21 親戚
りっちゃんが外行きの服に着替えてやって来たので一緒に外へと出る。
久しぶりにメガネを外した姿を見せてくれた。部屋の中だと全然外さないからなぁ。外だとコンタクトを着けているのだろうけど、瞳を見ても分からない。
触れば分かるだろうけど、さすがになぁ。目を怪我するかもしれないから遠慮している。
「どうしました?」
「ううん。何でもないよ〜それにしても、気合い入ってる?」
「そう、ですか?」
カジュアルながらも可憐さが滲み出るファッションで、夜に出歩く姿としては似つかわしくない。
これからデートに行くのであればピッタリなんだろうけど、これってデートになるのかなぁ?
「クロはどう思う〜」
「にゃー」
少し先を行くクロは軽く返事をするだけで解答する気はないようだ。
そもそも、会話が出来ないのでどうしようもない。闇に紛れて見失わないようにライトだけはしっかり照らしておこう。
「大先輩の家は久しぶりです」
「まー行かないよね〜そもそも、買い物以外出ないでしょ?」
「買い物だってネットですよ?」
「そっか〜」
そこまで家大好き少女になっていたのか〜
一体どうやってお金を稼いでいることやら。
「なら、外に出ないんだね〜」
「大先輩が連れ出してくれるなら、出ます」
「なら、また散歩しよーねー」
「…………はい」
不満げな返事だけど、出る気になったのかな?
りっちゃんとクロの散歩をしたらきっと楽しいはずだしね!
またさーそお。
周囲を見回す。
昨日はまるで人が居なかったけど、今日は割と出歩いている人が居る。車も多い。結界が無ければこんな感じなんだろうなぁ。昨日が異常だったんだね。異常の中に居られたことに感謝しないと!!
「ありがたやーありがたやー」
「何に感謝してるんですか?」
「昨日の異常に」
「そうですか」
ぷぅと頬を膨らませてスタスタと先へと進んでいく。また何か怒らせた雰囲気にポリポリと頬をかいた。
別に怒らせたいわけじゃないんだけどなぁ。
「ちょっと、そこの二人」
「ふぁい?」
「この声……」
振り返れば、美人さんが居る。
そして、その顔はよく見かける顔であった。
「あれ〜さつき先生?」
「はぁい。問題児くん。今日は何をやらかしているのかしら?」
「何もしてないよー家に帰るところ〜」
出会ったのは保健の先生の木渡さつき先生である。問題児と呼ばれるようなことは特にしていないはずなのだが、なぜかそう呼ばれている。
不思議だよなぁ。他の先生からも呼ばれているから、先生たちの間では共通認識なのかな?
ジロジロと僕たちを観察しているさつき先生は、りっちゃんのところで視線を止めた。
「ふぅん。女の子を連れて……えっ?」
「や、その……」
「どうしたのー?」
何やら互いの顔を見て固まっている。
何が何やらさっぱりなんだけど、どうかしたのだろうか?
もしかして、知り合いだったりするのかな? それも、会いたくないタイプの。
「あらあら、理摩ちゃんじゃない。久しぶりね」
「そう、ですね。はい」
「なーによ。会いたくないみたいな返事をして。最近は実家にも顔出さないあたしも悪いとは思うけど、別に嫌悪されることないと思うわぁよ?」
「別に、さつきさんが悪いわけじゃ、ないです。はい」
コソコソと僕の後ろに隠れる。返事も何だか変だ。
よっぽど苦手なのかな?
悪い先生ではないはず。色んな意味で危ない先生ではあるけれど……
「まあいいわ。先に言っておくけど、連れ戻すようには言われてないわよ。家出少女の理摩ちゃん」
「……」
「へー家出してたんだぁ〜知らなかったなぁ〜」
「あら、そうなの?」
「うんうん」
お金持ちで僕を養えるだけの稼ぎを何らかの形でしていることは分かっているけれど、家出をしているのは知らない。
家出してるから家大好きっ子になったのかなぁ?
知り合いと会いたくないから出たくないとか?
うーん。分かんないや。
「ふふっ理摩ちゃんにも色々あるのよ。当主様に色々と問題があったわけだからね。それさえなければ、もっとのびのび育ったはずなのにね」
「言わないで、ください」
「はいはい。デートを邪魔して悪かったわね。でも、遊んでいられるのも今のうちよ?」
「…………」
ウインクしながら軽く口走る言葉に返事はなく。ただ項垂れるだけだった。
りっちゃんにはりっちゃんで大きな使命があるように思える。それは別にいい。僕の感知する所ではない。
でも、だ。
「うにゅー」
「ひゃう。ふぁにふぅるんふぇすか!」
両頬を横に引いて顔を近づける。
喋り辛そうながらも文句を口に出来るだけマシだろう。
「笑顔笑顔。笑顔が大事だよー」
「強引ですよ。まったく」
「ふふっ。楽しそうね」
「楽しいよーだから、いじめちゃダメだよー」
「あらあら、あたしが悪役かしら? 仕方ないわね。今日は見逃してあげるわ。次は補導するわよ?」
「はーい」
さつき先生が去っていく。
ホッとしたようなりっちゃんが僕の背中にすがりついて泣いていた。
声を殺して泣くりっちゃんを待ちながら空を見上げる。
誰しも、隠したい過去。知られたくない疵があるんだなぁ。
僕にも、それがあるのだろうか?
今は分からない。自分のことなのに理解していない。
でも、いつの日かその疵を見せられる時が来るよう……そんな気がしている。




