29 杏のベッド
「じゃ、ご飯も食べたし帰るね」
「にゃー」
食器を洗い、一段落してから腰を上げた。
ここで一日のんびりするのも悪くは無いけど、寒奈さんの家を我が物顔で占領するのは間違っている。あっちはあっちでりっちゃんの家。居候の身だからのんびりするのは違うような気もするけど、当人がそうしてくれと望んでいるので羽を伸ばしている。
んーなんだか、傍から見たら爛れた女性関係を築いてる?
特に何もしていないのに不思議な話だ。
「待ってください」
「んー送ってくれるの?」
「違います。当主様が会いたいそうです」
「僕に?」
「はい」
返事をしながらも、視線はクロを向いていた。
僕はおまけで、クロに会いたいのかもしれない。クロって凄い猫だから当主様も気になったのかも!!
「クロ。どうするー?」
「にゃー」
頷くから行ってもいいということなのだろう。
それならば行く以外に道はない。不思議たっぷりの如月ハウス。前は雨で道中周りを見てもよく分からなかったけど、今は快晴だ。周囲の景色も楽しみながら向かうとしよう。
「では、こちらです」
玄関の扉を開ける。
その先は……
「あっれ〜?」
外ではなく。屋敷の中であった。踵を返して窓から外を確認しようとすれば、寒奈さんに手を握られて屋敷へと引きずり込まれる。そのまま扉は閉まり、確認の機会を逸してしまう。
「う〜」
「はい。こちらです。服は気にしないそうですので、そのままで」
「寒奈さん。酷い」
「どうぞこちらです」
素っ気ない態度で案内する。
同じ人なのにまるで別人みたいな姿に唇を尖らせる。
「にやー」
ペシペシと尻尾で腕を叩いてくるので尖らせるのを止める。不機嫌そうにツーンとしているので、クロはクロで行きたくない様子。
頷いたから問題ないと思っていたが、実際は仕方ないが前に来た頷きだったのかもしれない。
何か理由があるのかな?
「こちらへ」
前とは違う部屋へと案内される。
不思議に思って中に入れば、そこにあるのは巨大なベッドだ。天蓋もついててかなり豪華な仕様。
クンクンと匂いを嗅ぐが、犬じゃないから誰の匂いがあるのか全く分からない。乱れた掛け布団から誰かが使っていたことだけは確かだけど、それが誰なのかは検討もつかない。
「えーっと?」
「寝てください」
「????」
意味不明なことを言い始めた。
明らかに他人のベッド。多分了承も得ていないはずなのに、寝てくださいなんて言い出すとは思わなかった。
「あの〜当主様に会うんじゃないの?」
「はい。なので、寝てください」
視線を逸らしながら言われても困っちゃうんだよなぁ。
寝てたら僕は会話出来ないし、見ることも出来ない。触れ合いタイムがゼロになるのは嫌だな〜
「クロ〜どうするべき?」
「にゃー」
ぷいっと視線を逸らされる。
こっちに話を振るなってことなんだろうなぁ〜
「んー寝ないとダメ?」
「はい。杏様のベッドで寝てください」
「あーいいの?」
「命令ですので、従うかと」
上からの命令は絶対かぁ〜
大変だなぁ〜と思いつつも体はベッドに吸い込まれる。
いいのかなぁ〜なんて思うけど、なんだか引き寄せられるようにベッドで横になる。
心臓は早鐘だ〜ドキドキして目を閉じても寝られない。
「う〜寝れないよぉ〜」
さっき起きてご飯を食べたばかり。寝ろっていう方が難しい。
クロを胸に置いているけど、効果ない。欠伸をして眠そうなクロだけが寝る気がする。
「寒奈さ〜ん」
「では、わたくしも横で寝かせていただきます」
「添い寝? わ〜い。りっちゃん最近嫌がるから嬉しい」
「…………やっていたのですか?」
「うん。りっちゃんの家。ベッドが大きくて寝付けなかったから一緒に寝てもらったんだ〜寝相がどうとかで嫌がり始めたけどね」
んー翌朝寝坊することが増えたり、真っ赤になってたりするからりっちゃんに何かしているかもしれない。でも、寝ている時だから全く分からないんだよなぁ。聞いてもはぐらかされるし、何なんだろうな〜
「…………」
「あれ、なんで出ていくの〜?」
「少々、心の準備がありまして……」
寒奈さんの顔が赤い。
変な想像でもしたのかな?
うーん?
「はい。失礼します」
「じゃあ、目を閉じるね。おやすみ〜」
「おやすみなさい」
ガチガチに緊張してる。
まるで結婚初日のカップル?
結婚したことないから想像でしかないけど、今から一勝負ありそうな緊張感。
僕、寝れるのかな?
目を閉じたまま寒奈さんを感じる。
そのまま、意識は遠のいていった。




