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25 黒い女性

大地が眠りにつき、倒れる体を寒奈が抱きとめた。


「えっ、いきなり……なん、ですか?」


突然の事態。

困惑を強く表に出しながら、脱力しきり重くなる大地をゆっくりと地面に寝かせる。膝枕しながら呼吸を確認すれば、寝息が聞こえる。


ただ、寝ているだけ。それにはホッと胸を撫で下ろす。


「ですが、なぜ?」

『大地はやっぱり寝てる』

「えっ?」


ノイズ塗れの声。なのに、スっと耳に入って来たことに驚き、大地から目を離す。

クロが居たはずの場所に女性が立っていた。

全身を黒に覆われ、闇に溶け込んでいるせいで寒奈の反応は遅れる。

ゆっくりと視線を動かし、グラビアアイドルさながらの肢体をした女性を見つめる。

見たことはない。なのに、どこかで見たことがあるような不思議な感覚が胸中を駆け巡る。


「っ!!」


寒奈が最初にした行動は、大地に覆い被さることだった。

我が身よりも大地を守ろうとしたのである。寒奈の日常が、危険であると判断したのだ


『安心していい。クロは味方。大地が寝ている時にしかこうして活動出来ない』

「クロ、さん?」

『そう。クロ』


視線を合わせる。

目と目が合えば、瞳が猫のものであることがよく分かり、頭をしっかりと見れば、ぴょこぴょこと猫耳が動いていた。

腰まで届く長髪に隠れて尻尾が動いていて、それらは作り物ではない挙動をしていた。


『まずはあの猫たちを黙らせる。話は後』

「はっはい」


人と同じ手をしたはずなのに、軽く動かすと猫に似た手に変わり、飛び上がる。爪を伸ばして一閃し、無数にいた猫又たちを切り裂いていく。


それなのに、猫又たちをは血を流すことは無く。バタバタと屋根の上に倒れていく。


「なっなんじゃ!?」


猫又に襲われていた杏が狼狽する。

唐突に現れた人物に敵を全て刈っ攫われたのだ。仕方がないところである。


宙を舞うような軽やかな動きで猫又から何かを奪っていくクロは、最後の一匹からそれを奪い去ると手を人間の物に戻して寒奈の元へと戻る。


『終わった。大地は無事?』

「はっはい」

『話をする。だから、安全な場所を教えて。あの、吸血鬼もどきとは話したくない』

「杏様のことを……」

『知ってる。多くを知ってる。だから、早く』

「なら、わたくしの家へ……」

『分かった』

「まっまつのじゃ!」


屋根から飛び降りる杏。

それよりも早くクロは大地と寒奈を抱き抱えて空へと飛ぶ。宙を丸い塊が着いてくる。寒奈はその塊に疑問を抱きながらも行くべき方向への指示を優先した。耳には「もどらぬか!!」と怒鳴る声が聞こえてはいる。聞こえてはいるけれど、無視することに決めた。

寒奈の主人はあくまで由埜であり、杏の命を受けるのはそうするように指示されているからだ。今回は、杏の命よりも由埜に情報を持っていくことが重要であると判断したからこそ無視することが出来た。


だからといって胸が痛まない訳では無い。由埜の判断次第ではこれから先どうなるのか検討もつかない。


「はぁ」


由埜が機嫌を悪くしたが故に大地に想いを伝えられずにズルズルと年月を過ごしたことを思い出せば気が重くなる。


小学生、中学生に恋は早いと断じられ、優秀な成績と実績を残すことが出来れば高校で告白を許すとされた。そのためにあらゆる誘惑を断ち切り、成績学年一位をキープしながら生徒会長として実績を残してきたのだ。

大地が高校生になり、ようやく告白出来るようになったのに……今の状況。杏に僅かな嫉妬心はあった。あったけれども、あれだけ嫌っている。嫌がっている姿を見せられたら嫉妬心も消え失せる。大地が他の人の好意に気づきさえすれば、チャンスは幾らでもあるのだと信じているのだ。


「ここです」

『分かった』


幾度か回り道を繰り返し、ようやく辿り着いた我が家に寒奈は迷っていた。

ここまで来てなんだが、本当に中へ入れてもいいのか不安になったのだ。


大地が起き上がって襲ってくることを想像しているわけではない。かと言ってクロに攻撃されることを恐れているわけでもない。


強いて言うならば、部屋を見られることを畏れていた。


自分の部屋を思い出す。汚いわけではない。掃除はちゃんとしている。

築百年を超えるオンボロアパートに住んでいるからでもない。女子高生一人暮らしするには不向きであることは重々承知している。セキュリティの面で心許ないように見えるのも仕方がないだろう。しかし、色々と工作しているために高級マンションよりもセキュリティは万全であるので問題はない。


チラリとクロを見る。

無表情で何を考えているのか不明。下手なことをしたら危ないことは目に見えているので寒奈は大人しく鍵を開けて中へと招き入れた。


初めて人を招く。不安で胸がドキドキしている。心臓が逃げ出しそうなくらいな高鳴りを必死に押さえ付けながら先導する。


「ここが、わたくしの部屋です」


クロに全てを見せた。


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