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秋の話 14


 神友祭翌日、教室内は昨日の片付けをしているためか、のんびりとした空気に包まれていた。麻中や冬木たちも変わった様子は見られず、三咲は一人安堵する。


(良かった……)




 狐騒動の後、冬木たちの意識が戻る前に麻中だけを運び出し、家庭科室に運び込んだ。擦り傷が何か所か見られたものの、大きな傷はなく、ひとまず胸をなでおろす。

 一旦亘理は席を外し、三咲はひとり麻中の目覚めを待った。


「……ん」


 並べられた椅子の上で目覚めた麻中は、最初自身のいる場所が理解できていないのか、うつらと周囲を眺めていた。三咲の姿に気づくと、は、と目を丸くする。


「みさきち! えっ、ミスコンは?」

「え、ええと、なんとか終わったかな……!」

「そーなんだー! 良かったー!」

「よもちゃんは大丈夫?」


 え、と首を傾げる麻中。


「うん。……ってか、なんであたし家庭科室にいるんだろ?」

「あ、え、そ、それは……」

「てかやば、そろそろあたしシフト交代だ。行ってくるね!」


 先ほどまで味わった恐怖をすっかり忘れているのか、麻中はにかと笑うとそのまま家庭科室を出て教室に行ってしまった。呆気に取られていた三咲のもとへ、出かけていた亘理が戻ってくる。


「あっちはみんな意識が戻ったみたいだよ」

「あ、うん、こっちも大丈夫そう」

「そっか、良かった」

「氷坂が戻る時、処理はしていくって言っていたけど、こういうことだったんだね」


 聞けば、冬木たちも麻中と同じような状態だったらしく、目が覚めても特に驚くことなく、首を傾げていたという。

 おまけに麻中たちを拘束したあたりから殴り飛ばされたところまで、綺麗に記憶が無くなっているようだった。


 先ほどの麻中も、倉庫に入る前位からの情報の一切が消えているようだったし、一騒動の部分だけが綺麗に無かったことになっているようだ。

 狐の力とはこんなこともできるのか。






「……尾崎さん」

「へ、あ、はい……」


 昨日の騒動を思い出していた三咲に、突然かけられた声。慌てて振り返るとそこには冬木たちがいた。思わず身構えるが、どうも普段と様子が違う。


「あの、ミスコンのことだけど」

「みす……あ、はい」

「……ごめん」


 一瞬フリーズした。

 ごめん。ごめんとな。

 冬木の口からごめんとな。


「あたしがさぼったから、尾崎さんに迷惑かけたって聞いて。……それだけだから」


 ふいと身を返し、離れていく冬木に様子に、秋武たち取り巻きの方が戸惑いを見せている。だが戸惑っているのは三咲も同じだ。


(一体何が……)


 どうやら冬木に憑いていた狐が消えた結果、彼女の中にあった悪意や妬みといった感情も一緒に浄化されてしまったようだ。三咲に対する態度がすぐに変わるわけではないだろうが、これから少しずつ彼女たちの中にある心情も変わっていくことだろう。

 いままでされたことを許す気にはなれないが、やり返すという気もない。

 むしろ麻中に悪意が向かなくなるのであれば、どんな状態でも構わない。


 三咲の心に一つ明かりが灯る。思わず笑みがこぼれた。


「おーい! そういえばミスコンの結果出たぞー!」

「えっ一位は誰なんだよ!」


 ほっとするのも束の間、突然の聞きたくないワードに、びくりと肩を震わせる三咲に向けて、麻中がきらりと目を光らせるのが見えた。

 いやない。絶対ないから。


「一位は―― ……えーと、」

「なんだよ、早く言えよ」

「……貴船亘理って、この学校いたっけ」


 三咲は持っていた発泡スチロール箱をぶちまけてしまった。


「いや聞いたことねー」

「なんでもリード役なのに会場投票でダントツだったらしくて、仕方なくこいつになったんだと」

「リード役ってことは男? ミスコンだよな?」


 私もそう思います。

 選ばれなくて嬉しいやら悲しいやら、複雑な感情を抱えていると、麻中が寄ってきては渾身の悔しさを吐き出していた。

 あの衣装と髪とメイクとこの顔で信じられない、とかなんとかいう彼女の声を聞きながら、蓮に聞かれたらなんと説明するべきなのかを三咲は考えていた。


 何も知らない亘理には、言わない方がいいような気がした。




 

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