優しい
「主よ、善なる神々よ」
古びた教会。
天井には穴が開いて光が降り注ぐ。
「私は今この時をもってここに誓おう」
砕けた硝子の破片が舞い、光を反射している。
壁に空いた穴から心地よい風が吹きつける。
「これよりこの身永劫の牢獄に置き去り」
神の祝福が空間に満ちる。
そこは神聖な場所、
そこは神聖な時間、
彼は神々の祝福を受けし人の子。
「すべてを呪い、すべてを壊し、この星に終わりをもたらそう」
瞬間、少年の頬を淀んだ風が優しく撫でつけた。
母親が赤ん坊に触れるような優しい風は、少年の天使の羽のような純白の髪を、太陽よりも眩しい金色に染め上げた。
まだ離れたくない、まだ側にいたいと主張しているかのように風は少年を包み込む。
暫くして風が止むと、少年は祈りのためについた膝を地面から離した。
少年が外に向かって歩き出す。
「神さま」
少年の目から涙がこぼれ落ちた。
この世界は、神さまは、あまりにも慈愛に満ち溢れ、優しい。
それが僕には残酷に思えて仕方がない。
だから、
「神さま、ありがとう」
僕を愛してくれて。
「ねえ、知ってる?」
「知らない」
「まだ何も言ってないでしょう!!」
「そうだね、何も言ってないのだから聞かれても知らないと答えるしかないよ」
それはそうだけど!と女の子が頬を膨らませる。
それを見た男の子は機嫌を損ねさせてしまったことを後悔した。
(コイツは不機嫌になると心底面倒くさい…)
だからといって機嫌をとるのも面倒だ。
ならばと男の子は話を戻すことにする。
「それで、何を知っているの?リーシャ」
するとリーシャは得意げに笑った。
「それはねぇ…」
ふふふと無邪気に笑い、リーシャは手招きする。
仕方なく男の子はリーシャの側に行き、耳を貸す。
「今日はね、貴方の誕生日よ!」
耳から顔を離したリーシャは嬉しそうにくるくる回った。
そう、今日は俺の誕生日だ。
だが、
「俺は騒がれるのが好きじゃない」
少し不機嫌そうな顔をした男の子を見たリーシャは、とびっきりの笑顔をする。
「知ってるわよ、そんなこと」
だからおじさんもおばさんも誰もあなたにおめでとうと言わないのよ、と優しく言う。
だから誕生日なんて嫌なのだ。
みんな優しすぎるから一年の間で最も気を遣わせてしまう。
だからといって俺が我慢して祝われていると皆それに気づいて悲しんでしまう。
よって俺は誕生日にはいつも朝早くから夜遅くまで外出しているのだ。
だが、こいつだけは、リーシャだけは毎年祝いに来る。
とてつもなく鬱陶しい。
でも、
「Happy Birthday!クロ!!」
と言って一年で最も嬉しそうにしてくれるリーシャは、自分にとってかけがえのない大切な人物だ。
俺は彼女がいたから今日まで12年間生きてこれた。
それだけよ、じゃあね!!と走っていくリーシャを見送る。
ああ、この世界はやはり
「残酷なまでに優しい」