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32 涙の理摩

「たっだいま〜」

「にゃー」


ようやく帰りついた。

時刻は八時を過ぎていて外は真っ暗。今日は見回りに参加しなくてもいいようだが、杏さんの拒絶が凄すぎて今後どうなるのか分からない。なし崩し的に参加しないことになりそうな気配すらある。


それはそれで困るのだけど、当人が嫌そうだからなぁ。


「大先輩!!」

「あっりっちゃん〜」

「バッカー!!」

「ぎゃふ」


頬をフルスイングの平手が襲う。

強烈な一撃に空中を三回転してから床を転がり、壁にぶつかって止まる。

クルクルと目を回す。痛みはあれど、この程度であれば数分で引くことが分かっているのでクラクラとする頭を支えながら立ち上がる。


「どうしたのさぁ〜」

「心配したんですよ!!」


瞳に涙を貯めながら必死に叫んでいる。

本気の心配を感じ取り、頬をかいた。

夜の散歩に出掛けて帰ってこない僕のことを真剣に心配して探していたのだろう。僕自身ずっと寝ていただけなので何も言えないのだけれど、りっちゃんにとっては関係のないこと。

必死に連絡を取ろうとしたけど通じない。やっと来た連絡も簡素過ぎたから余計に心配させたのかもしれない。

やっぱりすぐ帰るべきだったなぁ。


「ごめんね」

「許しません」

「ごめんにゃさい」

「ふざけてますか!!」


クロを眼前まで持ってきて頭を下げるのはお気に召さなかったみたいだ。ふざけてる訳ではなかったけど真剣であったつもりもない。

難しいところである。


「もう。どうしたら許してくれるの?」

「あと二発」

「いいよ」


クロを床に下ろし、両手を広げて受け入れる体勢を取る。それで気持ちが収まるのであれば、何発でも受ける所存だ。

ジーッと僕を見つめ、何を思ったのか工作で使うベニヤ板を数枚重ね、殴りつける。

一瞬で弾ける拳くらいの高さまで重ねられたベニヤ板。それがどうしたのかと首を傾げた。


「怖くないんですか?」

「なにが?」

「理摩は、こんな風に殴れます。それなのに、怖くないのですか?」

「りっちゃんだもの。怖くないよ。さっおいで」


構えるりっちゃんに一歩近づく。

どのくらいの距離がいいのか分からないから、近づいて止めてくれるのを待った。

距離が縮まる。止める気配がないのでどんどんどんどん近づき、体が触れ合えるくらいまで近づいてしまった。

それなのに、殴ってこようとしない。


不思議だった。どうしようかと考え、とりあえず抱きしめた。


「えっ?」

「大丈夫。僕はちゃーんと、帰ってくるから」


震える体と頭を撫でて上げれば、服に水滴が着くのを感じた。

りっちゃんの涙を受け止めながら、優しく撫で続ける。


僕に出来ることは、それだけだった。


「ただいま」

「おがえり、なざい」


りっちゃんの涙が止まるまで、抱きしめるのをやめない。

満足するまで、ずっと、ずっと……


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