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9 夜散歩

「むぅ」

「珍しくむくれてますけど、どうしましたか?」


クロを撫でながら頬を膨らましていると、呆れた様子のりっちゃんがお茶を準備してくれる。

晩御飯を少し前に食べ終えたばかりだが、今日は味をあまり思い出せない。

全部、ぜーんぶ。俊樹たちが悪い。


「俊樹たちを尾行しようとしたら逃げられた〜」

「なにやってるんですか。本当に」


なんで撒くかなぁ。

僕は、ほんの少し如月杏さんの家を見たかっただけなのに……

隠れてコソコソと帰るなんて酷すぎる。急いで追いかけようとしたら俊樹に邪魔されて、なら俊樹を……なんて考えたらいつの間にか居なくなってるし。もう!


「俊先輩の家には行ったんですか?」

「行ったけど、留守だった〜」

「あそこも忙しいですからね」


訳知り顔でお茶を飲んでいるりっちゃん。何かを知っていそうな雰囲気ではあるけど、きっと教えてはくれないのだろう。

もう。なんでみんな僕に隠し事をするんだろう。酷い。酷すぎるよぉ。


「そんな拗ねないでください。大先輩を巻き込みたくないだけです」

「僕が! 巻き込まれたいんだよぉ」

「だから言わないんですよ」


ため息まで吐かれてしまった。

むぅ。なんでだろう。そんなに危険なことをしているのだろうか……

分かんないや。


「クロ〜」

「にゃぁ」


クロは僕の腕からすり抜けると、出入り口をパンパンと叩いてこちらを向いた。


「にゃ」

「はーい。じゃあ、僕達行ってくるねぇ」

「遅くならないでくださいね」

「はーい」


ひらひらと手を振られるのを確認してから外へと向かう。

クロの夜散歩は初めてのことでは無いので慣れてしまったようだ。最初の頃はこんな時間に出歩くなんてダメだと酷く反対されたものだが、回数を重ねれば変わるものである。

諦めている。とも言えるけどね。

ともかく。部屋着のまま外へと飛び出し、携帯のライト片手にクロの後をのんびりと追いかける。


頭のいいクロは、僕を振り切って先へは行かない。時折振り返り、歩く速度を変えながら長い尻尾をフリフリして機嫌良さげに歩いていく。

夜だからなのか、人の通りは少ない。繁華街から離れてはいるが、マンションが多く立ち並ぶ一帯で、九時頃にこんなに人が居ないのは珍しい。

いつもならば、少ないながらもコンビニ帰りや仕事帰り。塾帰りなどで歩いている人を見かけるのに……なにかあったのかな?


「にゃあん」

「はいはーい。遅いねーごめんね〜」


自然落ちてしまったペースに、クロが不満を上げる。

気にはなるけど、今はこっちに集中することにしよう。そうしないとクロが拗ねちゃうからね。


「今日はどこに行くの?」

「にゃ」


短い返事。

猫の言葉は分からないけど、何となくの解釈によれば「着いてくれば分かる」だと思う。

毎回こんな感じなので、特に気にはしない。猫の案内で散歩するのも悪くは無い。それに、クロは人が通れない道は選ばないので追いかけるは比較的楽なのだ。

他の野良猫追いかけた時には、塀を上り、柵を潜り、道無き道をズンズンと進んでいくので大変だった。


猫又。見つからなかったなぁ。


「にゃん」

「ふにゃーご」

「にゃ」


機嫌良く歩いてると、体格のいい猫が近くを通りかかり威嚇をするのだが、猫パンチ一発でノシてしまう。

わざわざ出てこなければいいのに。

そんなことを考えながらクロの後をついて行く。その先々で野良猫と遭遇し、猫パンチをしてからフィッと去るを繰り返す。もしかしたら、野良猫を探しながら歩いているのかもしれない。ここは自分の縄張りだと主張したいのかな?

誇らしげに歩くクロが可愛らしく見えてくる。尻尾フリフリで機嫌も良さそうだ。野良猫との会話でいい事聞けたのかもしれない。

楽しそうにしているのが一番だ。


「にゃ」

「どうしたのー?」


唐突にトコトコと引き返してきて抱っこを要求してくる。

首を傾げながら腕を広げて腰を落とすとピョンと飛び込んできた。


「にゃーん」


耳元で鳴かれ、よしよしと撫でる。

いつもはこんなことしないのにどうしたんだろう。人がまるで歩いていないことと何か関係あるのかな?

分からないまま、帰路に着くために方向転換する。


「ふにゃ」


闇夜の中で、特別大きな猫の鳴き声が聞こえた。

なんなんだろうか?

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