12 帰宅
「クロ〜ありがとう〜」
夜散歩でこんなに興奮したのは初めてかもしれない。クロに頬擦りすると迷惑そうに押し返されてしまう。
「その子のお陰だとしても、どうやって入り込んだのですか?」
「しーらない」
「あくむじゃあくむなのじゃ」
なんだかカタカタ震えてるけど大丈夫かな?
まるで僕が悪魔みたいじゃないか〜褒め言葉だね。
「杏様は置いておいて大丈夫ですよ。色々問題のある人ですから」
「そうなんだ〜」
目がキラキラと輝いてしまう。
問題があるなんて楽しそうで仕方がない。もっと一緒の時間を過ごしたら凄く楽しいだろうなぁ。
このまま家まで連れて帰ろうかな?
「にゃ!」
「クロが怒ったー」
手の甲に引っ掻き傷が出来てしまった。うっすはと血も出てるし、珍しいなぁ。
本気で怒らないと爪を立てないから、拉致しようと考えたのがバレたのかも。りっちゃんにも正座で怒られそうだからやらないと思うけど……分かんないや。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫〜このくらい唾付ければ治るもの。杏さん舐める〜?」
「やめるのじゃ。そんなかぐわしいものをちかづけるでない」
「香しい?」
首を傾げる。
血に対して香しいなんて表現を使うのは初めてだ。やっぱり面白いな〜なんとかして友達関係から始められないものか。
「治療しますから、手を出してください」
「にゃ」
何故かクロの前足が寒奈さんに向けられる。爪は立ててないからお手状態で差し出される前足に困惑したような笑みを浮かべる。
「あの、クロちゃんではなく。大地くんの手を出してくれませんか?」
「にゃ」
クロは譲ろうとはしない。
所有権は自分にあると主張しているようである。独占したがりなのも可愛いなぁ。
「うりうり〜」
「にゃ! にゃん!」
お腹をモミモミしたら怒られた。
むう。ちょっとした愛情表現だったのに〜
「そう言えばさーあの猫はいいの?」
「問題ありません。今頃、別働隊か捕獲していますから」
「そっかーまた会えるかな?」
「無理ですね。と言うよりも、わたくしたちが会わせませんので」
にこやかに断じられてしまう。
どうやら、僕の幸運はここで終了らしい。せっかく会えたのに勿体無いなぁ〜
せっかくだから、クロとどっちが撫でごたえあるのか比べたかったのに。
「あねじゃ。そろそろいこうぞ」
「そうですね。向こうも捕獲完了したようですし」
「分かるのー?」
「はい。聞こえますから」
耳にイヤホンなどを付けている様子もないから、昔のあだ名みたく地獄耳で聞いたのだろう。どんな小さな声も聞き逃さないために辛い思いをしていたみたいだけど、今はちゃんと付き合えてるんだなぁ。
きっと、凄い努力をしたんだと思う。寒奈さんは凄いな〜
「抱きしめてもいいかなー?」
「ふぇ!?」
あれ、何だか変な声が聞こえた。
真っ赤な顔の寒奈さんが目に入る。何か変なことでも言っただろうか?
「あのあのあのあの、それは……なんで、ですか?」
「寒奈さんが凄いから〜」
「凄くはないですよ。やるべき事をしただけです」
あせあせと乱れてもいない髪を何度も梳いていく。
少し嬉しそうにしているのが印象的だ。喜んでくれるなら、やってもいいかなとクロを抱いたまま寒奈さんに腕を回す。
「にゃ」
クロの両前足が寒奈さんの胸に沈み、抱きしめる前に動きを止めてしまう。近づこうとしても胸に前足が沈み、前に進めないようにしている。
「クロ〜邪魔しちゃメだよ〜」
「にゃ」
ふにふにと胸で足踏み、後ろ足はだらーんとしたままだからプラプラと揺れている。
「あっ、んっ」
変な吐息を漏らしながら身悶えしているので距離を取る事にした。どうやらクロを抱いたままでは抱きしめるのは無理らしい。
「ごめんね〜」
「いえ、大丈夫。ですよ」
胸元を押さえながら寒奈さんも距離を取る。揉んだのがクロでよかった。僕だったらきっと頬にモミジを作ってたかもしれないものね。
「あねじゃ〜」
「分かりました。今日は帰りましょう」
「じゃあ僕も帰ろうかなぁ」
「ことわるのじゃ!!!!」
怒声と共に杏さんは屋根伝いに掛けていく。
とんでもない身体能力だなぁ。いつもは寝ているし、体育の時間は見学しているから知らなかった。
「追わなくていいの〜?」
「わたくしには、あんなことは出来ませんので。大地くんを送ってから回収します」
「じゃあ、手を繋いで帰ろー」
抱きしめられなかった代わりに手を差し出すと、何故か恋人繋ぎされた。キョトンと首を傾げたけれど、それを止めるつもりはないようでチラチラとこちらを伺っている。
クロは忌々しげに睨んではいるが、抱っこしているせいで届くことはなく。プイッと顔を逸らすだけだった。
よく分からないけど、いいか。
「じゃあ、行こ〜」
こうして、クロとの刺激的な夜散歩は幕を閉じた。
明日も楽しい一日になるといいなぁ。




