんだろう?
「り、理摩に、帰れ……と?」
「分かりません。ですから、この子たちをどうにかしてください」
「無理!!」
高速で、首を横に振る。本当に何があるのだろうか?
「クロ〜クロは分かる?」
「にゃあ」
プイッと明後日を向かれた。関わる気が無いようで大きく欠伸をしている。
「ん〜クロは気まぐれさんだもんねー」
「今回。クロさんの手は借りられませんか……」
「寒奈さん。クロをさん付けするのー?」
前は違ったような気も……よく覚えてないや。覚えてないなら気にしても仕方ないね!
寒奈さんも言いづらそうにクロと視線合わせてるし、僕の知らないところで何かあったのかもしれない。熾烈な争い……見てみたかったなぁ〜
「それで、りっちゃんの事情ってなんなの?」
「話の流れ、おかしくないですか?」
「そっかな?」と首を傾げる。
クロの話が終わったからりっちゃんに戻っただけなのに、ジト目されるし……蔑ろにしたつもりはないのに不思議。僕が空気を読む気ないことは認めるけど、そこまで問題視されるような言い方したかな?
「いいです」
「そう?」
「ただ、家の事情ですので……大先輩には関係ないかと……」
「僕は、りっちゃんのことを家族だと思ってるよ?」
「ひゃう!!」
一つ屋根の下で一緒に過ごしているのだ。家族だと考えてもいいはずなのに、りっちゃん凄く嬉しそう。それに対して寒奈さんは苦虫を噛み潰したような表情をしている。何かを言うことは無いけど、一言口にしたいと顔が訴えている。
言いたいことがあるなら言えばいいのにと考えながらも今はりっちゃんのターンだからこれが終わってから聞くことにしよう。
そのうち寒奈さんにターンが回るだろうしね。
「でっですけど、それは……あの」
「りっちゃん」
「はい」
「しーりーたーいーなー」
「ムードを破壊するのを止めて欲しかったです」
あっ瞳から光が消えた。
ちょっと駄々っ子風に言ったのは失敗か〜
次の僕は、きっとちゃんとすることだろう。隅で丸くなってイジイジ。クロ可愛いよ。クロ〜
「あの、大地、くん?」
「大丈夫です。いじけているだけですから」
「はぁ」
「それより、覚悟を決めました」
覚悟。覚悟ってなぁにー?
僕は混ざらない方が話が前に進むの? 僕っておじゃま虫なのかなーイジイジ。
「チラチラこちらを見て、構ってほしそうですよ?」
「無視でいいですよ。はい」
りっちゃんに断言されてしまい。僕は会話に混ざれなくなった。
悲しいな〜
ねぇクロ〜イジイジ。
「にゃう!」
怒られたよぉ〜うわーん。