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11 猫

「うまくにげたようじゃな。これなら、かいしゅうはらくじゃの」


ホッとしたような声が耳元に届く。かなり距離が離れているはずなのに、問題なく届く理由はきっと彼女にあるのだろうと考えている。

なにせ、僕は何も持たない一般人。不思議を追いかけることが趣味ではあるけれど、それに対抗する術なんて持たない脆弱な高校生だ。

いつかは不思議に殺されることだろう。


「にゃ。にゃにゃ!」


ペシペシと頬に猫パンチを貰う。

まるで私が居るのにおかしなことは考えないで言いたそうな攻撃だ。こんなことされるのならば僕は簡単には死ねないなぁ。


「さて、そこのひと。いまいくのじゃ」


ふわりと宙に体を投げ出すと、ゆっくりとした動きで着地する。

大仰な態度で着ているマントをはためかせると視線をこちらに向けてきた。


「学校ぶりー」

「なんでおぬしがおるのじゃ!!」


驚愕を隠しきれていない杏さんが目を見開いた。

さっきまでよく見えなかったが、体の線を際立たせるような際どい服装だ。防御力が低そうで、お腹とか、胸元とかが大胆に開かれている。マントを着てはいても正面に立ったら色々と見えてしまって目のやり場に困る。唯一の救いは、杏さん自身の肉付きが良くないので淫靡さはゼロであるところだろう。小学生が無理をしてエロを出そうとしましたと無い胸を張っている感じだ。興奮するね。


「にゃ」

「わわっ。危ないよ〜」


腕を登って目を前足で押さえようとするクロ。すっごく不機嫌そう。なんでなのだろうか?


「あねじゃ! あねじゃ!」


マントで身を隠しながら必死に誰かを呼んでいる。

あねじゃ?

そう言えば、昼間もそんなことを言っていた気がするけど相手は確か寒奈さんだよね?

でも、こんなところに来てるのかな。人通りなんてどこにもないけど……


「どうかしましたか杏様。あれ、人が居ますね」


街灯に照らされてないのと、月が雲に隠れてしまっているせいで僕の姿がちゃんと見えていないようだ。

僕は寒奈さんの姿がちゃんと見えているのにおかしいな。夜の闇に目が慣れているからなのかな?


「杏様。よろしいですか?」

「はよう。はよう」


何故か物凄く恐れられている。僕が何をしたと言うのだろう?

普通のスキンシップしかしていないのに不思議だ。本当に不思議がこの世の中には溢れてるなぁ。あんまり、そっちの不思議は求めていないけど。


「あれ。大地、くん?」

「見えてるのー?」

「はい。見えていますよ」


杏さんと手を繋いだらいきなり見え始めるなんて、ビックリだ。何かのマジックなのだろうか? それとも他の要因?

全く分からないけど。今の状況を教えてくれるかもしれない。


「どうして、ここへ?」

「クロと散歩してたんだ〜クロ。挨拶!」

「にゃ」


クロを捕まえて両手で前に示すと、明らかに不機嫌そうな顔でそっぽ向いている。何がそんなに気に入らないのかな。それとも、怒ってる?


「よろしくお願いしますね」

「にゃ! ふしゅー」


撫でようと伸ばされた手を払うかのように前足を動かした。いつもは出さない爪を出しながらプラプラ揺れて威嚇している。


「ダメだよ〜」

「にゃう」


怪我されても困るので胸元に引き寄せる。

まるで初めてりっちゃんに、会った時のようである。あの時は、ライバルが登場したかのように怒ってるたものだ。

ご飯食べたら大人しくなったからお腹空いてたのかな?


「ごめんねー」

「いえ。大丈夫ですよ。傷が残りましたら、責任を取ってもらうだけですので」

「責任かー」


クロにどうやって責任取ってもらうのだろうか?

にこにこしている寒奈さんの思考が理解不能だなぁ。クロは何かを悟ったのか大人しくなったし。落ち着いたとみていいのかな?


「まぁいいや。それで、二人は何してるのー?」

「あねじゃたのむのじゃ」

「分かりました。説明しますね」


にこにこ顔に苦笑が混ざる。

僕に対して怯える杏さんが原因なのだろう。何でそんなに怯えているのか。いつか話してくれたらいいなぁ。


「わたくしたちが、ここに居る理由は……」


笑顔を止め、真剣な眼差しを向ける。僕は聞き漏らすことのないように。静かに襟を正したのであった。


「先程の猫です」

「にゃーん?」


クロを片手に抱いて猫の真似をしてみる。

何故か凄く嬉しそうに両手を口元に当てる寒奈さんだけどこの動作気に入ったのかな?


「この周辺に人払いの結界を敷き、先程の猫を捕獲するために動いていました」


コホンと、咳払い一つしてから続きを教えてくれる。

でも、である。


「人払いの結界?」

「はいそうですよ。一般人が入れないようにしていました」

「僕。一般人?」

「それが疑問なのです。どうやって入り込んだのですか?」

「クロに着いてきたー」

「にゃーん」

「そう、ですか……」


なるほどなぁ。人が居なかったのってそのせいか〜

じゃあ、クロが特別なのかな?

でも、クロはクロだしなぁ。


「クロ〜クロのお陰?」

「にゃーん」


ぷいと顔を背けられた。

答えは分からず仕舞いである。

でも、人が居ない理由が分かってよかった。不思議体験も出来たし。最高の散歩だね!

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